森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

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アルファの抑制剤を調べて知ったことだが、継続的に服用する抑制剤以外に注射でヒートを抑える緊急の抑制剤がある。これはオメガにもある。急な発情期を抑える緊急抑制剤だ。常時服用する抑制剤、緊急時に使用する抑制剤、共にアルファ専用オメガ専用のものがある。
しかし避妊をするための薬は現状オメガにしかない。常用する抑制剤で避妊効果のあるもの、緊急時に飲む緊急避妊薬。どちらもオメガ専用の薬だ。
アルファの抑制剤はあくまで抑制するだけで、避妊の効果はない。
「そっか。避妊効果のある薬って、アルファにはないんだね」
「今のところ、薬を使った避妊はオメガ任せだな。あとは避妊具だけど、ゴムは意外と避妊の確率が低い。実際、失敗したし」
「ん?うん…だめだよ、咲也の前で、失敗とか」
華は赤くなって俯いた。咲也を妊娠するに至ったあの時を思い出したのだろう。
ミルクを飲み終えた咲也の背中を叩くとケフっと声を上げた。ミルクを飲みながらうとうとしていた咲也は今、目を閉じて規則的な呼吸を繰り返している。なんと親孝行な息子なのだろうか。咲也を華に託し、哺乳瓶を洗って消毒液に突っ込む。寝室に戻ると咲也はベビーベッドに寝かされていた。
「さっきの話、ヤル前提っつーのがアレだけど、そういう薬を作りたい。社長に就任したら研究部門を作って投げるつもりだけど忙しくなると思う。今のうちに、華と咲也と、ゆっくりしたいんだ」
避妊はオメガ任せ、妊娠は避妊薬を飲まなかったオメガの責任という風潮が根強い。だからこそアルファの避妊薬を研究開発する製薬会社がなかった。ないわけではなかったようだが、市場に販売されて根付くまでに至らなかった。それだけアルファの避妊薬に対するハードルは高い。
しかしアルファの避妊薬があれば飛びつく人間は多いはずだ。実際裕司自身アルファが判明してから緊急避妊薬を渡された。万が一があれば相手のオメガに飲ませろ、と。
アルファは身分の高い人間が多く、高名であったり名家の出身だったりする。へたに妊娠させると後々面倒になる立場の者が多い。自身で妊娠を予防できるとなれば手を出すアルファは多いだろう。高額であっても、だ。この薬を森之宮製薬の新たな主力商品にしていきたい。
オメガの華とアルファの裕司の子供である咲也がどちらになるかはわからない。オメガの薬の効果の向上や副作用を減少させる研究は会社で当然行っていくとして、アルファのための避妊薬の研究と開発、ひいては市場への流通が今の裕司の目標だった。
「…わかった。無理しないでね、また、夜中まで、とか」
華は妊娠中に何度も夜中に訪れていた時のことを言っているのだろうあの時は夜に眠れず、無駄に会社に入り浸っていた。一人でこの部屋にいると華の泣き顔が浮かんで眠れなかった。同じように誰もいなくても、やることがある会社にいたほうがましだった。
「うん。あそこまでの無茶は、しないよ」
「ん…あの、裕司、…何してるの?」
約束はできないが、裕司は承諾した。さっきからベッドに押し倒されて体を弄られる華は目を丸くしている。
「何って…さっきまで、そういう話してただろ?」
「え、…え?でも、僕、発情期じゃないよ?」
「いや、発情期じゃなくてもするだろ。結婚するんだし」
「けっ?!そうだけど、待って、駄目だよ、咲也もいるしっ」
「産後大分たったし医者もいいっつってたし…駄目?」
華は動きを止めた。あの発情期からもう1年近く経つ。想いが通じ合ったのが臨月の前。それから出産、産後と今まで恋人を目の前に我慢の日々だった。医者に何度も確認した。産後1ヶ月経てば大丈夫、そう聞いた1ヶ月後にもう大丈夫だと許可を得たところから念の為1ヶ月時間を空けた。華の体に負担がかからないように。できればもっと時間をあけたほうが良いのかもしれないが、もう裕司は我慢ならなかった。
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