森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

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森之宮家の三兄弟

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華は伊吹を抱いたまま咲也を連れて寝室に向かう。ベッドに降ろした伊吹は既に半分眠っているようだ。指をしゃぶって半目になっている。咲也はベッドボードに置いてあった本を手にとって読み始めた。小学生の低学年の漢字は読めるので、年齢より少し上の児童書だ。静かに傍で本を読んでくれる咲也の頭を撫でた。
咲也はもっと小さい時から手がかからなかった。伊吹がお腹にいる時も、つわりで寝込んでいる時、大人しく絵本を読んだり一人遊びをしてくれていた。その分伊吹の激しさに裕司共々驚き疲弊しているのも事実だ。
華はお腹を擦る。帰宅して早々、子供達からの華攻撃に合いながら遊んでいる時から感じていた違和感。なんとなく、痛いような気がする。気のせいかと思っていると寝室の扉が開いた。裕司だった。目覚めたらしい。おでこを擦りながら近づいてくる。
「華、ごめん。帰って早々、伊吹投げっぱなしで」
「ううん、大丈夫。咲也も伊吹も、僕がいなくて寂しかったもんね」
咲也に声を掛けると、咲也は無言で頷いた。年より大人びた咲也だが、まだ幼い子供だ。華は再度咲也の頭を撫でる。しかし、違和感から手の動きがぎこちなくなってしまった。咲也は本から顔を上げる。華は体を横たえた。ベッドに倒れ込んだ華に、裕司は声をかける。
「華?疲れた?」
「ん…ちょっと、お腹、痛いような…裕司は?おでこ、痛くない?」
「いや、それは全然…大丈夫か?いつから痛い?」
「さっき、二人と、遊んでた、時から…」
華は息絶え絶え応える。なんだか痛みに波がある気がする。裕司のおでこを気にしたときはなんともなかったのに、また痛みが強くなった。
気のせい、違和感、とごまかせなくなってきている気がする。
痛みが引いて華は息を吐く。
「なんだろう…痛い、ような…ううん、痛い…なんだろう、これ、お腹、痛い…」
「まじか、どの辺?お腹って、大丈夫かな。救急車呼ぶか」
また痛みが襲ってきた華は息を詰めた。痛みに耐えていると咲也の声が耳に入った。
「それ、陣痛じゃね?」
「「じんつう?」」
華は裕司と声を揃えて咲也に問うた。陣痛とはなんだったか考えて思い出した。妊婦は産気づくと陣痛が始まるらしい。しかし分娩の予定は来週で、まだ華に産む準備はできていない。
「でも、分娩予定は、来週で…」
「じんつうって、陣痛?陣痛なの!?」
「華の出産のパンフレットで見た。痛がってるのずっとじゃないし、波があるって」
確かに咲也の言う通り、陣痛は波がある。華は咲也と伊吹の二人共計画的に無痛分娩で産んでいるので、陣痛の痛みを経験したことがなかった。今回も無痛分娩で、来週がその予定日だ。
毎回予定通りの無痛分娩だったので、前もって陣痛が来てしまうなんて想定していなかった。
裕司も陣痛で苦しむ華は見たことがないのでわからなかったのだろう。
もしも陣痛がきたら病院に来てと言われたことを思い出した。
「ゆ、うじ、…病院、いく、…救急車、だめ、」
「お、おぉ、車、車でな、運転手待ってらんねぇから、俺が、車、」
「落ち着け裕司。伊吹は俺が抱っこしてくから、華は裕司が」
「う、…波が落ち着けば、大丈夫、歩けるよ、大丈夫。ありがとう、咲也、ほんと、頼りにな…ぅう…」
咲也は眠る伊吹を抱えて立ち上がった。華も立ち上がる。裕司は車の鍵を持って、華を抱えて車へ急いだ。
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