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それから裕司は今までを埋めるように、合間を縫って何度も病室を訪れた。
華は今学校を休学扱いになっていること、健司は毎週末翠の元を訪れていること。健司が盾となり、翠を別荘に留めておいてくれているようだ。裕司は今、華と子供も住む予定の家に住んでいるらしい。森之宮の家には今健司しかいないそうだ。当主代行があの家にいなくなってしまったが、裕司と健司でその穴を埋めている。
華は高校は退学させてほしいと裕司に伝えた。子供が産まれたあとに通学する余裕はないだろうし、あの学校にはもう通いたくはなかった。


そして今日、華の母がお見舞いに来てくれることになった。幼い頃に別れてから一度も会っていない。病院についたと裕司からメッセージが来る。華は落ち着かず、病室の中をうろうろと歩き回った。
ずっと会いたかった。母が恋しかった。しかし手紙を送ってもあまり返事は来ず、母が会いに来てくれることはなかった。
ノックをされて返事をすると、入ってきたのは裕司だった。その後ろを華の母がついて入ってくる。久しぶり会う母は、思い出の姿よりも老いてはいたがすぐにわかった。母は華の顔を見るなり涙を流す。
「大きく、なったね」
崩れそうになる華の母を、裕司はソファへと促した。華は母の元へ歩み寄る。
「外にいるから」
華がソファに腰掛けるのを見届けて、裕司は病室から出て行った。華の母はぼろぼろと涙を零す。
「ごめんね。お母さん、あなたを手放したのに、会いに、来て」
「ううん。来てくれて嬉しいよ」
「顔を見ちゃいけないと思ってた。でも裕司さんが、何度も来て下さって。華に会ってほしいって…赤ちゃんは、順調?」
裕司から母に会ったことは聞いていたが、何度も訪れていたことは知らなかった。華と母を会わせるために尽力してくれたことに胸が締め付けられた。妊娠したこともその経緯も、裕司から母に伝えたと聞いている。
「うん。男の子かなって言われてる。僕も裕司も男だから、同性でほっとしてるよ」
「そうなの…こんな立派なお部屋で、大切にされているのね。本当に…素敵な方と、番になれたのね」
華は母の言葉に思わず首筋をさする。華の首に噛み跡はない。
母は華の仕草に気づいて、驚いた表情を見せた。
「裕司と、番になってないんだ」
番についてはどんな話をしたのか聞いていなかった。華自身、母が言葉を失うほど驚くと思っていなかった。
「お母さんは、僕に、番を作って欲しいの?」
華の問いに、母は少し目を泳がせた。番になることはそんなに重要なのか。そもそも森之宮に預けられたのは何故華だったのか。オメガになり得る子供は他にもいたはずだ。
「どうして僕は、森之宮にいたの?」
「…華、体調は悪くない?少し、嫌な話をしてしまうけど…具合が悪くなったら、言ってね」
母は前置きをしてから話し始めた。
「お父さんとお母さんはね、好き合って結婚したけれど…そもそも二人とも、番を作りたくなかったの。アルファに嫌な記憶があるから…お母さんね、アルファに襲われたことがあるの。噛まれなかったし寸前で逃げたんだけど大怪我をしてね。お父さんも、詳しく聞いてないけど似たような経験をしてた。あなたが産まれたあと、お父さんは抑制剤の効きが悪くなって…若い頃に強い抑制剤を使っていたかららしいわ。その上発情期が不規則なせいで、とても苦しんでいたの」
それは華にも覚えがある。父は時々部屋にこもって出てこなかった。部屋から出てくる父はやつれていて、華が大きくなる毎に部屋にこもる回数も増えた。あれは発情期が来ていたのだろう。
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