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第59話
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何で優しくするんだよ。いつもは冷たいくせに、時々、信じらんねぇーくらい優しいから、苦しい。嫌いになれない。
好きを捨てなれない。
「おまえっ、意味わかんないっ!」
マジで涙が浮かんできて、再びマットに顔を突っ込んだ。
頭を撫でる手の動きは、全然なれた風じゃなくて、なんだか意外だけど、理由もわからず嬉しかった。
「俺には、お前の方が理解不能ですよ、オガミン」
「オガミン言うな!」
「んー……おがやん?」
「誰がだっ!変な呼び方止めろって」
「じゃあ輝ちゃん」
「ちゃんづけすんな」
顔はマットに押しつけたまま、カンだけで平手を繰り出すと、久賀の足にあたったみたいで「いてっ」と大袈裟に痛がる声が降ってくる。
ざまぁみろ。いじめっ子。
その後は……。その後は、二人とも黙ってしまった。
俺は鼻がすんすんしちゃって顔なんてあげれないし、シリアスモードが嫌いな久賀も、珍しく茶々を入れずに黙ってる。
さらに、さらに珍しく。久賀は不慣れな仕草で頭を撫で続けてくれた。
他人を慰める事なんて、久賀の性格上ありえねぇと思ってました。
うざったいヤツなんか眼力だけで瞬殺して、自分の世界からは完全シャットアウト。
お金にしか興味がないとおっしゃるひとでなしは、氷よりも冷たいみたい。
でも……それなら、いま俺の頭を撫でている手の意味は何なのだろう?
いくら情に薄い久賀でも、目の前で泣かれたらさすがに心の隅っこくらいは痛んだりするのか?いや、どーだろう。
涙はとっくに引っ込んでいたんだけど、久賀の手が愛しくて、泣いてる振りをした。
どうか、はなれていかないで。と、そんなちっぽけなことを、必死に願っていた。
ヒトは物事を忘却していく生き物だ。
過去のあらゆる全てを“一瞬の忘却”もなく抱き続けるのは難しい。
叶わなかった恋の痛みなんて、抱えていても苦しいだけだ。
それでも……。
(……忘れたく、ねぇな)
格好悪く泣くほど心を埋める気持ちや、頭を撫でる不器用な手の仕草を忘れるなんてイヤだ。
たとえ叶わない恋だとしても、遠い場所でお前が苦しんでいる時に、なにも感じない俺なんかになりたくないよ。
忘れたく、ない。
「尾上」
これまた珍しく、妙に真面目な久賀の声音。
名前を呼ばれたら、その人の顔を見るべきなのにな。
怖くて動けなかった。
その後に続く言葉なんて知りたくなかった。
痛いくらい、優しい声をしていた。
「俺には無理みたい」
それは、心を許せる友だちになりたいと願った、俺に対する返答だ。
優しい声音で、拒絶された。
ああ、やっぱり知りたくなかったと、ぎゅっと目をつむった。
ずっと友人と他人の間みたいな、中途半端で曖昧な関係だった。
それを壊そうとしたのが俺で、受け入れてくれなかったのが久賀。
俺のもくろみは、たやすく失敗に終わった。
久賀はもう、うその友情すら、許してはくれないだろう。
そしてこの後に待ってるのは、今よりも遠い関係だ。
「トモダチなんていたことないから、どうしたらいーか分かんないんだよね」
そうそう、どーしたら良いか分からないような関係に…………はい?
思わず顔をあげて久賀をガン見した。
視線の先では眠いのをこらえている相手が、まぶたが落ちて自然と細くなる目をこちらに向けていた。
「お。泣き止んだな…………お前ってちっちゃい子どもみたい」
それは俺の台詞です。
絶句する俺の前で、久賀はふぁっと欠伸を一つ。
なぐさめている相手が泣きやんだ事だし、ヤらなくてもいいなら、もう俺の役目は終わったよねと、久賀はベッドにゴロンと横になって「おやすみなさい」と寝る体勢になる。
待ってくれ、俺の思考が追い付いていない。
俺は慌てて布団を引っ張って、夢の世界に旅立とうしている久賀を止めた。
「ちょっと待って!寝るな!!物凄く突っ込みたい、いやっ。やらしい意味じゃなくて会話の方で!確認したいことがありありだ!!」
おちおち凹んでもいられない。
久賀の思考はおかしいってことをさっき思い知ったばかりなのに、今日は発せられる言葉がどれもこれも普通(俺的)の域から飛び出しまくってて頭の回転が追いつかない。
「ちょっ、誰がトモダチいないって?」
「……ん、俺?」
なにこの可哀想な子。突然のぼっち宣言とか、どうやって対応すればいいんだ?
