うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第49話

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 西河原はにやにや笑ながら楽しそうに話す。

「拝見させて頂きました、かぁいいーかぁいいーツーショット。それ見たりゅーが固まってさ。可笑しすぎて笑えたー。にゃははは。ざまぁみろー」

「聞こえてるぞ、西河原」

 前を行く久賀が頭だけ振り返り、西河原に冷たい目を向ける。怖ぇよ。
 西河原は平然とひらひら~と手を振ってそれに返した。
 反省するかと思いきや、若干声のトーンは落としたものの、にやにや笑いは変わらない。
 
「うっかりに寝過ごして、仕事の時間に間に合わなくて御主人様に怒られて謹慎とか、多分そんなカンジ。いいきみー」

 ケタケタと笑う西河原に、ちょっとだけムッとした。

「そんな風に言うなよ。ざまぁみろとか。ダチだろ。心で思うくらいにしとけ。後、自分で訊いといてなんですが、あんまりアイツの秘密ペラペラ喋るなよな。信頼されてるんだろ。久賀が傷つくじゃん。……訊いた俺がダメなんだけどさ」

 知りたいなら、本人から聞くべきだった。
 訊いても教えてはくれないだろうが、それでもこんな風に第三者から自分の情報が漏れてるなんてさ、イヤだよな。
 あとさ、俺もクタバレとか、ざまぁとか思ったり、言ったりするけどさ……トモダチの顔して、悪口言うのは反則だろ。
 キョトンと、鳩が豆でっぽうをうんたらかんたらな顔をした西河原が、にぱっと笑顔をつくって。

「オガミーったらかぁぁいいっ」

 ぎゅぎゅっと抱きしめられた。
 ぎゃぁぁああっと悲鳴をあげながらジタバタもがく。
 ぶわりと鳥肌がたった。男に抱きつかれても一ミリも嬉しくない!
 俺は久賀が好きなのであって、久賀以外の男とどうこうなりたいとか、そんなことを考えたことはない。
 裸を見たいとか、ハグしたいとか、チューしたいと、そんなことをヤロー相手に思ったことはない。……久賀以外。
 ま、そんなわけで、ちょいとオーバーな愛情表現であっても、ヤロー相手のあっつい包容なんざ、御免被るわけですよ。しかも廊下でとか、公開処刑レベルのダメージ。
 廊下をすれ違う女子生徒に、くすくすと指をさされて笑われる。
 恥だ、消えたい。

 赤くなりながら「いい加減離れろ!歩きにくい!!」と怒鳴るも力の差は歴然だ。

「よぅしよしよし。かわいいですねぇー」

 と、某動物大好きな研究家さん口調で人の頭を撫で撫でしやがってくれた。
 ぶん殴って良いか?
 握りしめた拳を振り上げる五秒前。再び飛んできたスマホがスコンと素晴らしい音を立てて西河原の頭に直撃した。

