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もうそろそろ解禁していただいても良いのではないだろうか。
今日も風呂上がりの華が隣で良い匂いをさせている。裕司の我慢の限界はとっくに超えていた。
やはり華はいつも良い匂いがする。オメガ特有のものかと思っていたが、華の母と会った時もここまで匂いはしなかった。同じボディソープを使っているのに、華から放たれる匂いは裕司のそれとは違って感じる。華の首筋に鼻をつけて華の匂いを吸い込んでから舌を這わせる。
「ひっ!…あ、待って、ゆう」
「…あの時抑制剤が効かなかったのは、華のフェロモンってのも、でかかったのかもな」
華の静止を聞かなかったふりをして、華のパジャマの中に手を差し入れる。
「ふにゃ…ふぇええ」
その時、咲也が泣き出した。さっきまですやすやと眠っていたのにどうしたのか。華が裕司を押しのけて飛び起きた。
「ど、どうしたの咲也、泣いちゃったね。オムツかな」
華が咲也を抱き上げるが、ふみゃふみゃと泣いている。さっきの親孝行っぷりはどこにいってしまったのか。裕司は早く寝かしつけようとベッドから立ち上がる。華が焦った声を出した。
「咲也の体、熱い…?」
華の言葉に慌てて咲也の体に触れると、確かに熱い気がする。体温計で測ると38度を超えていた。
「どうしよう、お医者さんに…」
「夜間診療、どこでやってる?運転手、きてもらって…いや、俺が運転したほうが早いか。車のカギどこだっけ」
裕司は車のカギを探し、支度をして華と咲也と駐車場へ向かった。さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら。二人は咲也の初めての体調不良に大慌てで病院に向かった。
念のために入院した咲也は翌日解熱した。原因不明の子供の発熱はよくあることらしい。病院で一夜を過ごした裕司と華は眠たい目を擦って咲也と共に家路についた。咲也は落ち着いたのかよく眠っている。裕司と華の帰宅からまもなく、雪衣とエリカがやってきた。
「おはようございます、裕司様、華様。咲也様は…」
華は二人に咲也の発熱について説明している。咲也に大事がなくて良かった。
(良かった。良かったけど…良かったけど!!)
咲也を雪衣に託し、裕司と華はベッドに倒れ込む。華はすぐに寝息を立て始めた。まさかのお預けに、裕司はしばらく寝付くことができなかった。
数ヶ月が経ち、花の体調が落ち着いた頃を見計らって、裕司は華と共に翠のものへやってきた。翠の住む別荘につき、応接室へと通された。あの時の執事はまだ献身的に翠を支えているようだ。広末に話し、この執事への給料は破格の値段を提示した。田舎へ飛ばされることへの手当と翠の見張りをさせるためだった。
『奥様にひどいことを言うかもしれない』
華は道中そんなことを言っていた。裕司は華の思うようにしてくれと伝えた。裕司はできれば二度と顔を見たくないと思っていた。あんなことをした母親が憎かった。実の母親だからこそ、拒否感が強かった。
華と二人、無言で翠を待っていると、間もなく扉が開いた。
かなりやつれて年老いた母がそこにいた。
「二人とも久しぶりね。なんのご用かしら」
しゃがれた声は更に年齢を押上げている気がする。翠を見て、華の様子をうかがう。華は凛として翠を見据えていた。
翠が腰かけるのを見届けて華が口を開く。
「今日は、裕司さんと僕の、入籍と番を認めてもらうために来ました。裕司さんを僕に下さい。必ず、幸せにします」
華は座ったまま深く頭を下げる。こんな女に頭を下げなくていいと思ったが、華の発言の内容に裕司は驚いた。
入籍と番の挨拶をきちんとしたいという華の願いを聞き入れたが、まさかこんな言葉につながるとは思っても見なかった。まるで裕司が華に嫁入りするかのようだ。
今日も風呂上がりの華が隣で良い匂いをさせている。裕司の我慢の限界はとっくに超えていた。
やはり華はいつも良い匂いがする。オメガ特有のものかと思っていたが、華の母と会った時もここまで匂いはしなかった。同じボディソープを使っているのに、華から放たれる匂いは裕司のそれとは違って感じる。華の首筋に鼻をつけて華の匂いを吸い込んでから舌を這わせる。
「ひっ!…あ、待って、ゆう」
「…あの時抑制剤が効かなかったのは、華のフェロモンってのも、でかかったのかもな」
華の静止を聞かなかったふりをして、華のパジャマの中に手を差し入れる。
「ふにゃ…ふぇええ」
その時、咲也が泣き出した。さっきまですやすやと眠っていたのにどうしたのか。華が裕司を押しのけて飛び起きた。
「ど、どうしたの咲也、泣いちゃったね。オムツかな」
華が咲也を抱き上げるが、ふみゃふみゃと泣いている。さっきの親孝行っぷりはどこにいってしまったのか。裕司は早く寝かしつけようとベッドから立ち上がる。華が焦った声を出した。
「咲也の体、熱い…?」
華の言葉に慌てて咲也の体に触れると、確かに熱い気がする。体温計で測ると38度を超えていた。
「どうしよう、お医者さんに…」
「夜間診療、どこでやってる?運転手、きてもらって…いや、俺が運転したほうが早いか。車のカギどこだっけ」
裕司は車のカギを探し、支度をして華と咲也と駐車場へ向かった。さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら。二人は咲也の初めての体調不良に大慌てで病院に向かった。
念のために入院した咲也は翌日解熱した。原因不明の子供の発熱はよくあることらしい。病院で一夜を過ごした裕司と華は眠たい目を擦って咲也と共に家路についた。咲也は落ち着いたのかよく眠っている。裕司と華の帰宅からまもなく、雪衣とエリカがやってきた。
「おはようございます、裕司様、華様。咲也様は…」
華は二人に咲也の発熱について説明している。咲也に大事がなくて良かった。
(良かった。良かったけど…良かったけど!!)
咲也を雪衣に託し、裕司と華はベッドに倒れ込む。華はすぐに寝息を立て始めた。まさかのお預けに、裕司はしばらく寝付くことができなかった。
数ヶ月が経ち、花の体調が落ち着いた頃を見計らって、裕司は華と共に翠のものへやってきた。翠の住む別荘につき、応接室へと通された。あの時の執事はまだ献身的に翠を支えているようだ。広末に話し、この執事への給料は破格の値段を提示した。田舎へ飛ばされることへの手当と翠の見張りをさせるためだった。
『奥様にひどいことを言うかもしれない』
華は道中そんなことを言っていた。裕司は華の思うようにしてくれと伝えた。裕司はできれば二度と顔を見たくないと思っていた。あんなことをした母親が憎かった。実の母親だからこそ、拒否感が強かった。
華と二人、無言で翠を待っていると、間もなく扉が開いた。
かなりやつれて年老いた母がそこにいた。
「二人とも久しぶりね。なんのご用かしら」
しゃがれた声は更に年齢を押上げている気がする。翠を見て、華の様子をうかがう。華は凛として翠を見据えていた。
翠が腰かけるのを見届けて華が口を開く。
「今日は、裕司さんと僕の、入籍と番を認めてもらうために来ました。裕司さんを僕に下さい。必ず、幸せにします」
華は座ったまま深く頭を下げる。こんな女に頭を下げなくていいと思ったが、華の発言の内容に裕司は驚いた。
入籍と番の挨拶をきちんとしたいという華の願いを聞き入れたが、まさかこんな言葉につながるとは思っても見なかった。まるで裕司が華に嫁入りするかのようだ。
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