森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
54 / 78
森之宮家の三兄弟

15

しおりを挟む
微笑む幸四郎を、伊吹は睨む。この男は一体なんなのか。親の力で入社したことを馬鹿にしたいのか、自分を使って父に取り入りたいのか、果たしてどちらなのか。
幸四郎は目を丸くして伊吹を見た。
「それは何か、いけないことですか?それに、七光りで入れるほど、御社は優しくないと思いますが。実は…私、森之宮製薬に落ちましてね」
幸四郎は微妙な笑顔を浮かべた。今度は伊吹が目を丸くした。それは転職活動をしていた、ということだろうか。そんな話をこの場でしていいのだろうか。幸四郎は慌てて両手を振った。
「あっ、転職じゃないですよ?大学生の頃、第一志望で。で、落ちまして。若い方が社長をなさってると聞いて、まぁ…その…面接を、舐めてかかりまして。最終面接でお父様とお会いしたのですが、今までどんな研究を行ったか、まぁ、自信満々に語ったわけです。が、お父様はご存知で、熟知されていまして。薬学部を出た後に経営学を学んだと伺っていたので薬学は片手間に学んだ程度だろうと思っていたんですね。お恥ずかしい話です…お父様に論破されまして。何が足りなかったのか、何をすべきだったのか」
幸四郎は頭をかいた。一体何の話だろうか。気づけば伊吹は口を開けて聞き入ってしまっている。幸四郎は早口で話を続けた。
「お父様の洞察力と見識には驚かされました。どうせわからないだろうと、高をくくっていたんですが…お話をして、この方の下で働きたいと思いました。しかし、『よく学んでいますが、人を見る目はもう少し養うべきだ』、と…全くもってその通りです。年齢と、失礼ながら若々しい見た目と経歴で勝手に判断してしまいました。森之宮さんのお父様は、他人を見抜く力をお持ちです。そんなあなたを入社させたということは、伊吹さんも大変優秀な方なのだろうと思います」
伊吹は口を開けたまま、首を傾げた。まさか父の聞くことになるなんて思ってもいなかった。幸四郎はまだ、裕司がいかに優秀か、いかに実物が格好良かったかを早口で熱くまくし立てている。なぜそんな話をしたのだろうかと考えて伊吹は思った。
自分に、ひいては森之宮製薬に取り入りたいのだろう。それこそ転職を考えているのかもしれない。
「これから、仕事をご一緒させていただけるなんて、楽しみです」
「そーっすね」
微笑む幸四郎に、そうはいくかと伊吹は無意識に彼を睨みつけてしまっていた。


その翌週。早速幸四郎と打ち合わせをすることになった。新薬について共同研究開発することで認可までの期間を早めようということらしい。今後のスケジュールについてを、顔を合わせて話し合う。
「また、お会いできましたね」
ニコニコ笑っている幸四郎に、伊吹は訝しげな顔を向けた。この無害そうな笑顔に騙されてなるものか。この男は森之宮製薬に取り入ろうとしている。転職、なんなら伊吹の研究員としてのポジションを狙っているかもしれない。
森之宮へのパイプ役なんか絶対しない。父の威光を借りている伊吹が下手な真似をすることはできない。兄の咲也と弟の開斗の顔が浮かぶ。彼らに失望されたり嘲笑されるようなことはしない。華を悲しませるような結果にはしない。
伊吹はあまり懐に飛び込ませないように、キレないように、注意を払った。
「この検証が終わらないと次の段階には行けないから…」
「ええ、検証に関してもこちらと共同で。伊吹さん、こちらの薬品については御社でお願いできないでしょうか、弊社に扱った経験のあるものがいなくて…」
「それは俺がやる。できる」
「本当ですか!?やはり、素晴らしい、です…では、スケジュールはここまで削りましょう。大幅に短縮できましたね」
「何いってんだよ、もっと詰められるだろ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...