森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
56 / 78
森之宮家の三兄弟

17

しおりを挟む
「んじゃ、俺出かけるわ。オメガちゃん達と約束してるから。華にも言っとくね?いぶ兄、幸せそうだよ~って」
「だから、ちげぇって…」
「前ならさ、こんだけしつこくしたら、手に持ってるもんぶん投げてキレてたでしょ。穏やかになったのはその子のおかげじゃない?好きな人じゃなきゃ、なんなのよ」
伊吹は言い返せず、押し黙った。開斗はバイバ~イと軽快に去っていった。
幸四郎は伊吹にとってなんなのか。幸四郎にとって伊吹はなんなのだろうか。
何より、恋人と聞かれて真っ先に思い浮かんだのが幸四郎なのはなぜだろう。どうしてこんなに幸四郎のことばかり考えるのだろう。相手は15も歳上の、ベータの男性なのに。
首を傾げて固まること数分。自覚して伊吹は顔が熱くなった。
メッセージの通知音にスマホの画面を開くと開斗からだった。
『華に伝えたら泣いて喜んでたよ、おめ~。お披露目会の日付決まったら連絡するから予定開けといてね♡』
伊吹はスマホを布団の上に投げ捨てる。開斗のことだから全員が揃いそうな絶妙な日程を指定してくるはずだ。
そこに参加しないとなれば華が悲しむだろう。仕事を不参加の言い訳には使えない。こういう時、裕司は社長の権限を使って全力で伊吹が参加できるように仕向けてくる。なぜなら華の悲しむ顔を見たくないから。裕司の行動原理は華ただひとつだ。
自分だけが参加しても、華はがっかりするに違いない。別に、華のことは気にしなければいい。参加さえすれば義理は果たせる。
伊吹は頭を抱えた。幸四郎との今の関係に、どう終止符を打つのか。
はからずも期限を設けられてしまったようで、伊吹は非常に不愉快だった。


伊吹は元々約束していた食事に幸四郎と共に赴いていた。会えば話すことは研究のこと、薬のこと、仕事のこと。お互い社外秘は漏らさないものの、共通の話題は限られているのに話は尽きなかった。
個室でゆっくりと話をしながら食事を取る。その日は味が全くわからなかった。幸四郎は海外で発表された新薬について話している。
「俺達って、どういう関係?」
「まさか別の臓器にまで作用するなんて思わないよね。それがプラスに働くなんて想像も…ん?」
「俺…お前にとって、何?」
伊吹は下から幸四郎を睨み上げた。幸四郎はビクッと体を震わせて、でも逃げ去ることはなかった。首を傾げながら懸命に言葉を探している。
「ん?う~ん、伊吹君は、僕にとって、えーと………大切、な、………友達、かなぁ」
「仕事仲間以上、ってことで、いいのか?」
「ん、うん。僕も、伊吹君にとって、年の離れた、友達…だと、いいなぁ、なんて、」
「無理だ。お前は友達じゃない」
幸四郎はぐっと息を飲んだ。伊吹は目をそらさなかった。こんな話をして、幸四郎はどんな顔をするんだろう。否定するだろうか。拒絶するだろうか。好きだと言ったら、軽蔑するだろうか。
「さ、さみしいなぁ、そんな………いや、駄目だな、こんなこと…ごめん、伊吹君。君に、そんなことを言わせて…僕は、ずるいね。ごめん」
幸四郎は一度、ぐっと目を閉じた。息を吐いて、目を開く。伊吹を真っ直ぐ見つめていた。
「僕は、伊吹君が好きだ。聡明で賢い。真っ直ぐで、純真で、とても可愛らしい」
伊吹は頬が熱くなった。こんなに真っ直ぐ、好きだと言われるとは思っていなかった。
「でも…僕は、ベータだ。伊吹君より15歳も歳上の、ごく普通の、ただのおじさんだ。友達として、傍にいられたらと思っていた。でももし、伊吹君が、僕を、好きでいてくれるなら…それは、駄目だ。ごめん、伊吹君。だめなんだ」
何が駄目だというのだろう。伊吹が口を開く前に、幸四郎が話し始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

処理中です...