森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

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森之宮家の三兄弟

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「君は、まだ若い。僕に比べたら、とても。すまない、もっと早く、離れたら良かった。離れられなかった。すまない。僕が悪い。君の傍にいたかった。離れたくなかった。僕のわがままだ。でも、終わりにしよう。君は何も悪くない。僕が悪いんだ。だから」
そんな顔をしないでくれと言われて、伊吹は今、自分がどんな顔をしているのかわからなかった。眼の前が滲んで揺れる。呼吸が浅くなってクラクラする。幸四郎は自分勝手に何を言っているんだろうか。伊吹は腹が立ってきた。
「年が、離れてたら、駄目なのか?ベータとアルファは、駄目なのか?」
「いぶ…」
「アルファは、オメガと…結婚しなきゃ、駄目か?ベータの男を好きになった俺は、駄目か?すぐイラついて、周りとうまくやれなくて、アルファなのに、全部、うまくできなくて、俺、駄目なのか?」
声が震える。ボタボタと涙がこぼれた。
「裕司、みたいに、家族が、作れない…咲也みたいに、なんでも、できない、開斗みたい、に、要領よくできない、俺、駄目、なのか?俺………幸四郎を好きじゃ、駄目なのか?」
呼吸がうまくできない。幸四郎は伊吹のそばに来て、伊吹の頭を抱いて胸に押し付けた。伊吹は短い呼吸を繰り返す。
「伊吹君…お父様と、ご兄弟と…比べることなんてないんだよ。君は、君だから」
幼い頃から周りとうまく馴染めず、友人が少ない。すぐにイライラが爆発して華を困らせる。就職も、父を頼ることになってしまった。森之宮製薬の名前を目にして苛立った。父は引き継いだ製薬会社をより業績を上げて存続させている。咲也は自分で会社を起こして働いている。開斗も自身の容姿を活かしてモデルをしている。なにもかも、伊吹は上手にできない。森之宮の、アルファなのに。
幸四郎に頭を撫でられて、駄目だと言ったくせに何をするのかと腹が立った。しかし、腕を振り払うことができない。伊吹は幸四郎の胸に顔を埋めて、子供のように泣いた。
一番拒否してほしくない人に拒絶された。
伊吹の頭の中は考えがまとまらない。こんなのは自分らしくないと思うのに涙は止まらない。
「伊吹君がいつも不安そうだったのは、きっと、お父様やご兄弟と比べて自分を卑下していたからなんだね。僕は、伊吹君はいつも、とても頑張っていて、優秀だと思っているよ。いつも真っ直ぐで、だから衝突してしまうことがあるのも事実だけど…僕は真っ直ぐで強い伊吹君が、いつも眩しく見えるよ。僕は…伊吹君が大好きだ。僕が大好きな人を、卑下してほしくないな」
「うっ、嘘だ…はなれるって、お、お前…っ…ほんとに、好きっ、好きなら、手放すかよ!」
伊吹は叫んだ。本当に久しぶりに感情が爆発した。伊吹は幸四郎の胸を殴りつける。幸四郎は伊吹を抱きしめたまま離れなかった。
「…そうだね、その通りだ……伊吹君。もう少し、考えて欲しい。こんなおじさんのこと、本当に、好きかな。僕は、今までのまま、友達でいたい。伊吹君に恋人ができてもかまわない。そばで、見ていられたらそれでいいんだ」
幸四郎は言葉を切った。今、どんな顔をしているのだろう。伊吹は顔を上げた。幸四郎はぐっと唇を噛み締めて辛そうな顔をしている。
「ほんとに、いいのか?俺が、別の、やつと」
「良くないよ。全然良くない。でも我慢する。伊吹君が、幸せならいい。伊吹君が笑っていてくれたら、それでいい。それが、一番いい。でも、もし……もし、僕を、恋人にしてくれるなら。ご両親に会わせてほしい。きちんとご挨拶をさせてほしい」
幸四郎は跪いて、伊吹の両手を握った。伊吹の方が先に幸四郎を好きだと言ったのに。幸四郎は再度、「もう一度良く考えて」と念押した。
伊吹は未成年ではない。相手が15歳上だとしても、ベータの男性だもしても。伊吹は伊吹なりに考えて出した答えだった。幸四郎が好きで、この先の未来も一緒にいたい。恋人にしたい。
華と裕司に会ってもらおうと、伊吹は頷いた。幸四郎が、望むなら。



伊吹編  END
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