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第32話
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「あー……お客さんだったのかぁ。てっきり寝起き最悪なネボッケーキス魔の被害者かと思ったんだけど」
「寝起きは最悪だったが、寝ぼけては無かっただろう、アレは」
「ちぇーっ。どーせ俺はお前みたく、リューと以心伝心出来ませんよー。なんだよちょっと付き合いが長いからってさーラブラブ主張とかマジ要らない」
ラブラブなんですか?え?マジで?
思わず椎名の顔を見上げてしまった。
もの凄く嫌そうな顔をしていた。
「気持ち悪ぃ発想はやめろ。埋めるぞ」
「なら埋め返す!っと、どーしようかオーガミ。お客さんにはね、俺たち関わらないようにしてるんだよねー」
四つの目に注目されて、困惑する。
どうやら、彼らが久賀のウリのコトを知っているのは間違いないようだ。
そして俺は、なぜだかあいつの客だと勘違いされているらしい。
冗談ではない。
俺は本心でぶつかり合える友人になりたいのであって、アイツの客になりたいわけではない。
欲しいのはお金でつながった関係ではないのだ。
もっとも、久賀にしてみたらそんなコトどうでも良いし、友人なんて望んでいないのだろうけど。
思いは一方通行のみで、返されることはない。
「あの、さ。俺、客じゃないよ」
友情なんてカケラほどもないが、それでも金でつながった関係だと勘違いされたままなのは嫌なので、否定してみると、疑わし気な視線を椎名から向けられた。
口を開こうとした彼を遮って西河原が騒ぐ。
「分かった!お客さんじゃないなら恋人だ!」
「ええ"っ!」
ビシッと人差し指を向けられた。恋人って!もしかしてそう見えちゃったりするのか。
恋人……。
なんて心が浮き立つ、素敵な言葉だろう。
好きな相手と心を分かち合える可能性があるなら、どんなに苦しい片恋だって乗り越えられると思うのに。
残念ながら、俺の恋には希望がない。
かないっこない恋なんかに、どうして落ちてしまうのだろう。
人間って、面倒臭い生き物だよな。
「恋人はねぇだろ。有り得ない」
椎名にきっぱりと断言されて、ぐさりと心に傷を負った。分かってたけどさ……。
分かっているが、誰かに言葉にされると激しく凹む。
「あー?なんで断言できるわけぇ?」
「どーみても……あいつの好みじゃないだろう」
じろじろと失礼なくらい見られた。
目付きが悪いのでとても怖いです。
「うっわぁー。好みのタイプまで把握してるとか、エロいわ!不純よん!お互いの好みも性癖もきもちぃぃ場所も知ってるとかーやぁーらぁしぃぃ」
まぁ……不純かどうかは知らないが、好みのタイプを熟知してるくらい親密なんだ。
へぇ……。
あ、ダメだ、色んな意味で凹んだ。
あと、西河原、後半はふざけてるだけだよね?
「あー、そーかよ」
「うっわ。否定しなかったよコイツ。なぁなぁ、あとでりゅーにシーナとヤんのはどんな感じかきーてもいーい?」
「ぶっ殺されたいなら好きにしろや」
「迎え撃つ!かかってきやがれ。で、結局の所、オーガミとリューはどんな関係なの?」
いや、いまの流れで、何で俺に話が戻って来るんだよ。
再び注目されて返答に困ってしまった。
客でないことは確か。友人、だと思っていたのは俺だけで、思いは一方通行。そしてどうやら俺の馬鹿さ加減が、あいつを怒らせたみたいだから、もうクラスで仲がいいヤツという位置にすら居させてはくれないだろう。
「ただの、クラスメートだ。恋人なんかじゃねぇよ。俺は久賀に嫌われてる……みたいだしっ、恋人とかありえねぇ」
自分の言葉に傷つく。
怒らせて、嫌われた。
事実だ。
覆せない事実。
恋人なんて、妄想することすら出来ない。
現実どころか、夢の中でも有り得なさそう。
……つらいな。
「【ただ】のクラスメート……ね」
あのさ。その意味深な視線は何なんですかね、椎名さん。実は西河原の言うとり、久賀とは、そーゆーご関係なんでしょうか。
西河原は良いヤツだけど、椎名は見た目通り怖いよ。
失礼なハナシだが、極力視線を合わせないようにしてみたりとかね。防衛本能ってやつです。
「どーしよーシーナ。なんかコイツ犬みてぇーで可愛いかもー」
めちゃくちゃ失礼なことを言いながら西河原ががばっと抱き付いてきて、わしゃわしゃと髪の毛を掻き回しやがった。
何しやがる!
