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森之宮家の三兄弟
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当時はオメガに対する偏見が根強く残っていたらしい。今はオメガに対する抑制剤の他、父が先頭に立って開発されたアルファの新薬もある。妊娠をさせないための薬と、第2性が分かる前から服用できる抑制剤の開発を、父と森之宮製薬の開発チームは成し遂げた。アルファと確定する前からアルファと思われる者が服用できるアルファ専用抑制剤。もしも診断された第2性がベータやオメガだとしても重篤な副作用はないとされている。万が一確定前に発情期がきたオメガと遭遇しても、ヒートを起こさない。これは父の経験から開発に着手された薬だ。咲也も病院で処方してもらい、飲んでいる。薬の選択肢も増えたことでこの学校での第二性によるクラス分けはなくなった。
森之宮製薬は服用回数を少なくした抑制剤など、第2性に関する薬を様々開発し、発表していた。
オメガのみならず、アルファによる自己防衛策が確立されたことで、益々オメガとアルファに隔たりはなくなっていている。はずだった。
朝陽は暗い顔で笑う。
「時々ね、たぶん、アルファだろうなって子が、僕のこと見てるんだ。今までみたいに、僕が変なやつだから笑ってるんじゃなくて、なんか、違くて…『朝陽は絶対オメガだ』って、言ってるの、聞こえちゃって。僕、ちょっと、怖いんだ」
隔たりも偏見も、なくなってなんていなかった。アルファの中で、アルファであるだろう人間にとってオメガは今だに欲のはけ口で、卑下する対象だった。
「さっくんがいると、安心する。みんな、僕がさっくんと付き合ってるの知ってるから、下手なことしてこないけど…ごめんね、さっくんを、盾みたいにして」
どうして朝陽がそんなことを気にしないといけないんだろう。朝陽がそんな視線にさらされていることに、咲也は気づいてはいた。朝陽の言う通り、自分が傍にいるから手を出そうとする者はいない。だから少し油断していた。まさかここまで朝陽が思い悩んでいるとは想像していなかった。そして母もきっと、こんな視線にさらされてきた。
なぜ、オメガであるというだけでこんな目に合うのだろう。朝陽の第2性はまだ確定されたわけでもないのに。
しかしそう考えられるのも母がオメガであり、なにより自身が、恐らくアルファだからだろうと咲也は思う。身近にオメガの男性がいる。それから、もしも自分がオメガかもしれないと思ったら、こんなに冷静に、同情的には考えられない。いかに自身の身を守るか。そう考えるだろう。それに、自分の身を守ることになんの躊躇も必要はないと咲也は思う。
「ちゃんと、俺の傍にいろよ。盾にしていいから。気にすんな」
朝陽の頭を撫でると朝陽はやっと、笑顔を見せてくれた。
しかし、そんな会話の後、すぐに不穏な空気がやってきた。
第2性についての授業で、朝陽は貧血を起こして倒れた。咲也が抱えて保健室に連れて行ったが、真っ青な朝陽は今にも泣きそうな顔で咲也に訴える。
「オメガは、出産するって…あんなこと、するの?僕、赤ちゃん、産むの?」
「…まだオメガって決まったわけじゃないだろ」
あんなことはとっくにしてるだろと思ったが、朝陽の言うあんなことは性行為ではなく、出産のことだったようだ。オメガの出産についても映像で見た。母が男性のオメガである咲也は男性オメガの出産に二度立ち会っている。特に三男開斗の出産は鮮明に記憶に残っている。
しかし、朝陽は初めて見たようで、衝撃だったようだ。ひどく怯えている。
森之宮製薬は服用回数を少なくした抑制剤など、第2性に関する薬を様々開発し、発表していた。
オメガのみならず、アルファによる自己防衛策が確立されたことで、益々オメガとアルファに隔たりはなくなっていている。はずだった。
朝陽は暗い顔で笑う。
「時々ね、たぶん、アルファだろうなって子が、僕のこと見てるんだ。今までみたいに、僕が変なやつだから笑ってるんじゃなくて、なんか、違くて…『朝陽は絶対オメガだ』って、言ってるの、聞こえちゃって。僕、ちょっと、怖いんだ」
隔たりも偏見も、なくなってなんていなかった。アルファの中で、アルファであるだろう人間にとってオメガは今だに欲のはけ口で、卑下する対象だった。
「さっくんがいると、安心する。みんな、僕がさっくんと付き合ってるの知ってるから、下手なことしてこないけど…ごめんね、さっくんを、盾みたいにして」
どうして朝陽がそんなことを気にしないといけないんだろう。朝陽がそんな視線にさらされていることに、咲也は気づいてはいた。朝陽の言う通り、自分が傍にいるから手を出そうとする者はいない。だから少し油断していた。まさかここまで朝陽が思い悩んでいるとは想像していなかった。そして母もきっと、こんな視線にさらされてきた。
なぜ、オメガであるというだけでこんな目に合うのだろう。朝陽の第2性はまだ確定されたわけでもないのに。
しかしそう考えられるのも母がオメガであり、なにより自身が、恐らくアルファだからだろうと咲也は思う。身近にオメガの男性がいる。それから、もしも自分がオメガかもしれないと思ったら、こんなに冷静に、同情的には考えられない。いかに自身の身を守るか。そう考えるだろう。それに、自分の身を守ることになんの躊躇も必要はないと咲也は思う。
「ちゃんと、俺の傍にいろよ。盾にしていいから。気にすんな」
朝陽の頭を撫でると朝陽はやっと、笑顔を見せてくれた。
しかし、そんな会話の後、すぐに不穏な空気がやってきた。
第2性についての授業で、朝陽は貧血を起こして倒れた。咲也が抱えて保健室に連れて行ったが、真っ青な朝陽は今にも泣きそうな顔で咲也に訴える。
「オメガは、出産するって…あんなこと、するの?僕、赤ちゃん、産むの?」
「…まだオメガって決まったわけじゃないだろ」
あんなことはとっくにしてるだろと思ったが、朝陽の言うあんなことは性行為ではなく、出産のことだったようだ。オメガの出産についても映像で見た。母が男性のオメガである咲也は男性オメガの出産に二度立ち会っている。特に三男開斗の出産は鮮明に記憶に残っている。
しかし、朝陽は初めて見たようで、衝撃だったようだ。ひどく怯えている。
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