上 下
49 / 78
森之宮家の三兄弟

10

しおりを挟む
「開斗ぉ~…パパ、泣いちゃう…」
「ほら、華とエリカさんの手伝い。行くぞ」
「「は~い」」
開斗は元気いっぱい、伊吹は不貞腐れなが返事をしてキッチンに向かう。泣いちゃうパパをガン無視して食事となった。


食後、咲也は華に声を掛けた。
「第2性の、授業?」
「やった?高校生の時。こないだ、朝陽がぶっ倒れて」
「やった、やった。僕も具合悪くなって、裕司に保健室に連れてってもらったよ。懐かしいな…そっか。咲也ももう、そんな年齢だね」
今度は華と共にソファに腰掛けた。裕司は伊吹と開斗と風呂に入っている。
「そんな、具合悪くなるもん?」
「うーん、授業内容っていうか、教室内の雰囲気が、ね。そっか、朝陽君の話してたんだ。咲也があんな顔してるなんてって思ったけど…朝陽君のことだよねぇ、やっぱり」
華はうんうんと頷いて納得している。さっきリビングで裕司と話をしていた時、華は察して開斗と伊吹と共に別室にいてくれたようだ。扉越しに見たのかもしれない。
「教室内の雰囲気って?」
「ん…あの学園は、両親のどちらかがアルファだったり、両親共にアルファだったりする子が多いでしょ?だから、まだ第2性がわからないうちからアルファとして振る舞う子が、多いんだよね。無意識か、意識的か、わからないけど。僕はあの授業の時、クラスメイトがオメガに対して、どう思っているのかを知って…映像が流れてるの指さして、『オメガはあれが好きなんだ』とか、出産のシーンを見て、『オメガは男じゃない』とか」
華は話しながら、両手を握りしめた。もう20年近く前のことだが、今も不快に思うくらい記憶に残っているようだ。
「もちろん知識にはあったんだよ?僕は両親がオメガだし、森之宮の家にいたのも、次期当主の妻になるためだったわけだし。でも、あの授業で、今まで別け隔てなく授業を受けていたクラスメイトが、突然違う世界の人になってしまったような…オメガに対する生々しい意識を肌で感じて、怖くて、気持ちが悪く、なっちゃったんだよね」
咲也は映像を見てもなんとも思わなかった。それはきっと無意識に、自分はアルファだと思って見ていたからかもしれない。確かに、笑って指さして興奮している生徒もいた。中学生じゃあるまいしと思ったが、オメガかもしれない朝陽は違う。あの嘲笑が、興奮や興味が自分に向くかもしれない。一緒に学び遊んできた同級生が、一斉に偏見を持った目で見てくる。
「あの授業が悪いんじゃないし、アルファやベータの全員がそう思ってるわけじゃない。同じようにオメガかもしれない子でも、なんとも思わない子のほうが多いのかもしれない。でも、僕は嫌だった。きっと朝陽君も…」
朝陽も同じだったのだろう。その不快さは、味わった本人にしかわからない。どれほど不愉快で、怖かっただろう。
その上、咲也とこの先どうなるのかという不安も抱えていた。余計に体調に強く現れてしまったのかもしれない。
「咲也を妊娠していなくても、僕はきっと学園に通えなかった。そのくらいショックを受けて、同級生が気持ち悪く思えたんだ。でもね、大人になってみると…周りの目はもっと酷かったりするんだよ。僕は、裕司がいたから乗り越えられた。咲也も、朝陽君の傍にいてあげてほしいって、思う。まだ第2性は確定していないと、思うけど」
華はぐっと拳を握って言葉を切った。朝陽はオメガだと、華も思っているのだろう。さっき、裕司も朝陽がオメガだと断言していた。オメガとわかる何かがあるのかもしれない。
しかし診断がされていない以上、オメガだと推測することも偏見と同じだ。華はきっと、そう思って口にはしない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

処理中です...