森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

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それから華は無事出産を終えた。子供は元気な男の子で、咲也と名付けた。
退院し、裕司だけが暮らしていた家に、華と咲也と3人で帰ってきた。自宅には本宅で使用人をしていた雪枝とエリカを呼んでいた。華の希望で、この二人に来てもらっていた。雪枝はともかくエリカでいいのか。華に問うと、華はエリカがいいと答えた。
エリカは当初、華の元に来ることを固辞していた。咲也ができた原因にもなった緊急避妊薬。薬の差し替えについて、華を病院に連れて行ったあの日にエリカは、翠から事実を聞かされたようだ。
『良かれと思って華様にしたことが、全部裏目に出たんです。私は、お世話をさせていただく資格がありません』
薬の差し替え、2回目の発情期に裕司に進言してしまったこと。すべて自分のせいで華が妊娠したとエリカは自分を責めていた。そもも森之宮家を去ると言うエリカを、裕司は引き止めた。せめて一度、華に会ってほしい。黙っていなくなってしまったら華はきっと悲しむだろう。
『…かしこまりました。華様がお戻りになられるまで、裕司様のご自宅で働かせて下さい。華様に、一言、謝らせていただきたいです』
頭を下げるエリカに裕司はほっと胸をなでおろした。
華の姿を見たエリカは、華の前に泣き崩れてしまった。
「華様、申し訳、ありませんでした。全部、私のせいです!謝りたくて、でも、謝りきれま、せ…」
「そんな…エリカさんのお陰で、僕、裕司と…どうか、顔を上げて」
床に頭を擦り付けるエリカに、華は咲也を抱えたまま、エリカの前に膝をついた。
「咲也を見て、エリカさん。あなたのお陰で、今この子はここにいるんです。あなたはなにも、悪くないです。謝ることなんて、ひとつも…どうか、もう少しだけでいいです。僕たちの、お世話をしてくれませんか?エリカさんがいてくれたら、とても、心強いんです」
華はエリカに手を差し伸べる。長く華を世話してくれた女性で華にとっては使用人であり姉のような存在だ。
エリカは顔を上げた。華の笑顔に、エリカはようやく頷いてくれた。

裕司は仕事と大学を調整し、数ヶ月は自宅で華と咲也の様子を見ることに決めていた。大切な我が子と、産んでくれた華を労い見守るためだ。裕司にできることは少ないだろうが、せめて華の傍にいたかった。休みが取れる間は家でできる仕事や勉学に励もうと考えていた。
が、その考えは甘かったようだ。
「そばにいるだけならいっそ外で働いてきてくださいな、ぼっちゃま。ただそこにいるだけでは邪魔でございますよ」
使用人の雪枝にバッサリ切り捨てられて、裕司はすぐさま考え直した。ただそばにいて華と赤子を愛でるだけでは駄目らしい。というよりも、裕司も育児をしなければならないらしい。
自分も健司も使用人とシッター達に育てられた。子育てとはそういうものではないのだろうか。裕司は雪枝の愛ある鞭でしごかれて、赤ちゃんの抱き方やらミルクのあげかたを叩き込まれた。もちろん雪枝やエリカも手助けもしてくれたが、基本的に日中は華と二人で咲也の世話をした。
「子育ては裕司様と華様でなさってください。私達は家のことをいたしますので。お二人のお子様なんですから、咲也様のご成長を見逃さないようになさって下さいましね」
雪枝が笑う。子供の成長を見逃さないため。そのためなら確かに、華と子育てに集中するのは大切なことかと裕司は思った。雪枝は裕司の子育ての考え方に関して手厳しい指摘をする。もしかしたら雪枝に、なにか子供に関して思うところがあるのかもしれない。雪枝に聞いてみると、
「いえね、うちの娘が、婿がなーんにもしないと嘆いてましてね、裕司様にはそんな男になってほしくないんですよ。いーじゃないですか、イケメンのイクメン社長!私が吹聴しますから。話題になりますよぉ~」
雪枝が豪快に笑った。特に暗い過去があったりするわけではないらしい。そのうえ娘と婿の諍いという家庭の悩みを持ち出されて、裕司は体から力が抜けた。
とはいえ咲也の扱いに慣れたのは雪枝のおかげだ。彼女達には感謝してもしきれない。彼女達とベビーシッターの手も借りて、咲也はすくすくと育っていった。
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