今にも寝ちゃいそうな相手のカラダを揺さぶって、まだ寝るな!と叫んでみた。
「も。一回、寝てからにしない…………限界」
「そうさせてやりたいのはヤマヤマですが!俺の動物的直感が今じゃなきゃダメって言ってる。この問題を解決するのはいつだ。いまでしょ!って言ってるよ久賀さん」
ばーい、某予備校講師さまのお言葉。
なにそれ、しんねーと、世情に疎いらしい久賀が「眠い……」と枕をぎゅぎゅっと抱きかかえた。いや、もう随分と昔の話題ではあるけれど、テレビで散々流れてただろーって、そんなことはどーでもいい。それよりも、久賀の【枕ぎゅぎゅっと】が、似合わなすぎて逆にカワイイとか思った俺は、いったん落ち着いた方がいいよな?
いや、落ち着いてる場合ではない。
「トモちゃんは?お前には大事なトモちゃんがいるじゃん!トモダチじゃないとか抜かすな」
「んー……?トモは、ほら……天使だから」
い み が わ か ら な い !
本気で意味がわかりませんよ、久賀さん!
待って!寝ないで久賀!!俺のモヤモヤが解消しないから。
「じゃ、じゃぁ椎名とか、あと西河原もいるし……最近よくつるんでる安田とか、いるじゃん?」
彼らはどーなのっと聞くと、横向きに寝転がってる相手がうっすら微笑んだ。うっ、悪い笑顔だ。
「優雅……椎名は正確には腐れ縁。まぁ、ダチってゆーか悪友?友の字が付いててもちょっとニュアンス、ちげぇです」
「西河原」
「あいつはね……んー、昔 ケンカ売られた事があってさ。ブチのめしたら再戦挑んできて……めんどーだから勝ち逃げしてるの」
西河原、なにやってんの。ってゆーかお前らそーゆー関係か。
西河原がどー思っているかはともかく、久賀の中ではトモダチ認識無し。
余談だが、後に西河原にそれとなく久賀との関係を聞いてみたら「えー?りゅー?うん、いつか俺がぶっ倒すんだ」とのこと。
なんだろ、ホント意味わかんねぇなコイツら。
「じゃあ、安田」
「あー、緋色信者君ね……」
「は?ひいろって……なに?」
そーいや、安田もヒーローがどーたら言ってなかったか?ハテナ、ハテナ。
混乱する俺なんかにお構いなしで、久賀が目をこすり。
「お客さん」
と、そう答えた。
「は?客?……俺?」
「違うよ、安田君ね。彼はお客さん」
久賀の言葉を理解するのに、数秒を費やした。
客って、バイトの客?
ナガノさんと、同じ意味の客?
え……。
「……お、まっ、高校生相手になにやってんの。しかも、同じガッコ、で、同じクラスじゃん」
動揺して、舌が上手く、回らなくて、変なしゃべり方になってしまった。
好きを捨てなれない。
「おまえっ、意味わかんないっ!」
マジで涙が浮かんできて、再びマットに顔を突っ込んだ。
頭を撫でる手の動きは、全然なれた風じゃなくて、なんだか意外だけど、理由もわからず嬉しかった。
「俺には、お前の方が理解不能ですよ、オガミン」
「オガミン言うな!」
「んー……おがやん?」
「誰がだっ!変な呼び方止めろって」
「じゃあ輝ちゃん」
「ちゃんづけすんな」
顔はマットに押しつけたまま、カンだけで平手を繰り出すと、久賀の足にあたったみたいで「いてっ」と大袈裟に痛がる声が降ってくる。
ざまぁみろ。いじめっ子。
その後は……。その後は、二人とも黙ってしまった。
俺は鼻がすんすんしちゃって顔なんてあげれないし、シリアスモードが嫌いな久賀も、珍しく茶々を入れずに黙ってる。
さらに、さらに珍しく。久賀は不慣れな仕草で頭を撫で続けてくれた。
他人を慰める事なんて、久賀の性格上ありえねぇと思ってました。
うざったいヤツなんか眼力だけで瞬殺して、自分の世界からは完全シャットアウト。
お金にしか興味がないとおっしゃるひとでなしは、氷よりも冷たいみたい。
でも……それなら、いま俺の頭を撫でている手の意味は何なのだろう?
いくら情に薄い久賀でも、目の前で泣かれたらさすがに心の隅っこくらいは痛んだりするのか?いや、どーだろう。
涙はとっくに引っ込んでいたんだけど、久賀の手が愛しくて、泣いてる振りをした。
どうか、はなれていかないで。と、そんなちっぽけなことを、必死に願っていた。
ヒトは物事を忘却していく生き物だ。
過去のあらゆる全てを“一瞬の忘却”もなく抱き続けるのは難しい。
叶わなかった恋の痛みなんて、抱えていても苦しいだけだ。
それでも……。
(……忘れたく、ねぇな)
格好悪く泣くほど心を埋める気持ちや、頭を撫でる不器用な手の仕草を忘れるなんてイヤだ。
たとえ叶わない恋だとしても、遠い場所でお前が苦しんでいる時に、なにも感じない俺なんかになりたくないよ。
忘れたく、ない。
「尾上」
これまた珍しく、妙に真面目な久賀の声音。
名前を呼ばれたら、その人の顔を見るべきなのにな。
怖くて動けなかった。
その後に続く言葉なんて知りたくなかった。
痛いくらい、優しい声をしていた。
「俺には無理みたい」
それは、心を許せる友だちになりたいと願った、俺に対する返答だ。
優しい声音で、拒絶された。
ああ、やっぱり知りたくなかったと、ぎゅっと目をつむった。
ずっと友人と他人の間みたいな、中途半端で曖昧な関係だった。
それを壊そうとしたのが俺で、受け入れてくれなかったのが久賀。
俺のもくろみは、たやすく失敗に終わった。
久賀はもう、うその友情すら、許してはくれないだろう。
そしてこの後に待ってるのは、今よりも遠い関係だ。
「トモダチなんていたことないから、どうしたらいーか分かんないんだよね」
そうそう、どーしたら良いか分からないような関係に…………はい?
