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森之宮家の三兄弟
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「だって、オメガだったら…さっくん、森之宮の家の、長男、でしょ?森之宮製薬の、大切な…跡取り、とか、…やだ、妊娠とか、出産なんて、嫌だ」
「だから、まだオメガかどうか…」
「じゃあ、僕がベータだったら?アルファだったら?赤ちゃん、産めない。僕、捨て…捨てられ、るの?」
最近朝陽が暗い顔をしていた。オメガになるかもしれない恐怖心からかと思っていたが、それだけじゃなかったようだ。
咲也は森之宮家の長男。考えなかったわけじゃない。
「…俺が、オメガになる可能性だってあるだろ」
「ないよ!さっくんは、アルファだよ、わかるもん。パパとも、ママとも、違う、さっくんはアルファだよ。わかるよ、僕…」
朝陽はとうとう泣き出した。ベータの父とオメガの母を持つ朝陽は、そのどちらとも違う咲也にアルファを感じ取っている。咲也が朝陽に、オメガを感じているように。
産みたくないなら産まなくていいと思うし、できれば産んでほしくない。産んでほしくない理由があるのだが、跡取りや森之宮の名前を出されると強くも言えなくなってしまう。
その日、朝陽は早退した。迎えに来た朝陽の母と共にタクシーで帰宅した。咲也は二人を見送る。朝陽は一度も咲也の顔を見なかった。
それから咲也は、裕司が早めに帰宅した日に切り出した。
「裕司。話したいこと、あんだけど」
「お?おぉ…なんだよ、改まって」
ソファに寝転がっていた裕司は姿勢を正す。咲也は真剣に、意を決して裕司に切り出した。
「俺、…森之宮を継ぐ気が、ない。継ぎたくねぇっつったら、どうなる?」
「いんじゃね?継がなくて」
「俺じゃなくて、伊吹と開斗がいっから、どっちかに………は?」
咲也は裕司に聞き返した。真剣に話をしているのにあまりにあっさりとした返答に、聞き間違ったのかと思った。
「なんだよ、そんな話かよ…どっちかが継ぐっつったらそれはそれだけど。継がねぇならいいよ。会社は別の人間立たすつもりだし。お前な、深刻な顔してっから、ついに朝陽ちゃん孕ましたかと…ふざけんなよ!」
幼い頃から何度か朝陽はこの家に遊びに来ていて、裕司とも華とも面識がある。付き合っていると伝えていなかったが、いつしか父にはバレていたようだ。
「ふざけてねぇし。朝陽がオメガって、決まったわけじゃ」
「オメガだろ、あの子は。そんでお前はアルファだ。お前な、高校生で妊娠させましたとか、まじでやめろよ。叱れねぇんだから、俺は」
裕司は深いため息をついた。咲也ができたのは裕司が今の咲也くらいの年で、確かにもしも咲也が誰かを妊娠させても裕司は強く叱れないだろう。自分がやってきたことだからだ。
裕司は顔を上げて咲也を睨めつける。
「そもそもな、やる気のない人間に会社継がせるかよ。従業員の人生背負うんだぞ。働いてる人間だって、やる気ない人間に社長やられたかねぇだろうよ」
裕司に指摘され、それはその通りだと咲也は思う。しかし、本当にそれでいいのだろうか。言葉に詰まっていると裕司は首を傾げる。
「森之宮継ぐったって、俺の実家は健司…お前の叔父さんが相続して管理してるし。会社は別の人間にやらせたいし。お前、何すんの?」
「何すんの?って、俺が聞きてぇんだけど。孫、とか、その下の、跡継ぎを作る、とか?今のところ、子供作る気がねぇんだけど」
「んなもん。跡継ぎがいねぇならいねぇでしょーがねぇだろ。俺が当主になった時点で終わってんだわ、森之宮は。途絶えてもかまわねぇんだって。お前らが気にするこっちゃねぇ」
「だから、まだオメガかどうか…」
「じゃあ、僕がベータだったら?アルファだったら?赤ちゃん、産めない。僕、捨て…捨てられ、るの?」
最近朝陽が暗い顔をしていた。オメガになるかもしれない恐怖心からかと思っていたが、それだけじゃなかったようだ。
咲也は森之宮家の長男。考えなかったわけじゃない。
「…俺が、オメガになる可能性だってあるだろ」
「ないよ!さっくんは、アルファだよ、わかるもん。パパとも、ママとも、違う、さっくんはアルファだよ。わかるよ、僕…」
朝陽はとうとう泣き出した。ベータの父とオメガの母を持つ朝陽は、そのどちらとも違う咲也にアルファを感じ取っている。咲也が朝陽に、オメガを感じているように。
産みたくないなら産まなくていいと思うし、できれば産んでほしくない。産んでほしくない理由があるのだが、跡取りや森之宮の名前を出されると強くも言えなくなってしまう。
その日、朝陽は早退した。迎えに来た朝陽の母と共にタクシーで帰宅した。咲也は二人を見送る。朝陽は一度も咲也の顔を見なかった。
それから咲也は、裕司が早めに帰宅した日に切り出した。
「裕司。話したいこと、あんだけど」
「お?おぉ…なんだよ、改まって」
ソファに寝転がっていた裕司は姿勢を正す。咲也は真剣に、意を決して裕司に切り出した。
「俺、…森之宮を継ぐ気が、ない。継ぎたくねぇっつったら、どうなる?」
「いんじゃね?継がなくて」
「俺じゃなくて、伊吹と開斗がいっから、どっちかに………は?」
咲也は裕司に聞き返した。真剣に話をしているのにあまりにあっさりとした返答に、聞き間違ったのかと思った。
「なんだよ、そんな話かよ…どっちかが継ぐっつったらそれはそれだけど。継がねぇならいいよ。会社は別の人間立たすつもりだし。お前な、深刻な顔してっから、ついに朝陽ちゃん孕ましたかと…ふざけんなよ!」
幼い頃から何度か朝陽はこの家に遊びに来ていて、裕司とも華とも面識がある。付き合っていると伝えていなかったが、いつしか父にはバレていたようだ。
「ふざけてねぇし。朝陽がオメガって、決まったわけじゃ」
「オメガだろ、あの子は。そんでお前はアルファだ。お前な、高校生で妊娠させましたとか、まじでやめろよ。叱れねぇんだから、俺は」
裕司は深いため息をついた。咲也ができたのは裕司が今の咲也くらいの年で、確かにもしも咲也が誰かを妊娠させても裕司は強く叱れないだろう。自分がやってきたことだからだ。
裕司は顔を上げて咲也を睨めつける。
「そもそもな、やる気のない人間に会社継がせるかよ。従業員の人生背負うんだぞ。働いてる人間だって、やる気ない人間に社長やられたかねぇだろうよ」
裕司に指摘され、それはその通りだと咲也は思う。しかし、本当にそれでいいのだろうか。言葉に詰まっていると裕司は首を傾げる。
「森之宮継ぐったって、俺の実家は健司…お前の叔父さんが相続して管理してるし。会社は別の人間にやらせたいし。お前、何すんの?」
「何すんの?って、俺が聞きてぇんだけど。孫、とか、その下の、跡継ぎを作る、とか?今のところ、子供作る気がねぇんだけど」
「んなもん。跡継ぎがいねぇならいねぇでしょーがねぇだろ。俺が当主になった時点で終わってんだわ、森之宮は。途絶えてもかまわねぇんだって。お前らが気にするこっちゃねぇ」
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