うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第99話

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「リューぅ?その怪我でひとりで歩くとかムチャだから」

「っさい。寄るな。触んな。近づくな。失せろストーカー」

「まだそれ引っ張るのー!もーぉ!ガキみたいにワガママ言うなよ」

「は?寄るなも、触んなも、近づくなも拒否で拒絶だ、ボケ。どこがワガママになるんだよ」

「へーりーくーつー。いい夢見てるとこ邪魔して悪かったけどさ?八つ当たりとか、カッコ悪ぃーよ?」

「ああ"ん?誰が八つ当た」

「姫抱きで街中を闊歩かっぽされるか、大人しく俺に背負われるか、好きな方を選ばせてやる。感謝しろ」

 びしりっと言い切った椎名のセリフに、久賀は絶句した。
 姫抱きって……お姫様だっこのコトだよな。
 椎名の口から姫発言。に、似合わな過ぎて怖い。

 椎名の言葉は効果があったみたいで「……仮に拒否したら?」なんてセリフを久賀に言わせた。

「当然、強制的に恥ずかしい方だ」

「肩を貸して下さるだけで十分です、優雅さん」

 妥協しやがった。そりゃあ、お姫様だっこ嫌だよな。
 ちっ、仕方ないな、と椎名も妥協して、久賀を支えて歩く。
 西河原が「タクシー捕まえてくるねー」と路地から駆け出した。

 俺は彼らの背中を見ながら、あの夢の中で、誓ったことを思い出していた。

 ひとりに、なろうとするアイツの側に、俺は行きたかったんだ。ひとりにしたくなくて、側に行きたかった。

 遠い場所にある背中に、それでもいつか、必ず絶対に、アイツに追いつくと決めたんだ。

 ぐっと、足に力を入れて立ち上がった。
 椎名も西河原も、ホントは足掻いているのだろうか。
 友人なんていた事がないと、そう言葉にするアイツの側で、遠過ぎず、近すぎない位置に立ち続けるために、走って、足掻いているのだろうか。

 西河原は言った。
『リューは追いかけると逃げるからね。でもこっちが逃げても追いかけてきてくれないから、欲しいなら走るしかないよ!』

 椎名は言った。
『傷ついてもアレが欲しいなら足掻け』

 うん、俺は多分、何度地獄に落とされても走るよ。
 希望が見えなくてもガムシャラに足掻くよ。

 だって、好きが消えないんだ。

 傷ついて傷ついて、悲しい波が押し寄せても、カケラくらいの優しさに触れるだけで、何度でも歩き出せる。いや、例えばアイツが、カケラほどの優しささえ、向けてくれなかったとしても、それでも俺は。

 苦しい恋の道を、やっぱり歩き続ける為に、一歩を踏み出したその瞬間、背後から服を捕まれてぐらりと上体が傾いた。

「ひいろぉぉぉ!!!!!」

 血を吐くような、叫びが鼓膜を攻撃する。

 狂った男の腕の中。
 冷たい刃物の切っ先が、喉の皮膚をチクリと刺激した。

「緋色!!ヒイロォォ!!!!なに勝手にハナシを終わらそうとしていやがる!!!!」

 青髪男の怒りを一番近い場所で感じながら、振り返った久賀を見上げた。

「……だから、帰れっていったのに」

 ごめん。
 ごめんなさい。

 アレは足手まといだって意味だったんだな。うん、まさに、その通りだ……夢道具があるなら、過去の自分を殴りにいくよ。

「テメェだけはっ!テメェだけは絶対に生かして帰すかよっ!!!緋色!!」

 狂気に染まったその声は、狭い路地に反響した。

 俺は間抜けにも、青髪に捕まってしまった。
 時と場所と場合がわかっていちゃついてる?と西河原に言われたが、本当に、な。

「こっちへ来い!!テメェの男を目の前で切り刻まれたくなかったらなぁ!!」

 じぃっと暫く彼らは睨み合う。
 ほんの一瞬、久賀が俺を見た。瞬きの間くらいの、僅かな、気の所為だと感じるくらいの一瞬。

 そして彼は大きな溜め息をついた。

「あー……うん、ご自由にどーぞ」

「あ゛?」

 イラついた声に、僅かな困惑を混じらせて、青髪が聞き返した。
 俺の心は、急激に冷えていく。
 ナイフを突きつけられているのに、だ。
 それよりも、もっと怖いことがある。

「て、テメェ!なめていやがるのか!!俺にはそんな度胸がねぇと、見下していやがんのかっ!!!」

 角度を変えて、ナイフの刃がぴったりと首筋に沿うように押しつけられた。
 ほんとにそのまま首を引き裂かれるんじゃないかって、痛みや死に対する恐怖は確かにあった。
 でも、ソレよりも、久賀の目が、俺を見ないことが、よっぽど……。

「………はぁ。あのさ」

 疲れきった声で、久賀は青髪に投げかけた。
 声音。仕草。言葉。
 彼が生み出すあらゆるモノが、首に突きつけられたナイフよりも深く、俺の心を裂いていく。

「その辺に転がっているヤツを、俺がぶっ殺したとしよう。お前、なんか感じるか?」

「はぁ?!それがどうした!!俺には関係ねぇーなぁ!!!」

「うん、まさに俺もソンナカンジ。ドコで手に入れた情報か知らねぇけど、ソイツが俺の特別だとか、ありえねー。俺は誰も助けねぇし、誰かの手を望んだりもしないよ。
 Did you understand?」

 にっと僅かに微笑んで久賀が言った。

 うそつきな笑顔。
 だけど、語られる言葉までが嘘なのかは、俺には分からない。
 綺麗な笑みを浮かべながら、彼は俺の心を抉る。

「だいたいお前自分で言ってただろう。俺が卑怯だとか、弱いとか、スカしてるとか、冷めてるとか、ヒトを利用してるだとか……おー。全問正解。おめでとー。言うなればお前とソイツは同じ被害者同士ってわけだな。同病相憐むってカンジにさ、傷の舐め合いでもしてみれば、案外気が合うんじゃね?」

「っ!テメェッ!!!」

 ふざけるのも大概にしろと、俺を押さえ込む腕に力を込めながら、青髪が喚いた。
 焦りと動揺が青髪の声に混じっていた。

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