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エピローグ 1
しおりを挟む華と裕司が久しぶりに帰ってきた。健司は二人を玄関ホールで出迎える。
帰ってきたというよりは遊びに来たと言ったほうが正しいかもしれない。二人はもう、別の場所で三人で暮らしている。
裕司の腕の中には二人の子供が抱かれていた。
「久しぶりだね、健司さん。ほら、おじさんだよ~」
「おじ…そうか、伯父になるのか」
華は健司を指さして裕司の腕の中に声をかけた。華の発言に、健司はちょっとショックを受ける。確かに、健司は伯父さんという立場になるのだが、まだ10代の健司にとってオジサンの称号は嬉しいものではない。しかし華に悪気がないこともわかっている。健司はぐっとオジサンを飲み込んだ。
小さな瞳がじっと健司を見つめている。その顔立ちは裕司に良く似ていた。
「咲也、だったな。こんにちは。…小さい裕司だな」
「ね。僕の遺伝子はどこに行っちゃったんだろう」
華がぽつりと呟いた。咲也は本当に裕司に良く似ていた。双子とはいえ二卵性なので、健司と裕司は似ていると言われるものの瓜二つとまではいかない。裕司と咲也は正に瓜二つだった。
「これから華に似てくるって。鼻とか似てるよ。耳とか…」
「鼻も耳も、裕司だろ」
「お前な、…空気読め!」
裕司は健司に牙を剥いた。華を見ると、少し口を尖らせている。裕司はフォローしようとしていたのではないだろうか。
しまった。正直なのはいいことだけど、と、彼女によく叱られてしまうのは、こういうところだ。
「悪かった。余計なことを言った」
「お?おぉ…」
すぐさま謝ると、裕司は目を丸くして健司を見た。
相手の気持を考えなさい。あなたは優しい人だから、ちゃんと理解できるよ。
彼女の声が、健司の脳裏をよぎる。
それから3人、咲也を含めた4人は玄関ホールから応接室に移動した。咲也は裕司の腕に抱かれたまま、辺りを見渡している。むちむち丸っこく、しかし目鼻立ちはハッキリしていて、ちゃんと人間だ。産まれたばかりの時に写真が送られてきたが、もっと赤黒くて想像の赤ん坊とはまるで違っていた。
「本当に、小さい裕司だな」
「しつけぇ…もうな、会う人間みんな言うわそれ。聞き飽きてんだわ」
「いや、写真で見た時はもっとこう…目も開いていないし、その…なんだ、うーん、」
「もっとブサイクだったよね」
「それだ。もっとブサイクだった」
「てめ…いや、華も。言葉選んで」
華はふふふ、と声を上げて楽しそうに笑う。あの時、真っ青なで泣いていた姿が嘘のように。そんな華を見て、健司はほっとした。自然と笑みが浮かんでしまう。きっと華は今幸せなのだろう。
「なんだか健司さん、雰囲気が変わったね」
「な。彼女でもできたか」
「あぁ」
柔らかく笑う華と、からかうように笑った裕司は二人共目を見開いて健司を見た。
「…んっ、え…え?え?」
「な、おま、…なんて?」
「恋人ができた」
華と裕司は改めて固まっている。咲也は裕司の服を引っ張ったり触ったり、大人しくしていた。
まさかここまで驚かれるとは、健司のほうが驚いた。かいつまんで彼女との出会いを二人に話す。
自身がアルファでないと気づいたあの日、あちこちの病院で第2性を確定させる検査を受けた。その病院の一つ、小さな個人病院の看護師が今の健司の恋人だ。家を飛び出たはいいが行く宛のない健司を家においてくれた。少し年上の女性だった。
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