 視界の端っこでとらえたピッチャーの投球フォームも大変麗しくて惚れ惚れする。うん、俺の頭イかれ具合も素晴らしい。

 そしてリピート。
 俺は、西河原の足元に転がったスマホを素早く拾い上げ、西河原は頭を抑えて、さっきと同じ台詞を叫んだ。

「っったぁぁぁぃ!後頭部に的確な一撃とか殺意しか感じないんですけどぉー!!パートツー」

「殺意を籠めたんだよ。学習しろや」

 久賀がすたすたと早足で戻ってきて、何故だか眼前に迫り。

「えっと?スマホ?」

 すかさず拾ってあったスマホを差し出す。
 すると、なぜだかその手をガッシリ掴まれました。
 
 ええっ?と混乱する俺にはお構いなしで、腕を引っ張られて連れて行かれる。

「りゅーのヤキモチやきー」

 後ろでは、んべーと舌を出した西河原が騒いでいる。

「脳外科予約してやんよ。ダチ思いな俺に感謝しやがれ」

 ケッと柄悪く咽を鳴らし、不機嫌オーラを背負って歩く久賀に内心びくびくしまくりだ。
 途中で待っていたシーナに追いつくと、くるりと振り返った久賀に。

「尾上、先頭」

 歩け、と親指で示される。
 怒ってますよね、久賀さん。
 多分、俺と西河原の会話が聞こえたんだよな。

 しゅんと気落ちしながら、それでも言われたとおり先頭にたち、昨日 昼飯を食べた中庭を目指して足を動かした。

 後方で、ぷっと誰かが吹き出す気配。

「ゆーたん。余計な発言は後ろの阿呆の二の舞だからね」

 不機嫌久賀の低音ボイスに阻まれて、振り返ることは出来なかった。

「了解。その阿呆を回収してくるから、先に行け」

 椎名が笑いながら離れて行った。
 ちょっ。二人きりとか気まずっ、いや、いい方に考えよう。チャンスだ俺!
 知りたいことがあるなら、本人に質問すべきだ。
 ぐぐっと拳をつくり、勇気を振り絞った。

「あ、あのさぁ久賀!勘違いかもだけど、なんか俺お前に避けられて……」
「お前って、なんでそんなに無防備なわけ?警戒心なさすぎも大概に……」


 被った。
 喋り出す瞬間も、途中で言葉を止めるタイミングもバッチリで、お互いになんと言ったか全く分からなかった。

「…………」

「…………」

 無言でしばし見つめ合う。
 えーと、なんてゆーか、その……ゴメン、そんな場面じゃねえかもだが、ちょっとウけた。なんか、間抜けな感じで。

「……あほらし」

 ぽそりと呟いた後、プッと久賀が吹き出して、くつくつと咽の奥で笑った。

 それだけで、ぱぁっと心が明るくなった。
 単純で良い。いちいち一喜一憂してしまうくらい、俺はコイツにイかれている自覚ありだ。

「おい、こら。先に笑うとか反則じゃね?」

「そんな反則聞いたことないよ。アレだ。アホだね、尾上は」

 先行けよなんてさっきは言った癖に、人を失礼にもアホ呼ばわりして久賀はすたすたと歩き出した。
 その背中を追いかけて、隣に並ぶ。

「アホ言うなし」

「ぢゃあ、お馬鹿?」

「全否定はしない。つか、その二つの明確な違いってなんだよ?」

 握り締めたままのスマホを差し出しながら訊くと。

「お笑いでいい仕事をするのが阿呆で、救いようがねぇのが馬鹿」

 スマホを受け取りながら久賀が答えてくれた。
 にっこり笑顔じゃなくて、怒っている顔でもなくて、ちょっぴり唇が緩くて微笑しているみたいな、そんな顔だった。

 ため息ひとつで心が殺されたり、微笑みひとつで天国に連れて行かれたり、俺のキモチは目まぐるしい。
 たったひとりに心を占拠されている。

 もっと、知りたい。

「アホでいいです。お前さお笑い好きなのか?」

「シリアスな雰囲気がキライなんですよー」

 もっと、近づきたい。

「えっと、……私用と仕事用と分けてんだってな、スマホ。ゴメン、西河原に訊いちゃったよ」

「ん。西河原の口が軽いのが悪ぃ。後で殴っとくよ」

「いや、訊いた俺が悪いです。ゴメンナサイ」

 もっと話したいし、関わりたい。
 心の内側に触れてみたいよ。
 苦しいなら支えてあげたいし、悲しいなら抱き締めてあげたい。

 そんな風に、願ってはいる。
 けれど、それが叶う程に近くにはまだいけない。

「あんなバカを庇わなくてヨロシイ。つか、アレに懐かれても本気にするなよ、オガミン。アレも無節操の遊び人だからね」

 あれ。それってちょっとは俺を心配とかしてくれてるの?
 多分、それを追求したら「やっぱバカっだろお前」なんてセリフが返ってくるだろうから、勝手に都合よく解釈しておいた。

「久賀に遊び人って言われるとか、西河原どんだけ……流石、お前のダチだけはあるよ。あと、オガミン言うな」

「俺のはビジネスですー。本能で生きてるアレと一緒にするな」

「うん。お前の方がタチ悪ぃって分かった。そんな怪しいバイト止めちまえ」

「うわー。またそのハナシをするの?シツコイわんこだな」

 逃げるが勝ちと、久賀が歩く速度を速め、その後を俺は追いかけた。




 後に一部で名物認定される、赤ニャンコと黒わんこの追いかけっこ。
 ここに開戦。

 よーい、ドン。



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