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森之宮家の三兄弟
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「いえ。その他の処理とリスケのための余裕は残しておくべきかと。あ、私が経験した話なんですけどね、10年前の研究でギッチギチにスケジュール詰めたらですね…」
幸四郎はスケジュールを詰めすぎてどうにもならなくなった経験談を教えてくれた。『だせぇ』と鼻で笑う伊吹に、『そうですよねぇ』と、幸四郎は照れながら穏やかに笑う。
社会人になって自分はもとより、相手も大人になっていく。伊吹の態度に反発してくる人間は激減した。おかげで衝突も減った。しかし相手が大人になったとはいえ人間なので、表情で不快に思っていることがわかる。伊吹の態度や言葉に幸四郎はいつも穏やかに笑って接してくれた。
それに、入社してから、より薬学の勉強に励んだという幸四郎の話はためになった。薬品の扱い方も、仕事の進め方も。穏やかで知識の深い彼の話を聞くのは楽しくてとても参考になった。
いつしか仕事に関係なく、時に食事に行ったり飲んだりする仲になった。穏やかな幸四郎と一緒にいる時間は心地良かった。
「いぶ兄、恋人でもできた?」
伊吹の自室に開斗がやってきた。ベッドで資料に目を通していた伊吹のそばに、キャスター付の椅子に腰掛けた開斗が寄ってくる。
久しぶりに、自宅で弟の開斗と顔を合わせた。開斗は大学在学中からモデルの仕事をしていて今も続けている。大学に入った頃からお互い時間が合わず、顔を合わせることは少なくなっていた。長男の咲也は家を出ていて、たまに帰ってきた時に会える程度だ。
「なんだよ急に」
「最近、誰かとお出かけしてるっぽいって華が言っててさ。嬉しいけど心配~って。誰?相手。知ってる人?」
「誰でもいいだろ。つか、なんで華はお前に言うんだよ。直接聞けよ」
「『恋人できたの?』って親に聞かれたくないよね、どう思う?って連絡来たんだよね。裕司とさく兄にほっとけって言われたんじゃない?俺は面白そうだから聞きに来た」
ぱぁっと明るい笑顔を浮かべる開斗の頭をひっぱたきたくなった。最近は雑誌やCMでの作った顔しか見ていなかったが、これが弟の本当の顔だ。自分の顔を熟知した上で愛くるしい笑顔を浮かべる。本性を知ってる伊吹はだまされない。実際、今も面白がって聞いてきている。こいつの本性はたちが悪い。
そして咲也と裕司に放っておけと言われた華も想像ができる。あの二人はそんな乱暴な突き放し方はしない。『見守ってあげような』とか『親に聞かれるのは嫌かなぁ』とか、やんわり『放っておけ』と言われたのだろう。察して華は直接聞いてこない。しかし、気になるのだろう。空気を読まない、いや、読んだ上で面白がるこの弟を送り込んできた。
きっと今、リビングでそわそわしている。
「恋人…じゃねぇよ」
「またまたぁ。どんな子?オメガ?アルファ?ベータ?おっぱいでかい?」
「うるせぇな、恋人じゃねぇって」
伊吹は邪険に否定しつつ考える。恋人でなければ、幸四郎は一体なんだろうか。以前幸四郎から第2性はベータだと聞いた。伊吹の親族だと叔父とその妻がベータだ。伊吹の身近にいるのはアルファかオメガだ。幸四郎にはおっぱいはなく、オメガではないので子を宿す器官もない。
「ほ~ん………今度さぁ、俺、番を連れてこようと思うんだよね。オメガの男の子。そん時にいぶ兄も彼女連れてきてよ、さく兄も呼ぶから。森之宮家、大集合ぅ~☆」
いえーいと盛り上がる開斗を、伊吹はうるせぇと一蹴した。
一体幸四郎は伊吹のなんだろうか。再度考える。恋人と名付けるには関係は進展していない。時々食事をしたり飲んだりするだけ。食事も飲みも場所を変えて長時間一緒にいるが、話すことといえば仕事や薬学に関することばかり。ベータの幸四郎とアルファの伊吹では子供もできない。オメガの番を連れてくるという開斗と、オメガの幼馴染と同棲している兄の咲也。両親はアルファとオメガで自分達を作った。子供ができない伊吹と幸四郎と、この関係に未来はない。
