森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
51 / 78
森之宮家の三兄弟

12

しおりを挟む
「そういうつまんねぇ人間だけど。俺は、お前の傍にいたい」
「つまんなく、ないよ…さっくんは、すごく、優しくて…素敵な、人だよ」
「お前はどうしたい?この先、俺と。一緒に、いてくんねぇの?」
咲也が問うと、朝陽は涙を零した。しゃくりあげながら泣く朝陽の答えを、咲也は辛抱強く待った。しばらく泣いていた朝陽はやっと少しずつ話始めた。
「さっくんと、いたい。一緒、に、ずっと……ごめんね、僕、駄目なんだ。怖い。やっぱり、赤ちゃん、産むの、怖い…」
「作んなきゃいいだろ。避妊する方法はいくらでもある。それにな。俺はそもそも、お前に妊娠も出産もさせたくない」
「うん…ん?な、なんで?」
朝陽は首を傾げる。
「開斗のな、出産に立ち会ったんだけど、正直トラウマになってる。華が暴れるわ暴言吐くわ、めちゃくちゃでな」
「さっくんの、ママさんが?」
朝陽は目を丸くして咲也を見た。朝陽は華とも面識がある。会った回数は裕司よりも多い。普段の穏やかな姿を見ている朝陽には想像もつかないだろう。
咲也は今も鮮明に思い出せる。父に暴言や呪詛を吐いて暴れる母と、どうしたらいいかわからずうろたえる父の姿を。二人のあんな姿を見たのはあれが最初で最後だ。父は産後、しばらく泣き止まなかった。母は気を失うように眠ってしまった。
「裕司を殴るだの恨むだの叫んでたし、殴りかかってたし。でも医者も看護師も安産だって笑ってたんだよ。それ見て、俺、めちゃくちゃビビってな。俺は相手ができても、出産させたくねぇって思ったんだよな」
それが咲也の正直な本音で、産ませたくない理由だ。両親には申し訳ないし、よく懐いている開斗はとても可愛い弟なのだが、あの出産は幼い咲也には衝撃で恐怖でしかなかった。親には言いづらくていったことはない。元々無痛分娩で予約もしていたが思いの外早く産気づいてしまったので、誰も悪くはない。しかし、豹変してしまった華と、役立たずと化した裕司に、出産自体に強い恐怖を感じてしまった。咲也の中でトラウマになってしまっている。
「…でも、もし、…さっくんが、欲しくなったら?」
「そん時考えればいい。お前が欲しくなるかもしれないだろ。その時に一番良い方法を考えればいい」
朝陽は咲也にしがみついた。咲也の胸に顔を埋める。
「ごめんね、さっくん、ごめん…知ってたんだよ、僕、妊娠のことも、出産のことも…オメガになったらって、頭で、わかってたのに…どうしても、怖い…」
「…うん」
「でも、それでも、…僕、さっくんといたい。ずっと、一緒、いたい…いいの?僕、で、いい?」
「朝陽がいいんだよ」
朝陽は悲鳴のような声を上げて泣いた。きっと今まで沢山の不安を抱えてそばにいてくれたのだろう。オメガであるかもしれないこと。森之宮の家の事。朝陽はぐすぐすと鼻を鳴らしながら顔を上げた。
「さっくん…僕ね、オメガの薬、飲んでるんだ。病院で診てもらって、確定前にも飲めるやつ。…今度ね、さっくんのママさんの、お話聞きたい。オメガってわかった時、どうだったのか…少し、覚悟が、できるかなって」
「華に予定、聞いておくよ」 
「僕ね、さっくんが好き。さっくんの傍にいる。さっくんが嫌って言っても、いる。僕、負けない、オメガに…もう、負けない」
「そんで来週も、俺を映画に連れてくんだろ?」
朝陽はぐっと拳を握って決意していた。不穏な空気が流れた二人だが、落ち着くところに落ち着いたと思う。咲也が苦笑しながら来週の映画の予定を伝えると、朝陽は花咲くように笑った。
「うん!ペンライト、さっくんの分もあるからね!」
「いや、それは」
「がんばえぷい◯ゅあー!だよ!ほら、腕上げて!がんばえー!」
「わかったわかった、静かにしろって。サボってんだぞ、俺達」
朝陽はあっ!と声を上げて大人しく咲也の隣に腰掛けた。二人は顔を見合わせて笑いあった。



咲也編 END
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

処理中です...