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森之宮家の三兄弟
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華は病室でベッドに乗せられた。咲也は用意された椅子に座り、伊吹は近くの簡易ベッドに寝かされている。華の痛がりようと裕司の慌てぶりに、さすがの咲也も少し青くなっている。この騒動の最中、伊吹は寝息を立ててぐっすり眠っていた。
「あっもう9センチですよ、やっぱり早いですね~旦那さん!声かけてあげてください」
「は?えっ、華、大丈夫か、しっかり!」
痛みを堪えて無言の華の手を握る。と、土屋にはたき落とされた。
「駄目です旦那さん!握られたら、ぐちゃぐちゃにされて元に戻りませんよ!」
「ぐちゃっ…なんて!?」
「複雑骨折しちゃうんですよ~奥様、男性ですからね。痛みに耐えようとしてものすごいパワーを出しますよ。ベッドに握る棒がついてますから、こっち握ってもらいましょう。これね、強い合金なのにひん曲がっちゃうんですよ~毎回取っ替えるんですから、男性の力はすごいですよね。旦那さん、腰を擦ってあげて下さい!手は取られないように、声かけお願いします!」
土屋に促されて裕司は華の腰を擦る。華の拳が頬を掠った。裕司の背中に冷たいものが伝う。
「い、痛いよな、華、頑張れ、頑張れ!」
「う、うる………うるさぁああい!痛いよ!痛い!無理です!無理ぃ!頑張れないぃいー!!」
「暴れませんよ~いきんじゃだめですよぉ、森之宮さん。もう少しですよ~はい、旦那さんも声かけ!」
「いや、うるさいって今……華、もう少しだ!もう少し我慢だ!」
ベッドの上で丸くなって唸る華に、裕司は必死に声を掛ける。うるさいと言われたが、めげずに裕司は華を励ました。顔を上げた華は裕司を下から睨みつける。華のこんな顔は初めて見た。
「…がまん?って、なに?…なんで、僕だけ、こんな、痛いの?なんで?」
「う…そ、それは…」
「なんでぇ、僕だけぇ…痛い、痛ぃい…恨むから、裕司、殴るから、終わったら、ぶん殴るから、殴ってやるぅううう!うーっ!痛いぃい!」
裕司は言葉に詰まった。返す返す、こんな華は見たことがない。いつも穏やかで優しく微笑む姿しか見たことがない。こんな、人殺しのような顔でぶん殴るだなんて、こんな一面があったなんて知らなかった。華はじたばた暴れて拳を振り回す。間一髪躱したり食らったりしながら裕司は華を励ます。出産は人を変えてしまう。裕司は思い知った。
「森之宮さん、元気だなー。叫ぶ気力があるのはいいことです」
「産後の回復も早そうですね~先生、お昼食べました?」
「さっきね、おにぎり食べましたよ。森之宮さんだからここにいようと思って。でも想像以上に早かった。慌てなくて良かったなぁ」
「ですね~本当、爆速!終わったらゆっくりご飯食べて下さい!」
「もう時間的にオヤツかな~」
苦しむ華の横で、医師と土屋は談笑している。再びぶん殴りたくなったが華のうめき声がどんどん大きくなってきた。叫ぶこともできなくなってきたようで、必死に痛みに耐えている。
「辛いよな、大丈夫か?痛いよな、俺に、なんか、できること…腰、どうだ?楽になっ」
「この、へたくそ!痛い!土屋さ、痛いぃ、」
「はいはい、腰ね、この辺をグリグリですよ、旦那さん。どうですか~?」
「うぅ~痛い、けど、うぅうう…」
華は裕司が触っているときよりも断然楽そうな顔をしている。華が他の男に体を触られているとか、どうでもよくなった。とにかく華を楽にしてあげて欲しい。ただ、『へたくそ』は忘れられない深い傷になった。
「あっもう9センチですよ、やっぱり早いですね~旦那さん!声かけてあげてください」
「は?えっ、華、大丈夫か、しっかり!」
痛みを堪えて無言の華の手を握る。と、土屋にはたき落とされた。
「駄目です旦那さん!握られたら、ぐちゃぐちゃにされて元に戻りませんよ!」
「ぐちゃっ…なんて!?」
「複雑骨折しちゃうんですよ~奥様、男性ですからね。痛みに耐えようとしてものすごいパワーを出しますよ。ベッドに握る棒がついてますから、こっち握ってもらいましょう。これね、強い合金なのにひん曲がっちゃうんですよ~毎回取っ替えるんですから、男性の力はすごいですよね。旦那さん、腰を擦ってあげて下さい!手は取られないように、声かけお願いします!」
土屋に促されて裕司は華の腰を擦る。華の拳が頬を掠った。裕司の背中に冷たいものが伝う。
「い、痛いよな、華、頑張れ、頑張れ!」
「う、うる………うるさぁああい!痛いよ!痛い!無理です!無理ぃ!頑張れないぃいー!!」
「暴れませんよ~いきんじゃだめですよぉ、森之宮さん。もう少しですよ~はい、旦那さんも声かけ!」
「いや、うるさいって今……華、もう少しだ!もう少し我慢だ!」
ベッドの上で丸くなって唸る華に、裕司は必死に声を掛ける。うるさいと言われたが、めげずに裕司は華を励ました。顔を上げた華は裕司を下から睨みつける。華のこんな顔は初めて見た。
「…がまん?って、なに?…なんで、僕だけ、こんな、痛いの?なんで?」
「う…そ、それは…」
「なんでぇ、僕だけぇ…痛い、痛ぃい…恨むから、裕司、殴るから、終わったら、ぶん殴るから、殴ってやるぅううう!うーっ!痛いぃい!」
裕司は言葉に詰まった。返す返す、こんな華は見たことがない。いつも穏やかで優しく微笑む姿しか見たことがない。こんな、人殺しのような顔でぶん殴るだなんて、こんな一面があったなんて知らなかった。華はじたばた暴れて拳を振り回す。間一髪躱したり食らったりしながら裕司は華を励ます。出産は人を変えてしまう。裕司は思い知った。
「森之宮さん、元気だなー。叫ぶ気力があるのはいいことです」
「産後の回復も早そうですね~先生、お昼食べました?」
「さっきね、おにぎり食べましたよ。森之宮さんだからここにいようと思って。でも想像以上に早かった。慌てなくて良かったなぁ」
「ですね~本当、爆速!終わったらゆっくりご飯食べて下さい!」
「もう時間的にオヤツかな~」
苦しむ華の横で、医師と土屋は談笑している。再びぶん殴りたくなったが華のうめき声がどんどん大きくなってきた。叫ぶこともできなくなってきたようで、必死に痛みに耐えている。
「辛いよな、大丈夫か?痛いよな、俺に、なんか、できること…腰、どうだ?楽になっ」
「この、へたくそ!痛い!土屋さ、痛いぃ、」
「はいはい、腰ね、この辺をグリグリですよ、旦那さん。どうですか~?」
「うぅ~痛い、けど、うぅうう…」
華は裕司が触っているときよりも断然楽そうな顔をしている。華が他の男に体を触られているとか、どうでもよくなった。とにかく華を楽にしてあげて欲しい。ただ、『へたくそ』は忘れられない深い傷になった。
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