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森之宮家の三兄弟
1 三男、爆誕
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良く晴れた麗らかな午後。長らく入院生活を送っていた華が帰ってきた。子供達は大喜び、裕司も華に縋り付いた。
「待ってた!華、待ってた!華あぁ!!」
「うん。落ち着いて、裕司」
「はな!はなぁ!」
「うんうん。伊吹も僕のこと待ってたね。咲也も、おいで」
自宅についた途端、裕司と息子二人は華の腕にしがみついた。お腹に負担のかからないように、男達は左右に散る。華のお腹は大きく丸みを帯びていた。
三人目の妊娠発覚後、切迫早産と診断された華は数ヶ月病院に入院していた。久しぶりの帰宅に皆浮足立っている。
長男で6歳の咲也はあまり表情に変化はないが、ぴったりと華に寄り添う。次男で2歳の伊吹は何度も華の名前を呼んでしがみつく。夫で24歳の裕司が一番感情をあらわにしていた。
イヤイヤ期真っ盛りの伊吹が、随分と裕司の手を煩わせていたようだ。伊吹は、大人しく育てやすかった咲也と比べるとかなり手がかかった。華がいれば少し落ち着くのだが、その華がいなくなったことで何度も伊吹が爆発したらしい。ぶん投げられた食器を前に途方に暮れたのは一度や二度ではないと、見舞いに来た裕司は光を失った瞳で呟いていた。
「ごめんな。華も入院生活、辛かったろ」
愚痴ってごめんと謝る裕司に華は申し訳なくなってしまった。上二人の時と比べてつわりは軽く、入院したものの症状も軽かった。念の為の入院だったため、子育てから開放された華はのびのびと過ごしていた。病院のご飯は美味しくてもりもり食べられたし、夜もゆっくりぐっすり眠れた。伊吹に追い回される自宅にいるよりも快適だったことは胸の中に秘めて、華は曖昧に笑う。
臨月に入ったため、華は自宅待機ということで帰宅してきた。子育てから開放されていた入院生活を恋しく思うが、やはり帰宅を喜ぶ我が子は愛おしい。帰ってこられて良かったと思う。
「はな~はなぁ~」
「はいはい。伊吹、ねんね?咲也は?」
「眠くない」
「そっかぁ…伊吹を寝かしつけにいくけど、咲也も来る?」
帰宅して早々伊吹と咲也の遊びに付き合い、ぐずり始めた伊吹を抱き上げた華は寝室へ行こうとしていた。しかし、華の服の裾を咲也が掴む。
「華、裕司は?」
咲也に止められて気づくと、裕司はソファで伸び切って寝ていた。大きなソファセットなのに、長身の成人男性が眠ると少し窮屈そうに見える。華は伊吹を抱えたまま裕司を揺すった。
「裕司、寝るならベッド行かないと、風邪引くよ?」
「う~…うん。うん…」
裕司は返事をしたものの、向きを変えて起き上がらなかった。
華の入院からかなり早めの育児休暇を取った裕司は連日子供達の、主に伊吹の相手で大変お疲れのようだ。
「ゆじと、ここ、ねゆ」
「駄目。伊吹はお布団でねんね」
「起こさなくていいの?」
「うん。寝かせてあげ」
「ゆじと!ねうぅ!」
「あっ、伊吹、危なっ」
抱えた伊吹が裕司とソファで寝たいと仰け反る。落としそうになったその時、背後から鈍い音がした。振り返ると、裕司は頭を抑えてソファとローテーブルの間の床に転がっていた。
「いってぇ…角…」
どうやらソファから落ちた弾みでテーブルの角に頭をぶつけたらしい。大きな音に驚いたのか、咲也も伊吹も固まっていた。
「ほら、ソファで寝たらお父さんみたいになるよ。寝室、行くよ」
「うぅ…ソファで、寝て、ごめんなさい…」
