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森之宮家の三兄弟
13 次男・伊吹編
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小さい頃、いつも何かに腹を立てていた。幼い頃は、年の近い弟に母を取られてしまったことにイライラしていた。年齢があがっても、いつもなにかに苛立っていた。何が気に入らないのか、自分でもわからない。他人と衝突することも多かった。
幼い頃は母の、華の傍にいれば少し落ち着いた。華がいないとだめで、泣き叫んでは華を困らせた。
しかし、年齢が上がるにつれて母と離れる場面が多くなる。
一人でこの苛立ちをどう解消したらいいのかわらない。いつもしかめっ面の伊吹に、周りはどんどん離れていった。
幼い頃からいくつか病院やらカウンセリングやらに連れて行かれた。両親も、特に華が、持て余していたのだと思う。華とともに医師やカウンセラーと話す。
『個性です』
アンガーマネジメントを教わって苛立ちは少しましになったが、多少変わった程度で解決はしなかった。伊吹はいつもイライラしていた。
学校に行くのは苦痛だった。集団生活が得意ではない。気になること、気に入らないことがあるとつい同級生に突っかかってしまう。親だけでなく、教師も自分を持て余していることに気づいていた。
華にお腹が痛い、頭が痛いと訴えて、何度も学校を休んだ。母も父も気づいてはいたようだが、好きにさせてくれた。根気よく何があったのかどうしたのか聞いてきたが、伊吹は答えたり答えなかったりした。自分でも、どうしてこんなに苛つくのかわからなかった。
そんな中で、父の裕司の本棚で見つけた薬学の本に夢中になった。どの成分がどう作用して人体に有効とされるのか。時には毒にもなるそれらを調べて学び、知識を蓄えていくことは何よりの楽しみとなった。もっと、薬の勉強がしたい。
「裕司、薬の勉強ってどうしたらいい?」
中学生になった伊吹は父の裕司に聞いてみた。裕司は目を見開いて驚いていた。
「クスリの勉強!?おま、そんな、やべぇ勉強してなにする気だよ!」
「ちげぇよ!なんか、大学とかで勉強するやつ!」
伊吹がソファを殴りながら答えたら、父は胸を撫で下ろして答えてくれた。まずは高校まで卒業して薬学部のある大学に進学する。ただ、今も出席日数が危うい。もしも通学が難しければ大検を取る方法も調べてくれた。
伊吹は学校に通うことを選んだ。周りと比べたら休みは多かったが、自身の前年比でいえばかなり改善された出席日数だ。
伊吹は無事、両親と兄が通った学園を卒業した。大学は薬学を専攻し、勉強に研究に励んだ。大学は好きなことをひたすら勉強ができてとても楽しかった。
伊吹は夢中になると周りが見えなくなる。研究のために何日も大学の研究室に詰めて、倒れたこともあった。寝食を忘れて没頭してしまった。心配してかけつけてくれた両親は真っ青になっていた。
「びっくりした…倒れたって、伊吹…」
「お前な…夢中になるのはいいことだけど、自分の体のこと、もう少し考えろ」
「………ごめん、華、心配かけて…」
伊吹は不貞腐れながらも華に謝罪した。華はしゃくりあげながら泣いていた。もっと伊吹に連絡すれば良かった、研究室から連れ戻せば良かったと、華は自分を責めて泣いていた。
伊吹はもう小さな子供ではない。いつまで子供扱いするのかと思ったが、大切な母にここまで心配をかけてしまった。さすがに伊吹の心は痛んだ。
それからは体調に気をつけるようにしつつ、しかし時には華に自宅に連れ戻されながら大学を卒業した。
在学中就職に悩んでいたら、裕司に声をかけられた。
「うちで働けば?」
ずっと研究職として働きたかったが、中々就職口が見つからない。特に伊吹は第2性の薬を中心に研究していたため、そこも間口を狭める原因だった。