思わず顔をあげて久賀をガン見した。
視線の先では眠いのをこらえている相手が、まぶたが落ちて自然と細くなる目をこちらに向けていた。
「お。泣き止んだな…………お前ってちっちゃい子どもみたい」
それは俺の台詞です。
絶句する俺の前で、久賀はふぁっと欠伸を一つ。
なぐさめている相手が泣きやんだ事だし、ヤらなくてもいいなら、もう俺の役目は終わったよねと、久賀はベッドにゴロンと横になって「おやすみなさい」と寝る体勢になる。
待ってくれ、俺の思考が追い付いていない。
俺は慌てて布団を引っ張って、夢の世界に旅立とうしている久賀を止めた。
「ちょっと待って!寝るな!!物凄く突っ込みたい、いやっ。やらしい意味じゃなくて会話の方で!確認したいことがありありだ!!」
おちおち凹んでもいられない。
久賀の思考はおかしいってことをさっき思い知ったばかりなのに、今日は発せられる言葉がどれもこれも普通(俺的)の域から飛び出しまくってて頭の回転が追いつかない。
「ちょっ、誰がトモダチいないって?」
「……ん、俺?」
なにこの可哀想な子。突然のぼっち宣言とか、どうやって対応すればいいんだ?
今にも寝ちゃいそうな相手のカラダを揺さぶって、まだ寝るな!と叫んでみた。
「も。一回、寝てからにしない…………限界」
「そうさせてやりたいのはヤマヤマですが!俺の動物的直感が今じゃなきゃダメって言ってる。この問題を解決するのはいつだ。いまでしょ!って言ってるよ久賀さん」
ばーい、某予備校講師さまのお言葉。
なにそれ、しんねーと、世情に疎いらしい久賀が「眠い……」と枕をぎゅぎゅっと抱きかかえた。いや、もう随分と昔の話題ではあるけれど、テレビで散々流れてただろーって、そんなことはどーでもいい。それよりも、久賀の【枕ぎゅぎゅっと】が、似合わなすぎて逆にカワイイとか思った俺は、いったん落ち着いた方がいいよな?
いや、落ち着いてる場合ではない。
「トモちゃんは?お前には大事なトモちゃんがいるじゃん!トモダチじゃないとか抜かすな」
「んー……?トモは、ほら……天使だから」
い み が わ か ら な い !
本気で意味がわかりませんよ、久賀さん!
待って!寝ないで久賀!!俺のモヤモヤが解消しないから。
「じゃ、じゃぁ椎名とか、あと西河原もいるし……最近よくつるんでる安田とか、いるじゃん?」
彼らはどーなのっと聞くと、横向きに寝転がってる相手がうっすら微笑んだ。うっ、悪い笑顔だ。
「優雅……椎名は正確には腐れ縁。まぁ、ダチってゆーか悪友?友の字が付いててもちょっとニュアンス、ちげぇです」
「西河原」
「あいつはね……んー、昔 ケンカ売られた事があってさ。ブチのめしたら再戦挑んできて……めんどーだから勝ち逃げしてるの」
西河原、なにやってんの。ってゆーかお前らそーゆー関係か。
西河原がどー思っているかはともかく、久賀の中ではトモダチ認識無し。
余談だが、後に西河原にそれとなく久賀との関係を聞いてみたら「えー?りゅー?うん、いつか俺がぶっ倒すんだ」とのこと。
なんだろ、ホント意味わかんねぇなコイツら。
「じゃあ、安田」
「あー、緋色信者君ね……」
「は?ひいろって……なに?」
そーいや、安田もヒーローがどーたら言ってなかったか?ハテナ、ハテナ。
混乱する俺なんかにお構いなしで、久賀が目をこすり。
「お客さん」
と、そう答えた。
「は?客?……俺?」
「違うよ、安田君ね。彼はお客さん」
久賀の言葉を理解するのに、数秒を費やした。
客って、バイトの客?
ナガノさんと、同じ意味の客?
え……。
「……お、まっ、高校生相手になにやってんの。しかも、同じガッコ、で、同じクラスじゃん」
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