森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
32 / 78

エピローグ 1

しおりを挟む

華と裕司が久しぶりに帰ってきた。健司は二人を玄関ホールで出迎える。
帰ってきたというよりは遊びに来たと言ったほうが正しいかもしれない。二人はもう、別の場所で三人で暮らしている。
裕司の腕の中には二人の子供が抱かれていた。
「久しぶりだね、健司さん。ほら、おじさんだよ~」
「おじ…そうか、伯父になるのか」
華は健司を指さして裕司の腕の中に声をかけた。華の発言に、健司はちょっとショックを受ける。確かに、健司は伯父さんという立場になるのだが、まだ10代の健司にとってオジサンの称号は嬉しいものではない。しかし華に悪気がないこともわかっている。健司はぐっとオジサンを飲み込んだ。
小さな瞳がじっと健司を見つめている。その顔立ちは裕司に良く似ていた。
「咲也、だったな。こんにちは。…小さい裕司だな」
「ね。僕の遺伝子はどこに行っちゃったんだろう」
華がぽつりと呟いた。咲也は本当に裕司に良く似ていた。双子とはいえ二卵性なので、健司と裕司は似ていると言われるものの瓜二つとまではいかない。裕司と咲也は正に瓜二つだった。
「これから華に似てくるって。鼻とか似てるよ。耳とか…」
「鼻も耳も、裕司だろ」
「お前な、…空気読め!」
裕司は健司に牙を剥いた。華を見ると、少し口を尖らせている。裕司はフォローしようとしていたのではないだろうか。
しまった。正直なのはいいことだけど、と、彼女によく叱られてしまうのは、こういうところだ。
「悪かった。余計なことを言った」
「お?おぉ…」
すぐさま謝ると、裕司は目を丸くして健司を見た。
相手の気持を考えなさい。あなたは優しい人だから、ちゃんと理解できるよ。
彼女の声が、健司の脳裏をよぎる。


それから3人、咲也を含めた4人は玄関ホールから応接室に移動した。咲也は裕司の腕に抱かれたまま、辺りを見渡している。むちむち丸っこく、しかし目鼻立ちはハッキリしていて、ちゃんと人間だ。産まれたばかりの時に写真が送られてきたが、もっと赤黒くて想像の赤ん坊とはまるで違っていた。
「本当に、小さい裕司だな」
「しつけぇ…もうな、会う人間みんな言うわそれ。聞き飽きてんだわ」
「いや、写真で見た時はもっとこう…目も開いていないし、その…なんだ、うーん、」    
「もっとブサイクだったよね」
「それだ。もっとブサイクだった」
「てめ…いや、華も。言葉選んで」
華はふふふ、と声を上げて楽しそうに笑う。あの時、真っ青なで泣いていた姿が嘘のように。そんな華を見て、健司はほっとした。自然と笑みが浮かんでしまう。きっと華は今幸せなのだろう。
「なんだか健司さん、雰囲気が変わったね」
「な。彼女でもできたか」
「あぁ」
柔らかく笑う華と、からかうように笑った裕司は二人共目を見開いて健司を見た。
「…んっ、え…え?え?」
「な、おま、…なんて?」
「恋人ができた」
華と裕司は改めて固まっている。咲也は裕司の服を引っ張ったり触ったり、大人しくしていた。
まさかここまで驚かれるとは、健司のほうが驚いた。かいつまんで彼女との出会いを二人に話す。
自身がアルファでないと気づいたあの日、あちこちの病院で第2性を確定させる検査を受けた。その病院の一つ、小さな個人病院の看護師が今の健司の恋人だ。家を飛び出たはいいが行く宛のない健司を家においてくれた。少し年上の女性だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...