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森之宮家の三兄弟
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「んじゃ、俺出かけるわ。オメガちゃん達と約束してるから。華にも言っとくね?いぶ兄、幸せそうだよ~って」
「だから、ちげぇって…」
「前ならさ、こんだけしつこくしたら、手に持ってるもんぶん投げてキレてたでしょ。穏やかになったのはその子のおかげじゃない?好きな人じゃなきゃ、なんなのよ」
伊吹は言い返せず、押し黙った。開斗はバイバ~イと軽快に去っていった。
幸四郎は伊吹にとってなんなのか。幸四郎にとって伊吹はなんなのだろうか。
何より、恋人と聞かれて真っ先に思い浮かんだのが幸四郎なのはなぜだろう。どうしてこんなに幸四郎のことばかり考えるのだろう。相手は15も歳上の、ベータの男性なのに。
首を傾げて固まること数分。自覚して伊吹は顔が熱くなった。
メッセージの通知音にスマホの画面を開くと開斗からだった。
『華に伝えたら泣いて喜んでたよ、おめ~。お披露目会の日付決まったら連絡するから予定開けといてね♡』
伊吹はスマホを布団の上に投げ捨てる。開斗のことだから全員が揃いそうな絶妙な日程を指定してくるはずだ。
そこに参加しないとなれば華が悲しむだろう。仕事を不参加の言い訳には使えない。こういう時、裕司は社長の権限を使って全力で伊吹が参加できるように仕向けてくる。なぜなら華の悲しむ顔を見たくないから。裕司の行動原理は華ただひとつだ。
自分だけが参加しても、華はがっかりするに違いない。別に、華のことは気にしなければいい。参加さえすれば義理は果たせる。
伊吹は頭を抱えた。幸四郎との今の関係に、どう終止符を打つのか。
はからずも期限を設けられてしまったようで、伊吹は非常に不愉快だった。
伊吹は元々約束していた食事に幸四郎と共に赴いていた。会えば話すことは研究のこと、薬のこと、仕事のこと。お互い社外秘は漏らさないものの、共通の話題は限られているのに話は尽きなかった。
個室でゆっくりと話をしながら食事を取る。その日は味が全くわからなかった。幸四郎は海外で発表された新薬について話している。
「俺達って、どういう関係?」
「まさか別の臓器にまで作用するなんて思わないよね。それがプラスに働くなんて想像も…ん?」
「俺…お前にとって、何?」
伊吹は下から幸四郎を睨み上げた。幸四郎はビクッと体を震わせて、でも逃げ去ることはなかった。首を傾げながら懸命に言葉を探している。
「ん?う~ん、伊吹君は、僕にとって、えーと………大切、な、………友達、かなぁ」
「仕事仲間以上、ってことで、いいのか?」
「ん、うん。僕も、伊吹君にとって、年の離れた、友達…だと、いいなぁ、なんて、」
「無理だ。お前は友達じゃない」
幸四郎はぐっと息を飲んだ。伊吹は目をそらさなかった。こんな話をして、幸四郎はどんな顔をするんだろう。否定するだろうか。拒絶するだろうか。好きだと言ったら、軽蔑するだろうか。
「さ、さみしいなぁ、そんな………いや、駄目だな、こんなこと…ごめん、伊吹君。君に、そんなことを言わせて…僕は、ずるいね。ごめん」
幸四郎は一度、ぐっと目を閉じた。息を吐いて、目を開く。伊吹を真っ直ぐ見つめていた。
「僕は、伊吹君が好きだ。聡明で賢い。真っ直ぐで、純真で、とても可愛らしい」
伊吹は頬が熱くなった。こんなに真っ直ぐ、好きだと言われるとは思っていなかった。
「でも…僕は、ベータだ。伊吹君より15歳も歳上の、ごく普通の、ただのおじさんだ。友達として、傍にいられたらと思っていた。でももし、伊吹君が、僕を、好きでいてくれるなら…それは、駄目だ。ごめん、伊吹君。だめなんだ」