裕司は頭をさすりながら謝っているが、まだ寝ぼけているようだ。
「裕司、でこが赤くなってる」
「自業自得です。伊吹も、わかった?」
「うっ!」
「待ってた!華、待ってた!華あぁ!!」
「うん。落ち着いて、裕司」
「はな!はなぁ!」
「うんうん。伊吹も僕のこと待ってたね。咲也も、おいで」
自宅についた途端、裕司と息子二人は華の腕にしがみついた。お腹に負担のかからないように、男達は左右に散る。華のお腹は大きく丸みを帯びていた。
三人目の妊娠発覚後、切迫早産と診断された華は数ヶ月病院に入院していた。久しぶりの帰宅に皆浮足立っている。
長男で6歳の咲也はあまり表情に変化はないが、ぴったりと華に寄り添う。次男で2歳の伊吹は何度も華の名前を呼んでしがみつく。夫で24歳の裕司が一番感情をあらわにしていた。
イヤイヤ期真っ盛りの伊吹が、随分と裕司の手を煩わせていたようだ。伊吹は、大人しく育てやすかった咲也と比べるとかなり手がかかった。華がいれば少し落ち着くのだが、その華がいなくなったことで何度も伊吹が爆発したらしい。ぶん投げられた食器を前に途方に暮れたのは一度や二度ではないと、見舞いに来た裕司は光を失った瞳で呟いていた。
「ごめんな。華も入院生活、辛かったろ」
愚痴ってごめんと謝る裕司に華は申し訳なくなってしまった。上二人の時と比べてつわりは軽く、入院したものの症状も軽かった。念の為の入院だったため、子育てから開放された華はのびのびと過ごしていた。病院のご飯は美味しくてもりもり食べられたし、夜もゆっくりぐっすり眠れた。伊吹に追い回される自宅にいるよりも快適だったことは胸の中に秘めて、華は曖昧に笑う。
臨月に入ったため、華は自宅待機ということで帰宅してきた。子育てから開放されていた入院生活を恋しく思うが、やはり帰宅を喜ぶ我が子は愛おしい。帰ってこられて良かったと思う。
「はな~はなぁ~」
「はいはい。伊吹、ねんね?咲也は?」
「眠くない」
「そっかぁ…伊吹を寝かしつけにいくけど、咲也も来る?」
帰宅して早々伊吹と咲也の遊びに付き合い、ぐずり始めた伊吹を抱き上げた華は寝室へ行こうとしていた。しかし、華の服の裾を咲也が掴む。
「華、裕司は?」
咲也に止められて気づくと、裕司はソファで伸び切って寝ていた。大きなソファセットなのに、長身の成人男性が眠ると少し窮屈そうに見える。華は伊吹を抱えたまま裕司を揺すった。
「裕司、寝るならベッド行かないと、風邪引くよ?」
「う~…うん。うん…」
裕司は返事をしたものの、向きを変えて起き上がらなかった。
華の入院からかなり早めの育児休暇を取った裕司は連日子供達の、主に伊吹の相手で大変お疲れのようだ。
「ゆじと、ここ、ねゆ」
「駄目。伊吹はお布団でねんね」
「起こさなくていいの?」
「うん。寝かせてあげ」
「ゆじと!ねうぅ!」
「あっ、伊吹、危なっ」
抱えた伊吹が裕司とソファで寝たいと仰け反る。落としそうになったその時、背後から鈍い音がした。振り返ると、裕司は頭を抑えてソファとローテーブルの間の床に転がっていた。
「いってぇ…角…」
どうやらソファから落ちた弾みでテーブルの角に頭をぶつけたらしい。大きな音に驚いたのか、咲也も伊吹も固まっていた。
「ほら、ソファで寝たらお父さんみたいになるよ。寝室、行くよ」
「うぅ…ソファで、寝て、ごめんなさい…」
裕司は頭をさすりながら謝っているが、まだ寝ぼけているようだ。
「裕司、でこが赤くなってる」
「自業自得です。伊吹も、わかった?」
「うっ!」
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