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第27話
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気絶した久賀を背負って、ぐぐっと足に力を入れた。
意識がない人間のカラダって重いんだな。
だけど、10センチ+αの身長差の割に、動けないほどの重量はなくてほっとした。
やっぱ、ひょろ男だコイツ。
落とさないように注意しながら、一歩を踏み出した。
よろけて転びそうになる足に全神経を集中させて、全力を注ぐ。ぐっと地を踏みしめて、一歩一歩、あるいていく。
ごめん、と、心の中で久賀に詫びた。
何度も繰り返し、詫びた。
嫌われるのも、憎まれるのも、覚悟の上だ。
ホントは覚悟なんて微塵も出来ていないが、それでも、それでも、久賀に何かある方が俺は嫌だ。
もし容態が急変したら、俺には何も出来ない。
嫌われたくないから、久賀の言葉に従おうとする汚く下劣な俺の弱さが、こいつを死なせてしまうかもしれない。
そんなのは嫌だ。
嫌われてしまうより、ずっと嫌だ。
この程度の事で、簡単にくたばるかよ。というキモチと。
でも、もし……もし、命に関わるような異常が起きているのだとしたら?という不安が、体の中でせめぎ合っていた。
無知で無力なガキである俺は、意識不明の相手に何をしてやればいいかなんて分からない。
望み通り放って置いてもやれない。
選んだ道は、死なせないことだ。
小さなカケラほどの傷でも、命を脅かす可能性があるのなら、己の欲のために目を背けるなんて、絶対にダメだ。
コイツが、無事な方が、いい。
憎まれても、恨まれても、生きていてくれる方がいい。
大袈裟でも何でもかまわない。
自分自身を大切にしない久賀。
金を得るためなら、侮辱的な行為もビジネスと割り切るコイツは、きっと余計なことをするなと怒るだろう。
『ウリを止めたら、お前が養ってくれるの?』
そんな哀しい言葉を思い出して、胸が苦しくなった。
友人だと思っていたやつの生活や家族、趣味や好み、バイトのことなんかを、ひとつも“知らない”という事を知た時、本当のコイツを知りたいと願った。
いや……知りたいと思ったのは、あの雨の日からだ。
あの日から、ずっと望んでいた。
分かりたい。理解したい。近づきたい。力になりたい。友だちになりたい。
衝動に追い立てられ、がむしゃらに行動したが、結局何一つ得られないままでいる現実に、心はしくしくと痛み続けている。
金のために、酷い行為を受け入れたりしないで欲しい。
そう願っても余計なお世話だとコイツは笑う。
泣く代わりに、笑ったりするなよ、馬鹿。
じわりと襲ってくる、悲しみの波を抑えつけて、足を動かした。
久賀を助けようとして選んだ道は、うその友情さえ、失う道でもあるのだろう。
知りたいと思っても、本当の友人になりたいと願ってみても、カケラほどの関心さえ、得られなくなる。
きっとニセモノの笑顔さえ向けてくれなくなる。
嫌だ。と拒否する心が、歩みを淀ませるけど歯を食いしばって堪えた。
地面に視線を向けたまま、ひたすらに歩き続けた。
背中に感じるぬくもりが、いつかの情事を思い出させて、気づかないうちに皮肉な笑みが浮かんでいた。
★☆★☆
いつの間にか四限目の授業は終わって、昼休みになっていたらしい。
渡り廊下を進んでいると、中庭で弁当を広げている生徒の姿があった。
談笑する声にちらりと視線を向けて、急に空腹を自覚する。
長身の高校生男子はやはり重い。
ひょろ男でも重い。
腹減った。足が疲れた。支える腕も痺れる。
息はあがるし、汗は額にびっしりで、目的地の保健室はまだ遠く、ぶっちゃけマラソンより疲労度が高い。
苦行だ。
俺は選択を誤った。
誰かを呼んできて運ぶのを手伝って貰うべきだった……いや、やっぱ訂正。コレでいいや。辛くてもコレで良い。
今日が最後だから。
一分でも長く、一秒でも多く、コイツと関わっていたいと、そう思った。
今日で最後。
嫌われて、嘘の友人でもなくなって、軽口もフザケ合うことも、もう出来ない。
最後。
最後だと思うと、引っ込めたハズの悲しみの波が再びやってきて「ああ、くそ」と自分にげんなりした。
うだうだシツコイぞ!
