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エピローグ 4
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「僕ね、もしもこの家にいなくても、健司さんと、裕司と出会ってなくても…きっとどこかで、裕司と出会って、裕司を好きになってたと思うんだ。そう思えるくらい、今、すごく幸せ………あー、駄目だ、恥ずかしい!健司さんがあんまり惚気けるから、僕も惚気けちゃった」
華は赤くなった頬を両手で覆って笑った。つられて健司も赤くなる。
聞くまでもない質問だったと思う。さっきの裕司と華のやり取りを見ていれば、健司でさえわかる。華は大切にされていて、今、とても幸せなのだろう。
「そんなに、惚気けてるか?俺…」
「すごいよ、もう、デレデレだよ。華『も』幸せかって…あー恥ずかしい…きっと彼女さんも、健司さんのことが大好きなんだね」
華に言われて、健司は顔を両手で覆った。そんなにデレついていたなんて自覚がなかった。自覚した今、健司はとても恥ずかしくなった。
「ミルク終わっ……なんだよ、この空気。なにしてたんだよ」
扉が開き、裕司が入ってきた。裕司は華を見て健司を見て、怪訝な表情を浮かべた。
「な、なんでもないよ、ね?」
「あぁ。なんでもない」
「なんでもないことないだろ。なんだよ、なにしてたん…」
「あっ、僕、部屋見てこようかな!持って帰るもの、あるかな!?」
「華、少し休むか?部屋はそのままにしてある。ベッドも使えるぞ」
追求してくる裕司から逃げるように華は立ち上がった。そんな華に声を掛ける。
産後しばらくは、体に出産の疲れが残ると彼女から教えられた。それがどのくらいの期間なのかはわからないが、なるべく気遣ってあげたほうがいいだろう。
健司の言葉に華は柔らかく笑う。
「ありがとう…少し、部屋にいてもいいかな。咲也、ベッドに寝かせてくる」
「悪い。ゆっくりしてきてな」
咲也はミルクを飲んで寝てしまったらしい。華は咲也を抱えて応接室を出ていった。
裕司は大きなため息とともにソファにどっかり座り込んだ。
「で、何してたんだよ」
「話をしていただけだ。内容は言えない」
「なんだそれ…気になるだろ」
「華に、裕司には秘密だと言われた」
「ますます気になるじゃねぇかよ。言えよ、おい」
健司は口を結んで黙った。華に秘密にしてと言われた以上話せない。まして自分がデレデレしていたことなど話せるわけがない。健司が沈黙を貫いていると、裕司が口を開いた。
「あの時、………華の、妊娠がわかったとき、華に何かしたか?」
裕司は真剣に、まっすぐ健司を見ていた。華の妊娠がわかったあの日、華を泣かせてしまった時のことだろうか。健司は首を横に振った。
「あの時は、近づきすぎて怯えさせた。それ以上は何もしてない。あの時も、その前も…俺は華に、何もできなかった」
守ることも優しくすることも、華の気持ちを考えることも、好きだと伝えることも。健司は何一つできなかった。
「…そうか」
裕司は間を置いて答えた。裕司はそれ以上、そのことについて聞くことはなかった。
健司は裕司と、学校のことや母のこと、裕司と華の暮らしについてぽつぽつと話し合った。なかでも華や咲也のこととなると裕司は饒舌に語った。
「顔はな、俺にそっくりだけど。中身は絶対華に似る。絶対。同じ月齢の子に比べたらやれること多いしな、大人しいし良く寝て親孝行でな、」
「裕司。その話、3回目なんだが」
華は赤くなった頬を両手で覆って笑った。つられて健司も赤くなる。
聞くまでもない質問だったと思う。さっきの裕司と華のやり取りを見ていれば、健司でさえわかる。華は大切にされていて、今、とても幸せなのだろう。
「そんなに、惚気けてるか?俺…」
「すごいよ、もう、デレデレだよ。華『も』幸せかって…あー恥ずかしい…きっと彼女さんも、健司さんのことが大好きなんだね」
華に言われて、健司は顔を両手で覆った。そんなにデレついていたなんて自覚がなかった。自覚した今、健司はとても恥ずかしくなった。
「ミルク終わっ……なんだよ、この空気。なにしてたんだよ」
扉が開き、裕司が入ってきた。裕司は華を見て健司を見て、怪訝な表情を浮かべた。
「な、なんでもないよ、ね?」
「あぁ。なんでもない」
「なんでもないことないだろ。なんだよ、なにしてたん…」
「あっ、僕、部屋見てこようかな!持って帰るもの、あるかな!?」
「華、少し休むか?部屋はそのままにしてある。ベッドも使えるぞ」
追求してくる裕司から逃げるように華は立ち上がった。そんな華に声を掛ける。
産後しばらくは、体に出産の疲れが残ると彼女から教えられた。それがどのくらいの期間なのかはわからないが、なるべく気遣ってあげたほうがいいだろう。
健司の言葉に華は柔らかく笑う。
「ありがとう…少し、部屋にいてもいいかな。咲也、ベッドに寝かせてくる」
「悪い。ゆっくりしてきてな」
咲也はミルクを飲んで寝てしまったらしい。華は咲也を抱えて応接室を出ていった。
裕司は大きなため息とともにソファにどっかり座り込んだ。
「で、何してたんだよ」
「話をしていただけだ。内容は言えない」
「なんだそれ…気になるだろ」
「華に、裕司には秘密だと言われた」
「ますます気になるじゃねぇかよ。言えよ、おい」
健司は口を結んで黙った。華に秘密にしてと言われた以上話せない。まして自分がデレデレしていたことなど話せるわけがない。健司が沈黙を貫いていると、裕司が口を開いた。
「あの時、………華の、妊娠がわかったとき、華に何かしたか?」
裕司は真剣に、まっすぐ健司を見ていた。華の妊娠がわかったあの日、華を泣かせてしまった時のことだろうか。健司は首を横に振った。
「あの時は、近づきすぎて怯えさせた。それ以上は何もしてない。あの時も、その前も…俺は華に、何もできなかった」
守ることも優しくすることも、華の気持ちを考えることも、好きだと伝えることも。健司は何一つできなかった。
「…そうか」
裕司は間を置いて答えた。裕司はそれ以上、そのことについて聞くことはなかった。
健司は裕司と、学校のことや母のこと、裕司と華の暮らしについてぽつぽつと話し合った。なかでも華や咲也のこととなると裕司は饒舌に語った。
「顔はな、俺にそっくりだけど。中身は絶対華に似る。絶対。同じ月齢の子に比べたらやれること多いしな、大人しいし良く寝て親孝行でな、」
「裕司。その話、3回目なんだが」
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