森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

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エピローグ 3

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いくら幼い頃から一緒とはいえ、どちらかの子供を妊娠させられる。
その恐怖はどれほどだっただろうか。彼女はまるで自分のことのように怒り、震えていた。怒りとともに恐怖も感じた。彼女の瞳は、『おぞましい』と言っていた。
「……うん。正直に言うと、怖かった。健司さんも、この家も、奥様も、…でも一番怖かったのは、学校かもしれない」
華は目を伏せた。
「学校でね、第2性の授業があった時。『オメガにだけはなりたくないな』って笑った人がいて…あぁ、僕は、みんなと一緒じゃないんだ、って。両親がオメガで、僕がオメガだろうからこの家にいるんだ、とか。全部、わかってるつもりだったんだけど」
「誰が、そんなことを」
「あ、その人が、僕の出生を知ってたとか、僕のことを言ったのかどうかはわからないんだ。でも、怖かった。頭ではわかってたのに。森之宮の家にいる理由も、オメガがどういう存在なのかも…学校の、みんながみんなそう思ってるわけじゃないと思うんだけど…」 
心がついてこなかった、と華は言った。そんな中、華は母から次の発情期が来次第、子供を身籠るように命令された。
健司も学校で聞いたことがある。
『森之宮にいたオメガが退学した』『妊娠したらしい』『アルファを誘惑して名家夫人の座についた』『さすが、オメガは体を使うのがお上手だ』
健司は発言者を捕まえて一つ一つを真正面から潰していった。
悪いのは自分達で、森之宮にいた彼になにも落ち度はない。彼を、悪く言わないで欲しい、と。
学校には良家の御子息御息女、アルファかアルファになりうる学生が数多く通ってる。
彼らはアルファ以外の第2性を下に見ている。ベータと判明した健司はその空気を肌で感じていた。
学校内には生徒にも教師にもベータはいる。最上級生に至ってはアルファより多くいる。両親がアルファとベータという組み合わせで、ベータになった者がほとんどだ。アルファの血が入っている、だからアルファになる、と思い込んでいた者達だ。ベータは数が多い。しかしあの学校では肩身は狭い。
そしてオメガは極端に少ない。自身がアルファだと思っていた健司は知らなかったし考えたこともなかった。アルファと、ベータと、オメガと、それぞれの苦悩と違いを。
改めて、自身の生家がしようとしていたことの異常さと、それに疑問を抱かなかった自分の愚かさを思い知らされた。
「この家も、俺も、間違っていた。怖がって当然だ。彼女に言われて思い知った。…本当に、悪かった」
華は少し青い顔を上げて微笑んだ。
「彼女さんと、たくさんお話してるんだね」
「え?あぁ、そうだな。たくさん、話を聞いてもらって…話をしている」
「なんだか昔の健司さんみたい。旦那様が亡くなった頃から…みんな、変わってしまったね。でも今はすごく、幸せそう。…僕ね、健司さんが優しいこと、知ってるよ。小さい頃、たくさん遊んでくれて…彼女さんも、きっと健司さんのそんなところに、惹かれたんだと思う」
健司は父が亡くなった頃を思い出した。母は当主代行として、慣れない生活に神経を尖らせるようになった。裕司は学年が上がるにつれて家に寄り付かなくなり、健司自身はそれまで以上に学業に打ち込んだ。
『裕司は自分勝手でしょうのない子…あなたは頑張るのよ、次の当主として』
重圧で周りが見えなくなっていた気がする。華の、自分と裕司に対する呼び方が変わって、滅多に話すこともなくなった。あの頃から、この家の人間たちはそれぞれに離れていってしまった。
それまでは、華も健司も裕司も分け隔てなく育てられてきた。母と離れてしまった華を不憫に思い、健司はよく遊びに誘った。優しさというよりは、同情心だったと思う。裕司に華を取られたくないという気持ちもあった。決して自分は優しいわけではない。しかし、彼女の声が聞こえた気がした。
『あなたは優しい人だから』
本当に自分は、優しい人間になれているだろうか。
「華も、今、幸せか?」
「ふふ…僕も、幸せ。…あのね、裕司に秘密にしてほしいんだけど…」
華は言葉を切って、何か決意するように一つ呼吸を吐き出した。
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