うそつきな友情(改訂版)

あきる

文字の大きさ
上 下
127 / 135

第96話

しおりを挟む
 悲鳴は合図だった。

 鮮やかとしか言いようがない、破壊の開始を告げるサイレンだった。

 青髪が、おかしな方向に指が曲がってしまった片手を押さえて、喚いた。
 
 怒りに狂った青髪が、靴底を打ち下ろすよも早く、下から振り上がった脚が、ソイツのカラダを地面へと叩きつけていた。

 一瞬の間が空いた後、バキッと、先ほどよりもカタい音が響く。
 
 悲鳴をBGMに、ゆらりと彼が立ち上がった。

 青髪が、自分の左足を押さえて、地面を転がっていた。

 誰もが呆然と、目の前で起きた事を理解しようと試み……俺も、状況を理解しようとして……けれど、頭が追いつかない。

 見上げる先で、彼の上体がゆらりと、前に傾き。

 倒れるっ!!

 そう思った次の瞬間には、力強く地を蹴った彼の身体はすぐ近くにあった。

 踏み込みからの、中段回し蹴り。


 どうやら、俺を押さえつけていた男の頭部に、蹴りが見事に決まったらしい。
 茶髪男はぶっ飛ばされて、ふっと背中の重みが消え失せた。

「調子に乗るなテメェ!!」

 別の男が繰り出した拳を、彼は片手で受け止め、素早く手首を掴むと、もう片方の掌で伸びきった腕の肘の辺りに突きを一撃。

 骨が破壊される音を訊いたのは、三回目だ。


 ほんの僅か、1、2分の間に、三人をぶちのめした。
 呆気ないほど、簡単に。

 血に濡れた髪に、目が隠れていて、表情を伺い知る事は出来ない。

 ひぃっと悲鳴を飲み込みながら、取り巻きたちは路地から駆け出し。


「遅れてきたヒーロー!イぇい!!!」

 西河原の跳び蹴りと、椎名の拳を受けて、次々とノックアウトされた。
 西河原たちを心配した俺に久賀が「大丈夫だろ、あいつ等は野獣だから」と言った意味がようやく分かった。

 レベルが違う。

 ざりっと砂を踏み鳴らし、久賀が倒れている青髪に向かっていく。

 右手の指を何本か砕かれて、足も、あり得ない方向に曲がってるんだけど、まだ、蹴り足りないか。久賀さん!
 気持ちはわかるけど、落ち着け。

「待って、久賀!!」

 背中に投げかけたけど、止まらない。
 止めなきゃ、と、腰を浮かしかけた俺の予想を裏切って、久賀は青髪の前を横切った。

(あ……良かった。俺の杞憂だ)

 久賀の姿を目で追いかけながら、ほっと胸を撫で下ろした。

 そう。
 そうだよな。
 久賀はコイツ等みたいに常識に欠けて(いや、久賀も十分も欠けているけども……)根性の腐ったクソヤローとか、脳みそ腐乱したキチガイヤローとは違……。

 ヒュンッ。と、空気を切り裂く素早い蹴りが繰り出されて、潰れたカエルのような声が聞こえた。

 ガシガシと容赦なく靴底を踏み下ろす久賀の背中を、思わずガン見してしまった。
 無様な悲鳴と命乞いを繰り返すのは、久賀が蹴り倒した茶髪男だ。

 ちょっと久賀さん!!蹴り潰す相手を間違ってますぅ!!……じゃなくって!!お前はクソヤローでもキチガイヤローでもないだろっ!!

 慌てて立ち上がり、久賀の背中に抱きついた。

「久賀!!ヤり過ぎヤり過ぎ!!死んじゃうから!!!」

 制止の言葉なんて聞こえていない相手を「ダメだって!!」と力任せに茶髪男から引き離した。

「あいつ……殺す」

「ここころ?ダメだって!そんなのっ!殺しちゃダメだ!!お前はそんなこと出来るヤツじゃねぇだろ!」

 地を這う程の、冷気を含んだ一言に内心ビビりながら、ただ必死に、久賀に抱きついて叫んだ。

 久賀が傷つけられんのは勿論だけど、コイツが誰かを傷つけている場面なんて、俺は見たくなんて無いよ。

 お前の手は誰かを殴るモノじゃなくて、美波ちゃんの頭を撫でるための手だよ。
 足は、誰かを踏みつけるモノじゃなくて、フィールドを走って輝くためで、唇は、誰かを呪う言葉を紡ぐ為ではなく、緩く笑みを乗っけるためにあるんだ。
 そっちの方がずっとお前らしいよ。

「お前はあいつ等とは違う!!ちゃんと善悪の区別がつく、優しい男だろ!!!」

 ちょっぴり、いや、かなり支離滅裂だ。
 だけど、すがりついて、がむしゃらに叫ぶくらいしか出来なかった。

 暫く、ぎゅっと抱きついていると、久賀のカラダから力が抜けた事が分かった。
 よろめいて壁に手をついた彼に「……はなせ」と短く命令された。

「こ、殺さない?」

 不安になりながら確認する俺に「ん」と短く返事が返ってくる。

「殴るのもダメ、だぞ?」

「ん」

「勿論、蹴るのもダメだかんな」

「ん」

 背中にはりついているから表情なんて分からないが、壁に寄りかかる様子から察するに、茶髪男を痛めつける気力もつきた……と、思う。

 ビビりながら、そろりと戒めをとくと、久賀は壁にもたれ掛かりながらずるずると地面に座り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

尻で卵育てて産む

高久 千(たかひさ せん)
BL
異世界転移、前立腺フルボッコ。 スパダリが快楽に負けるお。♡、濁点、汚喘ぎ。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

処理中です...