森之宮製薬なら、研究開発に専念していいらしい。裕司は困り顔で首を傾げた。
「つか、うちで働くつもりで薬学行ったと思ってたけど…ちげぇの?」
幼い頃は母の、華の傍にいれば少し落ち着いた。華がいないとだめで、泣き叫んでは華を困らせた。
しかし、年齢が上がるにつれて母と離れる場面が多くなる。
一人でこの苛立ちをどう解消したらいいのかわらない。いつもしかめっ面の伊吹に、周りはどんどん離れていった。
幼い頃からいくつか病院やらカウンセリングやらに連れて行かれた。両親も、特に華が、持て余していたのだと思う。華とともに医師やカウンセラーと話す。
『個性です』
アンガーマネジメントを教わって苛立ちは少しましになったが、多少変わった程度で解決はしなかった。伊吹はいつもイライラしていた。
学校に行くのは苦痛だった。集団生活が得意ではない。気になること、気に入らないことがあるとつい同級生に突っかかってしまう。親だけでなく、教師も自分を持て余していることに気づいていた。
華にお腹が痛い、頭が痛いと訴えて、何度も学校を休んだ。母も父も気づいてはいたようだが、好きにさせてくれた。根気よく何があったのかどうしたのか聞いてきたが、伊吹は答えたり答えなかったりした。自分でも、どうしてこんなに苛つくのかわからなかった。
そんな中で、父の裕司の本棚で見つけた薬学の本に夢中になった。どの成分がどう作用して人体に有効とされるのか。時には毒にもなるそれらを調べて学び、知識を蓄えていくことは何よりの楽しみとなった。もっと、薬の勉強がしたい。
「裕司、薬の勉強ってどうしたらいい?」
中学生になった伊吹は父の裕司に聞いてみた。裕司は目を見開いて驚いていた。
「クスリの勉強!?おま、そんな、やべぇ勉強してなにする気だよ!」
「ちげぇよ!なんか、大学とかで勉強するやつ!」
伊吹がソファを殴りながら答えたら、父は胸を撫で下ろして答えてくれた。まずは高校まで卒業して薬学部のある大学に進学する。ただ、今も出席日数が危うい。もしも通学が難しければ大検を取る方法も調べてくれた。
伊吹は学校に通うことを選んだ。周りと比べたら休みは多かったが、自身の前年比でいえばかなり改善された出席日数だ。
伊吹は無事、両親と兄が通った学園を卒業した。大学は薬学を専攻し、勉強に研究に励んだ。大学は好きなことをひたすら勉強ができてとても楽しかった。
伊吹は夢中になると周りが見えなくなる。研究のために何日も大学の研究室に詰めて、倒れたこともあった。寝食を忘れて没頭してしまった。心配してかけつけてくれた両親は真っ青になっていた。
「びっくりした…倒れたって、伊吹…」
「お前な…夢中になるのはいいことだけど、自分の体のこと、もう少し考えろ」
「………ごめん、華、心配かけて…」
伊吹は不貞腐れながらも華に謝罪した。華はしゃくりあげながら泣いていた。もっと伊吹に連絡すれば良かった、研究室から連れ戻せば良かったと、華は自分を責めて泣いていた。
伊吹はもう小さな子供ではない。いつまで子供扱いするのかと思ったが、大切な母にここまで心配をかけてしまった。さすがに伊吹の心は痛んだ。
それからは体調に気をつけるようにしつつ、しかし時には華に自宅に連れ戻されながら大学を卒業した。
在学中就職に悩んでいたら、裕司に声をかけられた。
「うちで働けば?」
ずっと研究職として働きたかったが、中々就職口が見つからない。特に伊吹は第2性の薬を中心に研究していたため、そこも間口を狭める原因だった。
森之宮製薬なら、研究開発に専念していいらしい。裕司は困り顔で首を傾げた。
「つか、うちで働くつもりで薬学行ったと思ってたけど…ちげぇの?」
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