うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第75話

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 なんかもう、ワケも分からず騒いでいる状態だよね、あれ。
 後で正気を取り戻して、みんな多分自分の行動に呆れるのだろう。
 いわゆる『俺、なんであんなことしちゃったんだろう』現象。
 ノリと空気は恐ろしい。

「なんか。こーゆーのをシュールって言うの?久賀さん」

「カオスってゆーんだよ、尾上くん」

「俺さ、ダチとしてあいつを止めてやった方がいいのかな」

「いや。も、これはこれで楽しんじゃえばいいんじゃないかな。触らぬ神になんとやらってゆーし」

「君子危うきに近寄らずともいうよね」

「誰が君子かは敢えて追求しないであげよう。俺の優しさに感謝だな。さて、さすがに疲れた。着替えて帰りますかね」

 ぽいっと空のペットボトルを投げて寄越し、たらたらと久賀が歩き出す
 ゴミはゴミ箱に入れなさいって。
 道にポイ捨てじゃないから、まぁ……許すけどさ。
 久賀の後を追いかけながら、俺はコイツに甘すぎるよな、と思う。
 これが惚れた弱みというか、惚れた方の負けってヤツですかね……ムカつくな。

 負けっぱなしな自分にムカつくな。
 勝ち負けの問題じゃないけれど、いつかぎゃふんと言わしてやりたいと思わないでもない。

 久賀の後を追いかけて、後をついていく。

 来るなと言われなかったから、多分、いいのだろう。

「な。帰りなんか食ってく?」

「んー。皮がカリカリのたこ焼きが食べたい」

「じゃあ、それにしよう」

「やった。尾上の奢りだ」

「奢らねぇーよ、バカ」

「えー、ガッカリしょぼーん」

 ガッカリしたようには全く聞こえない声音でいって、久賀は保健室の窓を外からコンコンと小さく叩いた。
 なんで保健室だろう?ハテナ、ハテナ。
 ガラガラと窓を開けて、久賀は頭を部屋の中に突っ込んだ。

「ゆうたーん、終わったよー」

「誰がゆうたんだ。シネ」

 カーテンで仕切られたベッドスペースから、椎名がのっそりと現れた。

 …………シャツの前が全開なところとか、髪が乱れているところなんかは、多分突っ込んではいけないのだろう。

「いやぁん、お楽しみ中だったのかしら、ごめんねー優雅サマ」

 さま、の後に悪意あるハートマークが見えたのは、俺だけじゃないよな。
 クツクツ笑う久賀の顔に、ぼふっと丸めた制服がぶち当たった。

 地面に落ちる前に制服を掴み、鼻の頭を久賀がそろりと撫でる。

「ドエスなお前にドキドキするよ、マジで。あ、ついでに鞄も……出来れば、投げないで欲しかった」

 すでに投げられちゃったから、言っても無駄です。顔面ヒットはどうにか回避したけれどね。

「ちょっ、ヤケに冷たいわねん、ゆーたん。もしかしてガチでお楽しみ中だった?」

「ぬかせ。試合は?」

「ん、4-1で圧勝。あ、尾上、ちょっと鞄持ってて」

 押しつけられた鞄を抱えて、椎名と久賀を交互に見やる。
 なんつーか、二人とも目つき悪いし、背も高くて壁みたいだし、椎名は雰囲気からして怖いし、久賀は笑ったらまぁ、ほんわかするけど(演技だけどね)ふつーにしてたら近寄りがたいし、しかし、どーだろ、この二人。

 弟曰く坂本と久賀が並んだら“美形結界”が出きるらしいが、椎名と久賀でも結界出来てるじゃん。

「世の中、顔」を体現しちゃってる二人に若干むかつく。

「三点差……?どうした、不真面目が取り柄なお前にしては、過剰サービスじゃないか?」

「ま、たまには“健康的な汗”ってヤツを流してみようと思いましてね」

「嘘くさいな」

「そんなきっぱりハッキリ言わないで。10%くらいはホンキよん?五分の1が気紛れで、四割が今後の金稼ぎの餌的なやつ。0.1人がおんにゃの子にモテたい俺かな。残りの半分が自覚ありの過剰サービスね」

「なら後の一割はなんだ」

 ちょっ。
 えーと、なんですか?
 頭の回転が追いつかない。
 えっと久賀一人のウチワケが10%と五分の一と四割と0.1で……えっと、合わせると……80%か?で、残りの半分を足すと……九割。残り一割っと。

 瞬時に計算した椎名にビックリだが、これであってるか?うん、後でもっかい考えよう。

「うふふ、秘密ー。聞き出したきゃ今夜部屋に忍んでこいよ」

「シネ」

 ばんっ!と勢いよく窓を閉められたが、上機嫌な久賀はめげやがらない。

 ガラリと窓を開けて、がっと枠に足をかけ室内に侵入を試みる。土足で。

「何やってるんだよ」

 ぐいっとユニフォームを掴んでとめた。
 あん?と振り返った久賀が「どしたの?」と不思議がる。

 常識をたたき込むのに、マジで苦労します。


「お前、靴で中に入る気だろう」

 そうだけど。それが何か?と久賀が頭を傾ける
 そんな仕草をしたってちっとも可愛いだなんて、思わないんだからな!……多分。

「“保健室”に土足はダメだろう」

 ここ以外でもだめだと思うけど……怪我人、病人をみる場所に土足で踏み込むのはヒドすぎるだろう。

「靴を脱げ、とゆーか窓から入るな。ドアを使えドアを」

「面倒くさい」

 なんとゆーシンプルかつ幼稚な答えでしょう。そんな理由で世の中の道理が曲げれるなら誰も苦労はしませんよ、久賀さん。

「ダメだって。床が汚れたら麻由ちゃん先生が怒るぞ!」

 ちなみに麻由ちゃん先生とゆーのは養護教諭の麻由美先生のことだ。
 ちっちゃくてカワイイ系なのに、中身が男前なので男女ともに人気がある。

「んん……。麻由ちゃんキレると怖いよね。仕方ない、じゃあ諦める」

 素直。
 よいしょっと窓からおりた久賀を見ながら、いつもこんくらい素直だったらいいのにとしみじみ思う。

「仕方ないから、ここでドキウハ、ナマ着替えをはじめます」

「…………はい?」

 うんしょっ。とユニフォームの上着に手をかける相手を慌てて止めた。
 何やってんの!何やってんのお前!!頭大丈夫ですか!!!
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