幸四郎はスケジュールを詰めすぎてどうにもならなくなった経験談を教えてくれた。『だせぇ』と鼻で笑う伊吹に、『そうですよねぇ』と、幸四郎は照れながら穏やかに笑う。
社会人になって自分はもとより、相手も大人になっていく。伊吹の態度に反発してくる人間は激減した。おかげで衝突も減った。しかし相手が大人になったとはいえ人間なので、表情で不快に思っていることがわかる。伊吹の態度や言葉に幸四郎はいつも穏やかに笑って接してくれた。
それに、入社してから、より薬学の勉強に励んだという幸四郎の話はためになった。薬品の扱い方も、仕事の進め方も。穏やかで知識の深い彼の話を聞くのは楽しくてとても参考になった。
いつしか仕事に関係なく、時に食事に行ったり飲んだりする仲になった。穏やかな幸四郎と一緒にいる時間は心地良かった。
「いぶ兄、恋人でもできた?」
伊吹の自室に開斗がやってきた。ベッドで資料に目を通していた伊吹のそばに、キャスター付の椅子に腰掛けた開斗が寄ってくる。
久しぶりに、自宅で弟の開斗と顔を合わせた。開斗は大学在学中からモデルの仕事をしていて今も続けている。大学に入った頃からお互い時間が合わず、顔を合わせることは少なくなっていた。長男の咲也は家を出ていて、たまに帰ってきた時に会える程度だ。
「なんだよ急に」
「最近、誰かとお出かけしてるっぽいって華が言っててさ。嬉しいけど心配~って。誰?相手。知ってる人?」
「誰でもいいだろ。つか、なんで華はお前に言うんだよ。直接聞けよ」
「『恋人できたの?』って親に聞かれたくないよね、どう思う?って連絡来たんだよね。裕司とさく兄にほっとけって言われたんじゃない?俺は面白そうだから聞きに来た」
ぱぁっと明るい笑顔を浮かべる開斗の頭をひっぱたきたくなった。最近は雑誌やCMでの作った顔しか見ていなかったが、これが弟の本当の顔だ。自分の顔を熟知した上で愛くるしい笑顔を浮かべる。本性を知ってる伊吹はだまされない。実際、今も面白がって聞いてきている。こいつの本性はたちが悪い。
そして咲也と裕司に放っておけと言われた華も想像ができる。あの二人はそんな乱暴な突き放し方はしない。『見守ってあげような』とか『親に聞かれるのは嫌かなぁ』とか、やんわり『放っておけ』と言われたのだろう。察して華は直接聞いてこない。しかし、気になるのだろう。空気を読まない、いや、読んだ上で面白がるこの弟を送り込んできた。
きっと今、リビングでそわそわしている。
「恋人…じゃねぇよ」
「またまたぁ。どんな子?オメガ?アルファ?ベータ?おっぱいでかい?」
「うるせぇな、恋人じゃねぇって」
伊吹は邪険に否定しつつ考える。恋人でなければ、幸四郎は一体なんだろうか。以前幸四郎から第2性はベータだと聞いた。伊吹の親族だと叔父とその妻がベータだ。伊吹の身近にいるのはアルファかオメガだ。幸四郎にはおっぱいはなく、オメガではないので子を宿す器官もない。
「ほ~ん………今度さぁ、俺、番を連れてこようと思うんだよね。オメガの男の子。そん時にいぶ兄も彼女連れてきてよ、さく兄も呼ぶから。森之宮家、大集合ぅ~☆」
いえーいと盛り上がる開斗を、伊吹はうるせぇと一蹴した。
一体幸四郎は伊吹のなんだろうか。再度考える。恋人と名付けるには関係は進展していない。時々食事をしたり飲んだりするだけ。食事も飲みも場所を変えて長時間一緒にいるが、話すことといえば仕事や薬学に関することばかり。ベータの幸四郎とアルファの伊吹では子供もできない。オメガの番を連れてくるという開斗と、オメガの幼馴染と同棲している兄の咲也。両親はアルファとオメガで自分達を作った。子供ができない伊吹と幸四郎と、この関係に未来はない。
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