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森之宮家の三兄弟
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「そういうつまんねぇ人間だけど。俺は、お前の傍にいたい」
「つまんなく、ないよ…さっくんは、すごく、優しくて…素敵な、人だよ」
「お前はどうしたい?この先、俺と。一緒に、いてくんねぇの?」
咲也が問うと、朝陽は涙を零した。しゃくりあげながら泣く朝陽の答えを、咲也は辛抱強く待った。しばらく泣いていた朝陽はやっと少しずつ話始めた。
「さっくんと、いたい。一緒、に、ずっと……ごめんね、僕、駄目なんだ。怖い。やっぱり、赤ちゃん、産むの、怖い…」
「作んなきゃいいだろ。避妊する方法はいくらでもある。それにな。俺はそもそも、お前に妊娠も出産もさせたくない」
「うん…ん?な、なんで?」
朝陽は首を傾げる。
「開斗のな、出産に立ち会ったんだけど、正直トラウマになってる。華が暴れるわ暴言吐くわ、めちゃくちゃでな」
「さっくんの、ママさんが?」
朝陽は目を丸くして咲也を見た。朝陽は華とも面識がある。会った回数は裕司よりも多い。普段の穏やかな姿を見ている朝陽には想像もつかないだろう。
咲也は今も鮮明に思い出せる。父に暴言や呪詛を吐いて暴れる母と、どうしたらいいかわからずうろたえる父の姿を。二人のあんな姿を見たのはあれが最初で最後だ。父は産後、しばらく泣き止まなかった。母は気を失うように眠ってしまった。
「裕司を殴るだの恨むだの叫んでたし、殴りかかってたし。でも医者も看護師も安産だって笑ってたんだよ。それ見て、俺、めちゃくちゃビビってな。俺は相手ができても、出産させたくねぇって思ったんだよな」
それが咲也の正直な本音で、産ませたくない理由だ。両親には申し訳ないし、よく懐いている開斗はとても可愛い弟なのだが、あの出産は幼い咲也には衝撃で恐怖でしかなかった。親には言いづらくていったことはない。元々無痛分娩で予約もしていたが思いの外早く産気づいてしまったので、誰も悪くはない。しかし、豹変してしまった華と、役立たずと化した裕司に、出産自体に強い恐怖を感じてしまった。咲也の中でトラウマになってしまっている。
「…でも、もし、…さっくんが、欲しくなったら?」
「そん時考えればいい。お前が欲しくなるかもしれないだろ。その時に一番良い方法を考えればいい」
朝陽は咲也にしがみついた。咲也の胸に顔を埋める。
「ごめんね、さっくん、ごめん…知ってたんだよ、僕、妊娠のことも、出産のことも…オメガになったらって、頭で、わかってたのに…どうしても、怖い…」
「…うん」
「でも、それでも、…僕、さっくんといたい。ずっと、一緒、いたい…いいの?僕、で、いい?」
「朝陽がいいんだよ」
朝陽は悲鳴のような声を上げて泣いた。きっと今まで沢山の不安を抱えてそばにいてくれたのだろう。オメガであるかもしれないこと。森之宮の家の事。朝陽はぐすぐすと鼻を鳴らしながら顔を上げた。
「さっくん…僕ね、オメガの薬、飲んでるんだ。病院で診てもらって、確定前にも飲めるやつ。…今度ね、さっくんのママさんの、お話聞きたい。オメガってわかった時、どうだったのか…少し、覚悟が、できるかなって」
「華に予定、聞いておくよ」
「僕ね、さっくんが好き。さっくんの傍にいる。さっくんが嫌って言っても、いる。僕、負けない、オメガに…もう、負けない」
「そんで来週も、俺を映画に連れてくんだろ?」
朝陽はぐっと拳を握って決意していた。不穏な空気が流れた二人だが、落ち着くところに落ち着いたと思う。咲也が苦笑しながら来週の映画の予定を伝えると、朝陽は花咲くように笑った。
「うん!ペンライト、さっくんの分もあるからね!」
「いや、それは」
「がんばえぷい◯ゅあー!だよ!ほら、腕上げて!がんばえー!」
「わかったわかった、静かにしろって。サボってんだぞ、俺達」
