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「良く、なかったか?」
「めちゃくちゃ、良いよ。良いから、他の男に見せたくないんだよ」
「ファンは男性だけじゃないが」
「うん。そういうことじゃねぇんだけど。全然脈ないのね、俺」
タクヤはため息をついて泣き笑いのような表情を浮かべた。さっきまでダンスを教えてくれた、格好いいタクヤはどこにいったのか。情けない表情に笑いそうになったが、タクヤはふと真剣な顔でレイを見た。
「お前さ、俺のこと、どう思ってんの?」
レイはタクヤの表情と雰囲気に息を呑んだ。縋るような目をしている、こんなタクヤを見たことがなかった。レイは初めて会った時から今日までのことを思い返す。
「チャラくて軽くて子供っぽい。小さい子供を相手しているようで疲れる。面倒くさい。口うるさい。あとこだわりが強くて面倒くさい。とにかく面倒くさい」
「スラスラ悪口出てくる。やだ。不満溜まってんの?」
「でも、仕事に対して誠実で真剣で、頑張ってる。ダンスも歌もうまい。話もうまい。踊りだすとキラキラして、格好いい。羨ましくて…すごく、尊敬してる」
レイは真剣にタクヤに答えた。タクヤはいつも窓から見える夜景のようにきらめいて、太陽のように輝いている。自分じゃ届かない場所にいる。でもその場所を、ただ漫然と手に入れたわけじゃない。努力をして己を磨いて叩き上げてそこにいる。
「…俺のこと、好き?」
「好きだ」
タクヤの問いに、レイは迷わず答えた。ちゃらついて軽い性格や行動は賛否両論で、嫌がる人もいるだろう。しかしレイはタクヤに好感を持っていた。タクヤはレイを抱きしめた。
「俺も、好き」
苦しそうに吐き出すタクヤに、レイは心配になった。どうしてこんなに苦しそうなのか。顔も赤くなっている。どこか具合が悪いのか、食べたものが悪かったのか。ふとテーブルを見て、レイは声を上げた。
「タクヤ、お前っ…!」
「は?何?何!?」
「煮物、食ってないじゃないか…!」
テーブルの上の皿が足りない。冷蔵庫の奥にしまってあったせいで気づかなかったらしい。好物を食べればきっと元気が出る。レイはタクヤを引き剥がして冷蔵庫から皿を出した。
「ほらまたスカすじゃん…わかってたけど。わかってたけどぉっ…!」
「カボチャの煮物。もう、いらないか?」
「食うよ。食べますよ。ありがとね。いただきます」
タクヤは落ち込みつつテーブルについて煮物に箸をつけた。レイはソファに座って再度映像を見つつ、うとうとと頭を揺らす。
「寝んなよ、そこで。先風呂入って寝りゃいいじゃん。俺のベッドで、爆速で」
「一緒に入らないのか?」
なぜかタクヤは不貞腐れている。しかし、レイの言葉に固まってしまった。タクヤの食事が終わるのを待っていたが、今日は一人で風呂に入っていいらしい。レイにはいまいちタクヤの一緒に入りたい気分の基準がわからない。が、一人で入れるならゆっくり体を伸ばせる。
「入る、一緒に。すぐ行くから」
「…わかった」
せっかく一人で入れると思ったのに。露骨にガッカリしてしまったが、タクヤは煮物にがっついてこちらを見ていなかった。やはり、タクヤの考えることはわからない。レイは肩を落として風呂に向かった。
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