予想外の展開に俺は情けなくも「ぎゃぁ」と短い悲鳴をあげた。
誰が犬だと文句を言う余裕すらなく「ちょっ。止めろよ」とじたばたもがく。
ヤローに抱き締められるとかマジで勘弁。
鳥肌モノだ!
久賀に恋しちゃってるって事は、俺はホモ(正確にはバイセクシャルだが)というわけだけど、ヤローの裸がみたいとか、触りたいとか、チューしたいだなんて、ミジンコ程も思ったコトはない。
なんでか、久賀は別なんだけどな……。
近づきたいとか、抱きしめたいとか、声が聞きたいとか、そんな事を思うのは久賀にだけだ。
ほんの数分前に自覚した恋なので、ガッツリなところまでは想像すらしていないが……俺はあいつと寝たいのか?
……やめよう。
虚しい。
悲しくなる。
考えて導き出した答えがどうであれ、気持ちは一方通行だ。
「誰彼かまわず抱きつくな。龍二か」
「むっふー。リューよりは節操があるよーん。俺は可愛い子や格好いいヒトにしかサービスしねぇもん。うっし、決めた。お客さんでもクラスメートでも愛人でも恋人でもいーや。一緒に行こう。そして正義の鉄槌をリューに喰らわすのだっ!」
あれっ。なんかこのノリ、もの凄く身近にいる誰かに似ている気がするなぁ。
ところで、愛人ってなんだよ。あいつ、愛人までいるのか?
マジ最悪だな、久賀龍二。
「寝起きは最悪だったが、寝ぼけては無かっただろう、アレは」
「ちぇーっ。どーせ俺はお前みたく、リューと以心伝心出来ませんよー。なんだよちょっと付き合いが長いからってさーラブラブ主張とかマジ要らない」
ラブラブなんですか?え?マジで?
思わず椎名の顔を見上げてしまった。
もの凄く嫌そうな顔をしていた。
「気持ち悪ぃ発想はやめろ。埋めるぞ」
「なら埋め返す!っと、どーしようかオーガミ。お客さんにはね、俺たち関わらないようにしてるんだよねー」
四つの目に注目されて、困惑する。
どうやら、彼らが久賀のウリのコトを知っているのは間違いないようだ。
そして俺は、なぜだかあいつの客だと勘違いされているらしい。
冗談ではない。
俺は本心でぶつかり合える友人になりたいのであって、アイツの客になりたいわけではない。
欲しいのはお金でつながった関係ではないのだ。
もっとも、久賀にしてみたらそんなコトどうでも良いし、友人なんて望んでいないのだろうけど。
思いは一方通行のみで、返されることはない。
「あの、さ。俺、客じゃないよ」
友情なんてカケラほどもないが、それでも金でつながった関係だと勘違いされたままなのは嫌なので、否定してみると、疑わし気な視線を椎名から向けられた。
口を開こうとした彼を遮って西河原が騒ぐ。
「分かった!お客さんじゃないなら恋人だ!」
「ええ"っ!」
ビシッと人差し指を向けられた。恋人って!もしかしてそう見えちゃったりするのか。
恋人……。
なんて心が浮き立つ、素敵な言葉だろう。
好きな相手と心を分かち合える可能性があるなら、どんなに苦しい片恋だって乗り越えられると思うのに。
残念ながら、俺の恋には希望がない。
かないっこない恋なんかに、どうして落ちてしまうのだろう。
人間って、面倒臭い生き物だよな。
「恋人はねぇだろ。有り得ない」
椎名にきっぱりと断言されて、ぐさりと心に傷を負った。分かってたけどさ……。
分かっているが、誰かに言葉にされると激しく凹む。
「あー?なんで断言できるわけぇ?」
「どーみても……あいつの好みじゃないだろう」
じろじろと失礼なくらい見られた。
目付きが悪いのでとても怖いです。
「うっわぁー。好みのタイプまで把握してるとか、エロいわ!不純よん!お互いの好みも性癖もきもちぃぃ場所も知ってるとかーやぁーらぁしぃぃ」
まぁ……不純かどうかは知らないが、好みのタイプを熟知してるくらい親密なんだ。
へぇ……。
あ、ダメだ、色んな意味で凹んだ。
あと、西河原、後半はふざけてるだけだよね?