男が一度決めたことをくよくよと情けねぇ。
舌打ちをして、重い足を無理矢理に動かした。
「りゅーちゃん!」
急に人の声が降ってきて、俺はぴたりと足を止めた。
一体何事だと、視線を声がした方に移動させると非常階段の四階から三階に下る途中にひとりの生徒の姿があった。
渡り廊下は雨を防ぐための屋根はあるが壁や窓はなく、吹き抜けになっているので周りを見渡すことが出来た。
階段にいるのはツインテールの長髪カワイ子ちゃんだった。
りゅーちゃんって、久賀の事だよな……。
あ、もしかして、コイツの彼女(の内のひとり)かっ!
この場合どうするば良いのか。と悩んでみても、とっくに見つかっているし、逃げるには機動力が無さ過ぎました。
そんな事を考えている間にツインテールさんは、ざっと階段の手すりを飛びこえた。
今日はこんなのばっかりかぁぁぁあ!!!!
結構な高さから、なんの躊躇もなく飛び降りた相手に、恐怖心は生物の本能ではないのか!?っとちょっぴりずれた疑問を抱く。
心の中で叫ぶ俺の頭上で、軽やかな着地音がした。
どうやら屋根の上に着地したらしい。
そして。
屋根の縁をつかみ一瞬だけぶら下がった後、ストンと地面に着地する影。
茶色い髪が、さらりと流れるように動いた。
アクションアクトレス。
「かっくいいー」と一瞬見惚れて、昨日に引き続きショックを受けるわけだが、カワイ子ちゃんの服装はワインレッド・ネイビーチェックのスカート、ではなく同色柄のパンツだ。
ああ、またこの件ですかぃ。女の子よりカワイイ男子が、なぜにうじゃうじゃしていやがるかな、この学校は。
意識がない人間のカラダって重いんだな。
だけど、10センチ+αの身長差の割に、動けないほどの重量はなくてほっとした。
やっぱ、ひょろ男だコイツ。
落とさないように注意しながら、一歩を踏み出した。
よろけて転びそうになる足に全神経を集中させて、全力を注ぐ。ぐっと地を踏みしめて、一歩一歩、あるいていく。
ごめん、と、心の中で久賀に詫びた。
何度も繰り返し、詫びた。
嫌われるのも、憎まれるのも、覚悟の上だ。
ホントは覚悟なんて微塵も出来ていないが、それでも、それでも、久賀に何かある方が俺は嫌だ。
もし容態が急変したら、俺には何も出来ない。
嫌われたくないから、久賀の言葉に従おうとする汚く下劣な俺の弱さが、こいつを死なせてしまうかもしれない。
そんなのは嫌だ。
嫌われてしまうより、ずっと嫌だ。
この程度の事で、簡単にくたばるかよ。というキモチと。
でも、もし……もし、命に関わるような異常が起きているのだとしたら?という不安が、体の中でせめぎ合っていた。
無知で無力なガキである俺は、意識不明の相手に何をしてやればいいかなんて分からない。
望み通り放って置いてもやれない。
選んだ道は、死なせないことだ。
小さなカケラほどの傷でも、命を脅かす可能性があるのなら、己の欲のために目を背けるなんて、絶対にダメだ。
コイツが、無事な方が、いい。
憎まれても、恨まれても、生きていてくれる方がいい。
大袈裟でも何でもかまわない。
自分自身を大切にしない久賀。
金を得るためなら、侮辱的な行為もビジネスと割り切るコイツは、きっと余計なことをするなと怒るだろう。
『ウリを止めたら、お前が養ってくれるの?』
そんな哀しい言葉を思い出して、胸が苦しくなった。
友人だと思っていたやつの生活や家族、趣味や好み、バイトのことなんかを、ひとつも“知らない”という事を知た時、本当のコイツを知りたいと願った。
いや……知りたいと思ったのは、あの雨の日からだ。
あの日から、ずっと望んでいた。
