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「その子は裕司の子供で間違いないの?」
華の部屋に翠が入ってきた。華は久しぶりに翠を見た。
「別の男の子供ではないの?健司の、子供じゃ」
「おい!」
華に近づく翠を、裕司は押し返した。よろけた翠の華を見る目がうつろに揺れている。きちんと身なりを整えてはいるが、どことなく普段と違って見える。
そういえばあれから健司の姿も見ていないと華は気づいた。日に日に体調が悪くなり、周りに気が回らなかった。華の知らないところで何かが変わってきている気がする。
「俺、の…華の中にいるのは、俺の子供だ」
裕司の手はかすかに震えていた。言葉にされて、華はますます怖くなった。確かに父親は裕司以外に考えられない。しかし、どうして妊娠してしまったのか。
翠は安堵したように笑う。
「そう…もっともっと、裕司の子をたくさん産むのよ、華。偽薬に変えておいて良かったわ。森之宮のために、一人でも多く産みなさい。あなたはそのためにここにいるのだから。一人でも、多く、たくさんの、」
「待て。偽薬って、どういうことだ?」
裕司が翠の話を遮る。
翠は華を見て笑っている。
「あなたの使用人が持ってきたのよ、華。避妊薬を、危険な薬じゃないかって言ってね。馬鹿な子。森之宮製薬の、効果も実績も間違いない、オメガ専用の緊急避妊薬よ。使用人のくせに、そんなことも知らないなんて…だから偽薬を持たせて、『危険な薬』を差し替えさせたの。あなたのことを本当に心配していたわ。元気な赤ちゃんを産んで、安心させてあげてちょうだい。ふふ…森之宮のアルファの子供を失うなんて、許さないんだから」
翠の笑顔はどんどん歪んでいった。華は恐怖で震えが止まらなかった。お腹の子は翠の策略でできてしまったらしい。
確かに、いつも華の世話をしてくれている使用人の女性、エリカに薬を仕舞うところを見られたことがある。
『華様、そのお薬は一体…なんの薬、ですか?』
『な、なんでも、ないです』
机の引き出しにしまったところを見られてしまった。机の前から動かない華に、エリカは不安気な表情を見せた。
『このところ、華様のお体にもお心にも辛いことが続いてるいると思うんです。本当にそれは、なんでもないお薬ですか?』
華は顔を見ることができず、うつむいた。どう答えたらいいのかわからない。素直に避妊薬だと伝えるべきか。しかし、避妊薬だとわかれば取り上げられてしまうかもしれない。これから発情期を迎えた時、これがないと健司の子供を妊娠してしまうことになる。想像して華は震えてしまった。
華は健司の子供を身籠り、産むべきだ。
わかっていても体がついてこない。気を落ち着けようとしてもうまくいかない。
『…申し訳ありません、差し出がましい真似を…ゆっくり、お休みになって下さい』
青くなって何も言えずに震える華に、エリカは頭を下げて部屋を出ていった。
その後も、華は彼女に何も言えず、エリカもまた薬について話題にすることはなかった。引き出しの中には変わらず、あの薬があった。彼女が見て見ぬふりをしてくれているのだと、華は安堵していた。
まさか翠の元へ持って行ってしまうとは思ってもみなかった。華も、あの薬が森之宮製薬の薬だと知らなかった。自社の薬であれば、同じ包装で中身を別の薬に差し替えるなど、簡単なことだったのだろう。
「てめぇ…どこまで、」
「森之宮さん、霧島さんの意志の確認が先です。彼は妊娠を希望していませんでした。今後、どうされるのか」
裕司が翠に掴みかかるが、医師が仲裁に入った。裕司と医師と翠が何かを話ているが、何も頭に入ってこない。
薬が偽薬だった。妊娠は間違いない。
めまいがひどくなって華は横になった。華は耳をふさいで目を閉じた。
華の部屋に翠が入ってきた。華は久しぶりに翠を見た。
「別の男の子供ではないの?健司の、子供じゃ」
「おい!」
華に近づく翠を、裕司は押し返した。よろけた翠の華を見る目がうつろに揺れている。きちんと身なりを整えてはいるが、どことなく普段と違って見える。
そういえばあれから健司の姿も見ていないと華は気づいた。日に日に体調が悪くなり、周りに気が回らなかった。華の知らないところで何かが変わってきている気がする。
「俺、の…華の中にいるのは、俺の子供だ」
裕司の手はかすかに震えていた。言葉にされて、華はますます怖くなった。確かに父親は裕司以外に考えられない。しかし、どうして妊娠してしまったのか。
翠は安堵したように笑う。
「そう…もっともっと、裕司の子をたくさん産むのよ、華。偽薬に変えておいて良かったわ。森之宮のために、一人でも多く産みなさい。あなたはそのためにここにいるのだから。一人でも、多く、たくさんの、」
「待て。偽薬って、どういうことだ?」
裕司が翠の話を遮る。
翠は華を見て笑っている。
「あなたの使用人が持ってきたのよ、華。避妊薬を、危険な薬じゃないかって言ってね。馬鹿な子。森之宮製薬の、効果も実績も間違いない、オメガ専用の緊急避妊薬よ。使用人のくせに、そんなことも知らないなんて…だから偽薬を持たせて、『危険な薬』を差し替えさせたの。あなたのことを本当に心配していたわ。元気な赤ちゃんを産んで、安心させてあげてちょうだい。ふふ…森之宮のアルファの子供を失うなんて、許さないんだから」
翠の笑顔はどんどん歪んでいった。華は恐怖で震えが止まらなかった。お腹の子は翠の策略でできてしまったらしい。
確かに、いつも華の世話をしてくれている使用人の女性、エリカに薬を仕舞うところを見られたことがある。
『華様、そのお薬は一体…なんの薬、ですか?』
『な、なんでも、ないです』
机の引き出しにしまったところを見られてしまった。机の前から動かない華に、エリカは不安気な表情を見せた。
『このところ、華様のお体にもお心にも辛いことが続いてるいると思うんです。本当にそれは、なんでもないお薬ですか?』
華は顔を見ることができず、うつむいた。どう答えたらいいのかわからない。素直に避妊薬だと伝えるべきか。しかし、避妊薬だとわかれば取り上げられてしまうかもしれない。これから発情期を迎えた時、これがないと健司の子供を妊娠してしまうことになる。想像して華は震えてしまった。
華は健司の子供を身籠り、産むべきだ。
わかっていても体がついてこない。気を落ち着けようとしてもうまくいかない。
『…申し訳ありません、差し出がましい真似を…ゆっくり、お休みになって下さい』
青くなって何も言えずに震える華に、エリカは頭を下げて部屋を出ていった。
その後も、華は彼女に何も言えず、エリカもまた薬について話題にすることはなかった。引き出しの中には変わらず、あの薬があった。彼女が見て見ぬふりをしてくれているのだと、華は安堵していた。
まさか翠の元へ持って行ってしまうとは思ってもみなかった。華も、あの薬が森之宮製薬の薬だと知らなかった。自社の薬であれば、同じ包装で中身を別の薬に差し替えるなど、簡単なことだったのだろう。
「てめぇ…どこまで、」
「森之宮さん、霧島さんの意志の確認が先です。彼は妊娠を希望していませんでした。今後、どうされるのか」
裕司が翠に掴みかかるが、医師が仲裁に入った。裕司と医師と翠が何かを話ているが、何も頭に入ってこない。
薬が偽薬だった。妊娠は間違いない。
めまいがひどくなって華は横になった。華は耳をふさいで目を閉じた。
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