「あー、そーかよ」
「うっわ。否定しなかったよコイツ。なぁなぁ、あとでりゅーにシーナとヤんのはどんな感じかきーてもいーい?」
「ぶっ殺されたいなら好きにしろや」
「迎え撃つ!かかってきやがれ。で、結局の所、オーガミとリューはどんな関係なの?」
いや、いまの流れで、何で俺に話が戻って来るんだよ。
再び注目されて返答に困ってしまった。
客でないことは確か。友人、だと思っていたのは俺だけで、思いは一方通行。そしてどうやら俺の馬鹿さ加減が、あいつを怒らせたみたいだから、もうクラスで仲がいいヤツという位置にすら居させてはくれないだろう。
「ただの、クラスメートだ。恋人なんかじゃねぇよ。俺は久賀に嫌われてる……みたいだしっ、恋人とかありえねぇ」
自分の言葉に傷つく。
怒らせて、嫌われた。
事実だ。
覆せない事実。
恋人なんて、妄想することすら出来ない。
現実どころか、夢の中でも有り得なさそう。
……つらいな。
「【ただ】のクラスメート……ね」
あのさ。その意味深な視線は何なんですかね、椎名さん。実は西河原の言うとり、久賀とは、そーゆーご関係なんでしょうか。
西河原は良いヤツだけど、椎名は見た目通り怖いよ。
失礼なハナシだが、極力視線を合わせないようにしてみたりとかね。防衛本能ってやつです。
「どーしよーシーナ。なんかコイツ犬みてぇーで可愛いかもー」
めちゃくちゃ失礼なことを言いながら西河原ががばっと抱き付いてきて、わしゃわしゃと髪の毛を掻き回しやがった。
何しやがる!
予想外の展開に俺は情けなくも「ぎゃぁ」と短い悲鳴をあげた。
誰が犬だと文句を言う余裕すらなく「ちょっ。止めろよ」とじたばたもがく。
ヤローに抱き締められるとかマジで勘弁。
鳥肌モノだ!
久賀に恋しちゃってるって事は、俺はホモ(正確にはバイセクシャルだが)というわけだけど、ヤローの裸がみたいとか、触りたいとか、チューしたいだなんて、ミジンコ程も思ったコトはない。
なんでか、久賀は別なんだけどな……。
近づきたいとか、抱きしめたいとか、声が聞きたいとか、そんな事を思うのは久賀にだけだ。
ほんの数分前に自覚した恋なので、ガッツリなところまでは想像すらしていないが……俺はあいつと寝たいのか?
……やめよう。
虚しい。
悲しくなる。
考えて導き出した答えがどうであれ、気持ちは一方通行だ。
「誰彼かまわず抱きつくな。龍二か」
「むっふー。リューよりは節操があるよーん。俺は可愛い子や格好いいヒトにしかサービスしねぇもん。うっし、決めた。お客さんでもクラスメートでも愛人でも恋人でもいーや。一緒に行こう。そして正義の鉄槌をリューに喰らわすのだっ!」
あれっ。なんかこのノリ、もの凄く身近にいる誰かに似ている気がするなぁ。
ところで、愛人ってなんだよ。あいつ、愛人までいるのか?
マジ最悪だな、久賀龍二。
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