森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

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森之宮家の三兄弟

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「…ごめんな、俺、役立たずで」
「うぅ…う~っ…たすけて、痛い、痛いよぉ…役立たず、ゆうじの、やく、たたず、ゴミっ…ゴミクズぅうううう」
「ゴミ、く…ごめん、ゴミだな。痛いの、楽にしてやれなくてごめんな、出せば楽になるから!出すまでの辛抱だ!」
「うるさいぃ!簡単に言うなぁあっ!……あ、裕司、咲也と、伊吹は?二人はどこ?」
「ごめんな!ごめっ…え?」
華はむくりと起き上がり、汗だくで周りを見渡した。今までの痛がりようはなんだったのか。華は咲也とその隣で眠る伊吹を見つけたようで笑顔を見せる。
「あ。そこにいたんだ。伊吹は寝てるの?咲也、ごめんね、もう少し、待って、てね」
「う、え?えぇ?」
「う、ぅううぅ、うぐぅうう!痛い、ゴミ、裕司の、ゴミぃい…!恨むから、恨むからね、なんでっ僕ばっかり、痛…裕司ぃいい!」
「待って!情緒わかんない、ついていけない!」
華は再び横になって唸り始めた。子供達の心配をしていたそばから裕司に呪詛を吐いている。一体華はどうしてしまったのだろうか。
上の子二人の出産はもっとゆったりとしていて会話もしていた。
咲也の時は『少し痛いかな、もうすぐ会えるね』と少し不安気に笑っていた。
伊吹の時は『もうすぐ赤ちゃんでるよ、こんにちはしてね』と穏やかに咲也に話しかけていた。
それがどうだろう。三人目の今回、華は目を血走らせて裕司を憎みきっている。重ね重ね、こんな華は見たことがない。怖い。産後、殴られるだけじゃ済まない気がする。裕司は骨の2、3本いかれることを覚悟した。
「失礼しますね~そろそろ全開かな~?…うん!先生、切開お願いします!」
「は~い切りますね~」
「森之宮さん、いきんでいいですよ!」
華の下半身を確認した土屋は医師に親指を立てた。医師が華の足元で何かをして、パチンと音がした。
「いき、いき、む?」
「うーんってタイミング合わせて!力、入れましょう!せーの、」
「森之宮さん、もう赤ちゃん出ますからね~」
「う、うーん!うぅううぅうっ!」
「上手上手!頭出てきましたよ~あともう少し!」
「ふぅうううううう!」
一際大きな声を上げた後、華の下半身が騒がしくなった。いつの間にか看護師が増えている。医師の手元には赤黒い物体がある。見たことのあるそれを見て、裕司は華に声を掛けた。
「産まれた!華、産まれたぞ!」
少し遅れて赤子はほやほやと泣き声を上げた。産声を聞いて、華の瞳から涙が流れた。
「や……やっと、出たぁ…」
裕司は(感想、それ?)と思ったが、赤子を胸に抱く華に裕司は肩の力を抜いた。華の顔はいつもの穏やかな表情に戻っている。
「華…あり、ありがとうな、出産、頑張っ…」
無事産まれた安堵感といつもの華に、裕司は両目からだらだらと水が流れた。
「ふふ…裕司、鼻水。汚い」
普段より辛辣だが、華は裕司にも笑顔を向けてくれた。裕司は流れる涙が中々止まらなかった。無事産まれてくれた感謝と華が元に戻ったらしい安堵と恐怖からの解放。涙が止まらなかった。
「おめでとうございます、森之宮さん。母子ともに健康、素晴らしい安産でしたね」
「いや~爆速安産でしたね~!おめでとうございます!」
あの壮絶な出産は安産だったらしい。医師と土屋は笑顔で動き回っていた。
赤子は別室に移された。産後の疲れで眠そうな華と、涙が止まらずにエグエグと声を上げる裕司と爆睡しきっている伊吹。こうして三男の出産は無事終わった。
しかし、出産のドタバタで気付けなかった。裕司の背後で咲也が真っ青になっていたことに。


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