朝陽はあっ!と声を上げて大人しく咲也の隣に腰掛けた。二人は顔を見合わせて笑いあった。
咲也編 END
「つまんなく、ないよ…さっくんは、すごく、優しくて…素敵な、人だよ」
「お前はどうしたい?この先、俺と。一緒に、いてくんねぇの?」
咲也が問うと、朝陽は涙を零した。しゃくりあげながら泣く朝陽の答えを、咲也は辛抱強く待った。しばらく泣いていた朝陽はやっと少しずつ話始めた。
「さっくんと、いたい。一緒、に、ずっと……ごめんね、僕、駄目なんだ。怖い。やっぱり、赤ちゃん、産むの、怖い…」
「作んなきゃいいだろ。避妊する方法はいくらでもある。それにな。俺はそもそも、お前に妊娠も出産もさせたくない」
「うん…ん?な、なんで?」
朝陽は首を傾げる。
「開斗のな、出産に立ち会ったんだけど、正直トラウマになってる。華が暴れるわ暴言吐くわ、めちゃくちゃでな」
「さっくんの、ママさんが?」
朝陽は目を丸くして咲也を見た。朝陽は華とも面識がある。会った回数は裕司よりも多い。普段の穏やかな姿を見ている朝陽には想像もつかないだろう。
咲也は今も鮮明に思い出せる。父に暴言や呪詛を吐いて暴れる母と、どうしたらいいかわからずうろたえる父の姿を。二人のあんな姿を見たのはあれが最初で最後だ。父は産後、しばらく泣き止まなかった。母は気を失うように眠ってしまった。
「裕司を殴るだの恨むだの叫んでたし、殴りかかってたし。でも医者も看護師も安産だって笑ってたんだよ。それ見て、俺、めちゃくちゃビビってな。俺は相手ができても、出産させたくねぇって思ったんだよな」
それが咲也の正直な本音で、産ませたくない理由だ。両親には申し訳ないし、よく懐いている開斗はとても可愛い弟なのだが、あの出産は幼い咲也には衝撃で恐怖でしかなかった。親には言いづらくていったことはない。元々無痛分娩で予約もしていたが思いの外早く産気づいてしまったので、誰も悪くはない。しかし、豹変してしまった華と、役立たずと化した裕司に、出産自体に強い恐怖を感じてしまった。咲也の中でトラウマになってしまっている。
「…でも、もし、…さっくんが、欲しくなったら?」
「そん時考えればいい。お前が欲しくなるかもしれないだろ。その時に一番良い方法を考えればいい」
朝陽は咲也にしがみついた。咲也の胸に顔を埋める。
「ごめんね、さっくん、ごめん…知ってたんだよ、僕、妊娠のことも、出産のことも…オメガになったらって、頭で、わかってたのに…どうしても、怖い…」
「…うん」
「でも、それでも、…僕、さっくんといたい。ずっと、一緒、いたい…いいの?僕、で、いい?」
「朝陽がいいんだよ」
朝陽は悲鳴のような声を上げて泣いた。きっと今まで沢山の不安を抱えてそばにいてくれたのだろう。オメガであるかもしれないこと。森之宮の家の事。朝陽はぐすぐすと鼻を鳴らしながら顔を上げた。
「さっくん…僕ね、オメガの薬、飲んでるんだ。病院で診てもらって、確定前にも飲めるやつ。…今度ね、さっくんのママさんの、お話聞きたい。オメガってわかった時、どうだったのか…少し、覚悟が、できるかなって」
「華に予定、聞いておくよ」
「僕ね、さっくんが好き。さっくんの傍にいる。さっくんが嫌って言っても、いる。僕、負けない、オメガに…もう、負けない」
「そんで来週も、俺を映画に連れてくんだろ?」
朝陽はぐっと拳を握って決意していた。不穏な空気が流れた二人だが、落ち着くところに落ち着いたと思う。咲也が苦笑しながら来週の映画の予定を伝えると、朝陽は花咲くように笑った。
「うん!ペンライト、さっくんの分もあるからね!」
「いや、それは」
「がんばえぷい◯ゅあー!だよ!ほら、腕上げて!がんばえー!」
「わかったわかった、静かにしろって。サボってんだぞ、俺達」
朝陽はあっ!と声を上げて大人しく咲也の隣に腰掛けた。二人は顔を見合わせて笑いあった。
咲也編 END
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