分かりたい。理解したい。近づきたい。力になりたい。友だちになりたい。
衝動に追い立てられ、がむしゃらに行動したが、結局何一つ得られないままでいる現実に、心はしくしくと痛み続けている。
金のために、酷い行為を受け入れたりしないで欲しい。
そう願っても余計なお世話だとコイツは笑う。
泣く代わりに、笑ったりするなよ、馬鹿。
じわりと襲ってくる、悲しみの波を抑えつけて、足を動かした。
久賀を助けようとして選んだ道は、うその友情さえ、失う道でもあるのだろう。
知りたいと思っても、本当の友人になりたいと願ってみても、カケラほどの関心さえ、得られなくなる。
きっとニセモノの笑顔さえ向けてくれなくなる。
嫌だ。と拒否する心が、歩みを淀ませるけど歯を食いしばって堪えた。
地面に視線を向けたまま、ひたすらに歩き続けた。
背中に感じるぬくもりが、いつかの情事を思い出させて、気づかないうちに皮肉な笑みが浮かんでいた。
★☆★☆
いつの間にか四限目の授業は終わって、昼休みになっていたらしい。
渡り廊下を進んでいると、中庭で弁当を広げている生徒の姿があった。
談笑する声にちらりと視線を向けて、急に空腹を自覚する。
長身の高校生男子はやはり重い。
ひょろ男でも重い。
腹減った。足が疲れた。支える腕も痺れる。
息はあがるし、汗は額にびっしりで、目的地の保健室はまだ遠く、ぶっちゃけマラソンより疲労度が高い。
苦行だ。
俺は選択を誤った。
誰かを呼んできて運ぶのを手伝って貰うべきだった……いや、やっぱ訂正。コレでいいや。辛くてもコレで良い。
今日が最後だから。
一分でも長く、一秒でも多く、コイツと関わっていたいと、そう思った。
今日で最後。
嫌われて、嘘の友人でもなくなって、軽口もフザケ合うことも、もう出来ない。
最後。
最後だと思うと、引っ込めたハズの悲しみの波が再びやってきて「ああ、くそ」と自分にげんなりした。
うだうだシツコイぞ!
男が一度決めたことをくよくよと情けねぇ。
舌打ちをして、重い足を無理矢理に動かした。
「りゅーちゃん!」
急に人の声が降ってきて、俺はぴたりと足を止めた。
一体何事だと、視線を声がした方に移動させると非常階段の四階から三階に下る途中にひとりの生徒の姿があった。
渡り廊下は雨を防ぐための屋根はあるが壁や窓はなく、吹き抜けになっているので周りを見渡すことが出来た。
階段にいるのはツインテールの長髪カワイ子ちゃんだった。
りゅーちゃんって、久賀の事だよな……。
あ、もしかして、コイツの彼女(の内のひとり)かっ!
この場合どうするば良いのか。と悩んでみても、とっくに見つかっているし、逃げるには機動力が無さ過ぎました。
そんな事を考えている間にツインテールさんは、ざっと階段の手すりを飛びこえた。
今日はこんなのばっかりかぁぁぁあ!!!!
結構な高さから、なんの躊躇もなく飛び降りた相手に、恐怖心は生物の本能ではないのか!?っとちょっぴりずれた疑問を抱く。
心の中で叫ぶ俺の頭上で、軽やかな着地音がした。
どうやら屋根の上に着地したらしい。
そして。
屋根の縁をつかみ一瞬だけぶら下がった後、ストンと地面に着地する影。
茶色い髪が、さらりと流れるように動いた。
アクションアクトレス。
「かっくいいー」と一瞬見惚れて、昨日に引き続きショックを受けるわけだが、カワイ子ちゃんの服装はワインレッド・ネイビーチェックのスカート、ではなく同色柄のパンツだ。
ああ、またこの件ですかぃ。女の子よりカワイイ男子が、なぜにうじゃうじゃしていやがるかな、この学校は。
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