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しおりを挟む「具体的なところだと、開発部門への予算が少なかったりしているね。上層部の承認が中々下りないようだが…大丈夫かね、伝わっているかい?」
「上の連中が新薬開発を渋ってんだろ?そっちに資金をまわすよりは現状を維持して今の、てめぇらの立場を守りたい、後のことはどうでもいいんだろう」
現状の森之宮製薬は先が長くなさそうだ。裕司の想像していた通りだった。できればそこは変革させていきたい。今後の生活のためにも主力の企業である製薬会社を立て直したいと裕司は思っていた。裕司は他の資料にも目を通していく。
「私は、夫がオメガです。オメガの不利益は、見逃せないもので…なぜ、お相手を番にしなかったのです?」
「番にしていいか、確認できる状況じゃなかった」
「…あなたを罰するかどうかは、お相手の方が決めることです。その方がこの場にいない以上、私はあなたを非難するべきではなかった。先程は感情的になり、申し訳ありません」
「いんじゃね?感情出さない相手は信用できねぇし。申し訳ないと思うなら、あいつのために働いてくれ」
広末は頭を下げた。裕司は資料から目を離さずに答える。もしも華を妊娠させた話を聞いてもすり寄ってくるような人間なら、その場で追い出していた。二人を呼びつけたのは華と子供のためだ。華を妊娠させたことに激昂した彼女なら、華に不利益なことは考えないだろう。
「しかし、森之宮の子の君が、菊島の子を、なぁ。私も年をとるわけだ」
裕司は顔を上げた。金松は裕司を見ているが、裕司を通して別の誰かを見ているようだ。過去を懐かしむようなその視線に、裕司は口を開いた。
「華の父親を、知ってるのか?」
「菊島も同じ大学にいたからね。当時はオメガがあの大学に来るのは珍しかったんだが、彼は優秀だった。私達アルファとなんの隔たりもなく一緒にいたんだが…後で聞いた話だが、菊島は発情期が中々安定しなかったようでね。当時はかなり強い抑制剤を使っていたらしい。晩年は薬が効かずに発情期に苦しんで、体が衰弱していったそうだ。何度も番を作れと進言したんだがね。菊島は頑なに、誰も受け入れなかった」
金松はため息をついた。華の父親の話は、裕司は知らなかった。発情期が安定しない。華の体が成熟していないせいかと思ったが、もしかしたら遺伝もあるのかもしれない。
「そもそも咲子さんが、あの子のお母様がいらしたからね。我々アルファの入る隙はなかったんだがなぁ。身近で菊島を見ていた彼女は、お子さんにアルファの番ができることを望んでいたようだが…詳しいことは咲子さんに聞いてみるといい」
華の妊娠がわかった翌日、裕司は華の母親に会いに行った。華が発情期を迎えて妊娠したこと、父親が自分であること。頭を下げる裕司を慌てて制した華の母は、華に番ができたととても喜んでいた。まだ子供をどうするかは決めていないが、裕司の意志は伝えてきた。
『子供のことは、お二人の意志を尊重します。どうか、あの子をよろしくお願いします。あなたが番になってくださって、本当に良かった』
結局番になったことを否定できなかったが、華の母の喜びように納得がいった。また改めて話を聞きに行こうと裕司は心に決めた。
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