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「な、お前…それ、その顔で、来んの?」
「俺様の演技を見せてやるって言ったじゃないか。近くで見てていいんだろ?」
「復帰ステージもそれに近いメイクにするから。独占したくても無駄よ~」
「ど、独占なんて、思ってねぇし!」
マリアの言葉に噛みついて、タクヤは扉を開こうとした。が、レイに止められてしまう。
「待て。『ばりたち』って何だ」
「だから、後で教えるって…」
「後で、が今だ。気になる。教えろ。早く」
レイに至近距離で早口に詰められて、タクヤは真っ赤になっていた。一瞬迷っていたが、タクヤはレイの耳に唇を寄せた。
「だから……、…」
「えっ…うえぇえっ!?そんな、マイ、お前…っ」
「おら行くぞ。呼ばれてんだよ!…顔、近づけんな」
タクヤは真っ赤になったまま、レイを連れて出ていった。レイはタクヤが他人だと言っていた。そう、言っていたはずだ。しかし二人のあの距離感はなんだろうか。マイの中で疑問が湧き上がった。
「あの…あの二人って、」
「さぁ~。どうかしら?」
マリアに問いかけてみたが、笑顔ではぐらかされてしまった。タクヤとだいぶ仲の良さそうなマリアならなにか知っているかと思ったが、仲が良い分、友人のプライベートは簡単に晒さないようだ。当然のことだ。軽率なことを聞いてしまったと、マイは反省した。マイは話題を変えようと気になる言葉を口にした。
「あ、じゃあバリタチってなんすか?麺の硬さ?」
レイがタクヤから聞いてひどく驚いていたが、一体どういう意味なのか。
「それも秘密~調べちゃやーよ♡マイちゃん、復帰コンサートなんだけどね、アタシがメイクしに行くことになりました♡」
「えー…ええぇ!?」
「ちゃんと仕事としてやらせてもらうわ。社長さんに話をして、こちらからお願いしたの。楽しみだわぁ、まいまいとレイちゃんのメイク♡あ、カツラも準備してヘアメイクもするから、合わせるのにまた付き合ってちょうだいね?」
バリタチははぐらかされてしまった。しかし、笑顔のマリアに、マイは涙が出そうになった。今日もレイをあんなに美しくしてくれて自分にメイクを教えてくれたのに、大切な復帰ステージもマリアの手で美しくしてもらえる。きっとファンのみんなも喜んでくれるはずだ。
「あ、…ありがとう、ございます。すごく、嬉しいです…レイも、あんなに綺麗にしてくれて、きっと、ファンも喜んで…」
溢れそうになる涙をこらえていると、マリアが頭を撫でてくれた。その手は頬を滑っていく。
「マイのためなら、なんでもしてあげる。俺にとって、今一番綺麗に見えるのはレイちゃんじゃなくて、マイだよ」
マイの、レイの容姿への劣等感を見透かされてしまったような気がする。お世辞でもマイはとても嬉しかった。レイよりも美しいと言ってくれるマリアに、マイは精いっぱいの笑顔を向けた。
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