何が駄目だというのだろう。伊吹が口を開く前に、幸四郎が話し始めた。
「だから、ちげぇって…」
「前ならさ、こんだけしつこくしたら、手に持ってるもんぶん投げてキレてたでしょ。穏やかになったのはその子のおかげじゃない?好きな人じゃなきゃ、なんなのよ」
伊吹は言い返せず、押し黙った。開斗はバイバ~イと軽快に去っていった。
幸四郎は伊吹にとってなんなのか。幸四郎にとって伊吹はなんなのだろうか。
何より、恋人と聞かれて真っ先に思い浮かんだのが幸四郎なのはなぜだろう。どうしてこんなに幸四郎のことばかり考えるのだろう。相手は15も歳上の、ベータの男性なのに。
首を傾げて固まること数分。自覚して伊吹は顔が熱くなった。
メッセージの通知音にスマホの画面を開くと開斗からだった。
『華に伝えたら泣いて喜んでたよ、おめ~。お披露目会の日付決まったら連絡するから予定開けといてね♡』
伊吹はスマホを布団の上に投げ捨てる。開斗のことだから全員が揃いそうな絶妙な日程を指定してくるはずだ。
そこに参加しないとなれば華が悲しむだろう。仕事を不参加の言い訳には使えない。こういう時、裕司は社長の権限を使って全力で伊吹が参加できるように仕向けてくる。なぜなら華の悲しむ顔を見たくないから。裕司の行動原理は華ただひとつだ。
自分だけが参加しても、華はがっかりするに違いない。別に、華のことは気にしなければいい。参加さえすれば義理は果たせる。
伊吹は頭を抱えた。幸四郎との今の関係に、どう終止符を打つのか。
はからずも期限を設けられてしまったようで、伊吹は非常に不愉快だった。
伊吹は元々約束していた食事に幸四郎と共に赴いていた。会えば話すことは研究のこと、薬のこと、仕事のこと。お互い社外秘は漏らさないものの、共通の話題は限られているのに話は尽きなかった。
個室でゆっくりと話をしながら食事を取る。その日は味が全くわからなかった。幸四郎は海外で発表された新薬について話している。
「俺達って、どういう関係?」
「まさか別の臓器にまで作用するなんて思わないよね。それがプラスに働くなんて想像も…ん?」
「俺…お前にとって、何?」
伊吹は下から幸四郎を睨み上げた。幸四郎はビクッと体を震わせて、でも逃げ去ることはなかった。首を傾げながら懸命に言葉を探している。
「ん?う~ん、伊吹君は、僕にとって、えーと………大切、な、………友達、かなぁ」
「仕事仲間以上、ってことで、いいのか?」
「ん、うん。僕も、伊吹君にとって、年の離れた、友達…だと、いいなぁ、なんて、」
「無理だ。お前は友達じゃない」
幸四郎はぐっと息を飲んだ。伊吹は目をそらさなかった。こんな話をして、幸四郎はどんな顔をするんだろう。否定するだろうか。拒絶するだろうか。好きだと言ったら、軽蔑するだろうか。
「さ、さみしいなぁ、そんな………いや、駄目だな、こんなこと…ごめん、伊吹君。君に、そんなことを言わせて…僕は、ずるいね。ごめん」
幸四郎は一度、ぐっと目を閉じた。息を吐いて、目を開く。伊吹を真っ直ぐ見つめていた。
「僕は、伊吹君が好きだ。聡明で賢い。真っ直ぐで、純真で、とても可愛らしい」
伊吹は頬が熱くなった。こんなに真っ直ぐ、好きだと言われるとは思っていなかった。
「でも…僕は、ベータだ。伊吹君より15歳も歳上の、ごく普通の、ただのおじさんだ。友達として、傍にいられたらと思っていた。でももし、伊吹君が、僕を、好きでいてくれるなら…それは、駄目だ。ごめん、伊吹君。だめなんだ」
何が駄目だというのだろう。伊吹が口を開く前に、幸四郎が話し始めた。
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