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森之宮家の三兄弟
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伊吹は答えに詰まった。森之宮製薬に行けば楽に就職できて好きに働けるだろう。しかしそれでは甘えてしまっているようで嫌だった。就職活動中、森之宮製薬の名前を見るとイライラ、モヤモヤが腹の中に広がった。あれは何だったのだろう。
伊吹は何度も逡巡して口を尖らせて答えた。
「…裕司が来いっつーなら、行ってやってもいいけど」
「上から…あのな。仕事だから。好きな研究だけやっときゃいいわけじゃねぇからな?検証だけひたらすら繰り返して眠くてつまんねぇこともあるからな?嫌だって投げ出せるもんじゃねぇぞ?仕事だからな?」
「う…わかってるよ、わかってる。裕司は、うるさい!」
「どーしょもねぇ時は休んでいいけどな、基本ばっくれ禁止だぞ?わかったな?」
「わかったって言っただろ!うっせぇな!!」
「もう、どうしたの?伊吹、大きな声出さないよ」
まるで5歳児を相手にするかのような父に、伊吹は久しぶりに爆発してしまった。ただでさえ親の会社に就職なんて気恥ずかしくて情けないのに。
華が来たことで、それ以上伊吹は怒れなくなった。昔から爆発する伊吹をあやしてなだめてくれたのは華だった。同級生と揉めることも多く、華はいつも優しく諭してくれた。
『イライラしちゃったね。でも、お友達もきっと、びっくりしちゃったよ?大きな声は、駄目だよ』
強く叱ることはせずになだめてくれた。困った顔で笑う華に、伊吹はいつも申し訳なく思う。華の顔を見ると、イライラはモヤモヤに変わっていく。
どうして華にこんな顔をさせるんだろう。どうしてうまくできないんだろう。
俺の言い方が悪かったと言う裕司にまた腹が立つ。伊吹が悪いと言えばいいのに。相手に折れられて、子供だと言われているかのようでまたイライラが募る。しかし華がいる。もう爆発している姿は見せたくない。
伊吹はぐっと唇を噛み締めた。
伊吹は森之宮製薬に就職した。職場である研究室では社長の息子として少し気を使われてイラついた。しかし大学とはまた違った設備に、タイトな期限を設けられた課題を与えられて、伊吹は夢中で働いた。腹立つことがあっても研究に没頭すると忘れられる。ぶっ倒れるまで働きたい、実験したいと毎日が楽しかった。しかし毎週水曜日にノー残業デーが設けられている。その日には強制的に電気を落とされてしまうので、仕方なく自宅に帰った。帰ると連日の疲労で食後直ぐに眠ってしまう。研究も実験も楽しいが、やはり大学とは違う。慣れない空気と納期に知らぬ間に疲労は溜まっていたようだ。倒れる前に休息が取れる水曜日は、伊吹にとってなくてはならないものになった。
入社から半年後、他社の研究室との飲み会に参加することになった。提携会社とまではいかないが、良好な関係を築いている会社の研究員との交流会だ。数名いる新入社員同士の顔見せの場らしい。
研究内容によってはデータを共有していくこともある。連絡を取り合うこともあるそうだ。その為、お互いを認識するための交流会。他人との関わりが苦手な伊吹は交流会も連絡を取り合うこともあまり気乗りがしなかった。
ただ、今の研究室の人間もそうだが、同じ研究職であることと、伊吹が深く興味のある分野であるという共通点があり、話をするのは嫌いではない。誰も気にせず好きな分野の話を聞くことができる。
その飲み会で出会ったのが、幸四郎だった。15歳も年上の彼は、研究者としても伊吹より長く仕事をしている。
「森之宮、伊吹さん。あの、森之宮製薬の…」
「はい。社長の、息子っす」
「おぉ!あなたが…幼い頃から薬学に触れてきたんでしょうね。素晴らしい、すごいです。森之宮製薬にお勤めなんて」
「はぁ、そうですかね…親の七光りっすけど」
伊吹は何度も逡巡して口を尖らせて答えた。
「…裕司が来いっつーなら、行ってやってもいいけど」
「上から…あのな。仕事だから。好きな研究だけやっときゃいいわけじゃねぇからな?検証だけひたらすら繰り返して眠くてつまんねぇこともあるからな?嫌だって投げ出せるもんじゃねぇぞ?仕事だからな?」
「う…わかってるよ、わかってる。裕司は、うるさい!」
「どーしょもねぇ時は休んでいいけどな、基本ばっくれ禁止だぞ?わかったな?」
「わかったって言っただろ!うっせぇな!!」
「もう、どうしたの?伊吹、大きな声出さないよ」
まるで5歳児を相手にするかのような父に、伊吹は久しぶりに爆発してしまった。ただでさえ親の会社に就職なんて気恥ずかしくて情けないのに。
華が来たことで、それ以上伊吹は怒れなくなった。昔から爆発する伊吹をあやしてなだめてくれたのは華だった。同級生と揉めることも多く、華はいつも優しく諭してくれた。
『イライラしちゃったね。でも、お友達もきっと、びっくりしちゃったよ?大きな声は、駄目だよ』
強く叱ることはせずになだめてくれた。困った顔で笑う華に、伊吹はいつも申し訳なく思う。華の顔を見ると、イライラはモヤモヤに変わっていく。
どうして華にこんな顔をさせるんだろう。どうしてうまくできないんだろう。
俺の言い方が悪かったと言う裕司にまた腹が立つ。伊吹が悪いと言えばいいのに。相手に折れられて、子供だと言われているかのようでまたイライラが募る。しかし華がいる。もう爆発している姿は見せたくない。
伊吹はぐっと唇を噛み締めた。
伊吹は森之宮製薬に就職した。職場である研究室では社長の息子として少し気を使われてイラついた。しかし大学とはまた違った設備に、タイトな期限を設けられた課題を与えられて、伊吹は夢中で働いた。腹立つことがあっても研究に没頭すると忘れられる。ぶっ倒れるまで働きたい、実験したいと毎日が楽しかった。しかし毎週水曜日にノー残業デーが設けられている。その日には強制的に電気を落とされてしまうので、仕方なく自宅に帰った。帰ると連日の疲労で食後直ぐに眠ってしまう。研究も実験も楽しいが、やはり大学とは違う。慣れない空気と納期に知らぬ間に疲労は溜まっていたようだ。倒れる前に休息が取れる水曜日は、伊吹にとってなくてはならないものになった。
入社から半年後、他社の研究室との飲み会に参加することになった。提携会社とまではいかないが、良好な関係を築いている会社の研究員との交流会だ。数名いる新入社員同士の顔見せの場らしい。
研究内容によってはデータを共有していくこともある。連絡を取り合うこともあるそうだ。その為、お互いを認識するための交流会。他人との関わりが苦手な伊吹は交流会も連絡を取り合うこともあまり気乗りがしなかった。
ただ、今の研究室の人間もそうだが、同じ研究職であることと、伊吹が深く興味のある分野であるという共通点があり、話をするのは嫌いではない。誰も気にせず好きな分野の話を聞くことができる。
その飲み会で出会ったのが、幸四郎だった。15歳も年上の彼は、研究者としても伊吹より長く仕事をしている。
「森之宮、伊吹さん。あの、森之宮製薬の…」
「はい。社長の、息子っす」
「おぉ!あなたが…幼い頃から薬学に触れてきたんでしょうね。素晴らしい、すごいです。森之宮製薬にお勤めなんて」
「はぁ、そうですかね…親の七光りっすけど」
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