森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
29 / 78

28

しおりを挟む
アルファの抑制剤を調べて知ったことだが、継続的に服用する抑制剤以外に注射でヒートを抑える緊急の抑制剤がある。これはオメガにもある。急な発情期を抑える緊急抑制剤だ。常時服用する抑制剤、緊急時に使用する抑制剤、共にアルファ専用オメガ専用のものがある。
しかし避妊をするための薬は現状オメガにしかない。常用する抑制剤で避妊効果のあるもの、緊急時に飲む緊急避妊薬。どちらもオメガ専用の薬だ。
アルファの抑制剤はあくまで抑制するだけで、避妊の効果はない。
「そっか。避妊効果のある薬って、アルファにはないんだね」
「今のところ、薬を使った避妊はオメガ任せだな。あとは避妊具だけど、ゴムは意外と避妊の確率が低い。実際、失敗したし」
「ん?うん…だめだよ、咲也の前で、失敗とか」
華は赤くなって俯いた。咲也を妊娠するに至ったあの時を思い出したのだろう。
ミルクを飲み終えた咲也の背中を叩くとケフっと声を上げた。ミルクを飲みながらうとうとしていた咲也は今、目を閉じて規則的な呼吸を繰り返している。なんと親孝行な息子なのだろうか。咲也を華に託し、哺乳瓶を洗って消毒液に突っ込む。寝室に戻ると咲也はベビーベッドに寝かされていた。
「さっきの話、ヤル前提っつーのがアレだけど、そういう薬を作りたい。社長に就任したら研究部門を作って投げるつもりだけど忙しくなると思う。今のうちに、華と咲也と、ゆっくりしたいんだ」
避妊はオメガ任せ、妊娠は避妊薬を飲まなかったオメガの責任という風潮が根強い。だからこそアルファの避妊薬を研究開発する製薬会社がなかった。ないわけではなかったようだが、市場に販売されて根付くまでに至らなかった。それだけアルファの避妊薬に対するハードルは高い。
しかしアルファの避妊薬があれば飛びつく人間は多いはずだ。実際裕司自身アルファが判明してから緊急避妊薬を渡された。万が一があれば相手のオメガに飲ませろ、と。
アルファは身分の高い人間が多く、高名であったり名家の出身だったりする。へたに妊娠させると後々面倒になる立場の者が多い。自身で妊娠を予防できるとなれば手を出すアルファは多いだろう。高額であっても、だ。この薬を森之宮製薬の新たな主力商品にしていきたい。
オメガの華とアルファの裕司の子供である咲也がどちらになるかはわからない。オメガの薬の効果の向上や副作用を減少させる研究は会社で当然行っていくとして、アルファのための避妊薬の研究と開発、ひいては市場への流通が今の裕司の目標だった。
「…わかった。無理しないでね、また、夜中まで、とか」
華は妊娠中に何度も夜中に訪れていた時のことを言っているのだろうあの時は夜に眠れず、無駄に会社に入り浸っていた。一人でこの部屋にいると華の泣き顔が浮かんで眠れなかった。同じように誰もいなくても、やることがある会社にいたほうがましだった。
「うん。あそこまでの無茶は、しないよ」
「ん…あの、裕司、…何してるの?」
約束はできないが、裕司は承諾した。さっきからベッドに押し倒されて体を弄られる華は目を丸くしている。
「何って…さっきまで、そういう話してただろ?」
「え、…え?でも、僕、発情期じゃないよ?」
「いや、発情期じゃなくてもするだろ。結婚するんだし」
「けっ?!そうだけど、待って、駄目だよ、咲也もいるしっ」
「産後大分たったし医者もいいっつってたし…駄目?」
華は動きを止めた。あの発情期からもう1年近く経つ。想いが通じ合ったのが臨月の前。それから出産、産後と今まで恋人を目の前に我慢の日々だった。医者に何度も確認した。産後1ヶ月経てば大丈夫、そう聞いた1ヶ月後にもう大丈夫だと許可を得たところから念の為1ヶ月時間を空けた。華の体に負担がかからないように。できればもっと時間をあけたほうが良いのかもしれないが、もう裕司は我慢ならなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...