森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
39 / 78
番外編

あの日の話 完

しおりを挟む
「華、咲也さんがちょっと、お怒りです」
「ごめんね、うるさかったね……初体験、うまく、できた?」
華はしーっと人差し指を立てて口元に当てて咲也に謝ったあと、裕司に小声で華は尋ねてくる。今日の華はなんだかちょっとエロい。興奮したいのにさっきの話題が続行していて、裕司は興奮しきれなかった。裕司は再びヤケクソになった。
「それはもう、ね。相手の方が、初めてじゃなかったんで。できました。童貞、捨てました」
「はゎーっ!大人!大人だ!ひゃーっ!」
「ちょ、落ち着いて、なんなんこれ、なんの時間!?なんでこんな話してんの、俺!」
華は小声で大興奮している。裕司も小声で華をなだめた。もう少しで咲也がミルクを飲み終える。咲也は大人しくミルクを飲み続けていた。両親が騒がしいのはもう、諦めた様子だ。
「…あのね、僕、お付き合いとか裕司が初めてだし、そういうことってどんなふうにするのかなーって、気になっちゃって。裕司はいっぱい、お相手がいたでしょ?学生時代に友達から聞いたんだ。裕司が女の人といたとか、また別の女の人と一緒にいたとか、二股かけたとか」
「お、おぉっふ…どいつよ、そんなクソみてぇな噂を華の耳に入れたクソ馬鹿は。どいつ?健司にやらすわ、そいつ」
「裕司は知らないんじゃないかなぁ…なに、健司さんに、何させるの…で、何人くらいと付き合ったの?」
「んっ…さ、3人くらい…かな?」
「えぇー、本当~?」
華は本当に楽しそうに裕司の話に聞き入ったりつっこんだりしてくる。裕司は学生時代の、ほんの数年前の自分を恨んだ。せめて一人の相手と遊んでおけ、と。それよりも、腐ってないでさっさと華に告れ!と。裕司は己を叱咤した。
「ちなみにさ、お相手の方は、第2性はなんだったの?オメガの人は、いた?」
「いや、オメガはいなかった。ベータだけ…アルファもいたかな。でも、オメガの人は、いない」
それは裕司の中での決め事だった。華に想いが届かないならいっそ別の人間で、と、多くの女性と関係を持った。ただ、オメガ相手となると、どうしても華を連想してしまう。オメガの女性を、男性も、裕司は抱くことができなかった。
「そ、そうなんだ…じゃあ、オメガは、僕が初めて?」
「え?うん」
「えー…なんか、…嬉しい…へへへ」
華が頬を染めて照れ臭そうに笑う。思わぬ展開に裕司は哺乳瓶を握りしめた。咲也はミルクを飲みきってうとうとしている。華が、裕司の初めてになれて嬉しいと赤くなって、ちょっとエロい。咲也を抱き上げて背中を叩くと、爆速でげふーっと声が出た。
「華、哺乳瓶洗ってくる」
裕司は華に咲也を託し、哺乳瓶片手にキッチンに駆け込んだ。
(これは今日…やれそうな気がする!)
裕司は哺乳瓶をしっかり手早く洗って消毒液に突っ込む。走って寝室に戻った。走りながらゴムはいくつ残っていたか思い返す。存分に数はある。
「ゴムなくなるまで寝かさねぇぞ!は…」
頭の中で考えていたつもりの言葉を口から吐き出しながら寝室に入ると、広いベッドの上で華と咲也はすやすやと寝息を立てていた。咲也をそっとベビーベッドに横たえて、華に声をかけつつ体をまさぐる。
「華」
「ん…うん、ゆうじ、…大人だねぇ……むにゃ」
「…」
華は一瞬目を開けた。ふにゃりと笑って、しかしすぐにすやすや寝息を立て始めた。安らかな寝顔に、裕司は手を止めた。
華と顔を合わせないようにしていた頃、友達の家から女性の家まで渡り歩いていた。華と初めてした日から女性の家に行くことはなくなったが、寝床を求めるなら女性の家が一番楽だった。とにかく荒れていたあの頃。あの頃の自分に、裕司は思う。
(華といられてめちゃくちゃ幸せになる。でも、時々お預けを食らってめちゃくちゃ苦しむ)
裕司は荒ぶる股間を持て余しながら、過去の自分に語りかけた。


END
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...