うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第100話

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 足を砕かれて動けない青髪は、久賀にダメージを与えるために“久賀の特別”を傷つけてやろうとしたが……彼の目論見は脆くも崩れた。
 そもそも、はじめから間違っていたのだ。

 だって、俺はアイツの特別なんかじゃない。

 久賀に“助けたりしねぇ”と言われたことを思い出した。
 俺は助けなんかいらないとアイツに返した。
 だから、だからさ、この状態で仮に見捨てられたとしても、俺にアイツを責める資格はない。
 俺は助けなんかいらないと言ったんだから。

 それ、なのに。

 どうして俺の心は傷ついてるんだう……俺、すごく身勝手だ。

「はっ。ハッタリじゃねぇぞ!!!」

「あ、そう。だから好きにどーぞって言ってるだろう?俺も都合いいだろうし」

「はぁ?」

「だってそーだろ、お前みたいなキチガイにまわりをウロチョロされたら困るしさ?人殺しならたとえ未成年でも最低数年は檻の中だろ?凶悪性が認められたら、極刑もありうるんだっけ?ま。どっちにしろ、お前がこわぁい大人たちに監視されてる間、俺は平和に暮らせる。万々歳だ。
 あとで警察に匿名通報しておいてやるよ。ナイフ持った男が高校生を刺してましたって」

 さぁ、張り切って殺しやがれ。と、いっそ楽しそうに久賀が笑う。
 青髪より、久賀の方がよっぽどイカれていた。

 絶句した後、青髪がううっと呻き

「……っおぉぉぉー!!!!!!」

 憤りに、まるで獣のように吼えた。


「殺すころすコロス殺ス!舐めやがってっ!!舐めくさりやがって!!何年経ってもぜってぇに貴様を追い詰めてっ!ダチも家族も恋人もただ言葉を交わしただけの他人だろうがお前に関わる人間は全員っ」

「だから。お好きにどーぞ?ま。誰を殺しても、何年追いかけてもさ」

 まるで慈悲深い聖母みたいに微笑んで、久賀が近づいてくる。
 俺たちのすぐ前に膝を折って、地に両膝をつき踵を上げて座る。

 言葉とは裏腹に、眼差しは穏やかだ。

「お前に俺はヤれねぇよ。腰抜け」

 にっこりと最上級の笑みを浮かべながら、久賀が言った。

 青髪の動きが止まる。
 僅かな静寂の後、俺の体は、青髪に突き飛ばされていた。

 コンクリートの地面が冷たく。
 打ちつけた体が痛い。

「龍二!」

 椎名が久賀の名前を呼んだ。

 久賀と西河原と椎名。彼らの中、椎名だけはいつでも冷静で……焦りを含ませる声音を聞いたのはこの時が初めてだった。



 それは、抱擁にもみえた。
 熱情の限りを尽くし、愛する人を慈しみを持って抱き締める。そんな姿に似た、美しい何かにも見えた。

 けれど実際にそこにあったのは、怒りと憎しみに醜く歪んだ、血の色をした狂気だった。

 俺はぼんやりと彼らを見ていた。
 久賀の肩口に、額を押しつけた男の青色の髪が、乱れてぱらりと落ちる。

 髪の毛の影に隠れた唇が、わなわなと震えていた。

 俺はただ、彼らを見ていた。
 久賀の背後から駆け寄ってきた椎名が、二人の体を引き離した。

 蹴り飛ばされて、コンクリートに倒れ込む青髪の男。

「よせっ、龍っ」

 腕の中に抱きかかえた相手に、椎名が切羽詰まった声音で投げかけた。

椎名の声とは対照的に、明るく楽しそうな声が「ほらな。殺せなかっただろう?」と、そう言った。

 椎名の身体に視界が遮られて、久賀の姿が足しか見えない。


「抜くなっ!!!」

 悲鳴にも似た、椎名の声。

 
 何を、だろう?

 ぼんやりと思った直後、何かが地面にあたりキンッと小さくて高い音がした。

 赤い色が見えた。
 銀色の刃を濡らす赤色。
 思わず自分の喉に、掌をあてた。
 ピリッとしみるような小さな痛みが走る。

 目の前で開いた掌には、うっすらと赤い筋のような血が、途切れ途切れについていた。

 ナイフを汚すそれと同じ。だけど、銀色を覆い隠すくらいの血を流した傷は、俺ではなくて…………?

 すっと、椎名の影から指が伸びる。
 椎名のモノではないそれが、まっすぐ青髪に向けられた。
 その指から、真新しい赤が滴り落ちた。
 たったいま新しい傷が生み出されたことを示す、赤色。

「あー、真打ち登場ってゆーか、ホント気分が萎える展開だ……実にお粗末でご都合主義な“デウス・エクス・マキナ”ってヤツだな。が、しゃあねぇーや。よく見ろよ、青髪の。オーサマは神は神でも……死神だぜ」

 俺には全く意味が分からない久賀の言葉。

 久賀が指し示す方向を目で追った。
 青髪の男をさしていると思った指は、男の背後を示していた。

 それを視界に捉える。

 薄暗い路地で、なお暗いイメージを抱かせる者がそこに立っていた。

 それを視認した瞬間、ぞわっと悪寒が走った。

「キング」


 時間さえも凍りついたその場所に、青髪の呟きが零れて落ちて消えた。


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