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第24話
しおりを挟む出口を見つけられないまま、ぐるぐると同じ場所を迷走する思考。
俺はいったいコイツをどうしたいのか。コイツはどんなつもりで、俺に、き…………す、なんて、しやがったのか……。
特に意味なんてないのか?
あー。うん、たぶん意味なんてない。
ホント手が早いというか、軽いというか、節操なしの極みというか、呆れる。
簡単にヤローとチューなんてするなよ。
相手が女の子ならいいって訳でもないけどさ。
せめて同意を得てからしろよ。
そもそもだ、付き合ってもない相手にするもんじゃないだろ。
俺もしちゃったけど、なんて都合の悪いことはちょっと避けといて……。
あー……やっぱさ、お前の行動の意味がイマイチ理解できないんだけと?不可解な行動に、ビックリして涙も引っ込んだよ?
もしかして、これもビジネスなのか?あとで金を払えよなんて、ヒトの心を抉る台詞を吐いたりしないだろうな、お前。
そろっと顔をあげると、久賀と目があった。
「お、泣き止んだな。よしよし」
なんて満足気な相手に、胸の奥がとくんと反応する。
くそっ、落ち着け。いくら誰かさんの見目が平均値を大幅に上回っていても、ヤロー相手にそれはない。
たぶんアレだ。
屋根からダイブだなんて、平凡人生じゃあ絶対に有り得ない無謀でバカな事をしたから、ちょっと、いや、かなり動揺してるだけで……この不整脈は、間違っても、絶対に、と、トキメキだなんて、そんな厄介なものじゃないから!
ただの吊り橋効果なんだから!
………………うぉぃ。吊り橋効果は違うだろう。
それだと芽生えちゃってるじゃん。
この不整脈がアレだと認めることになる。
うん、冗談じゃない。
(コレは屋根から飛んだせい、屋根から飛んだせいだから。俺は女の子が好きっ!)
心の奥に脈動を乱す感情を無理矢理押し込んだ俺は、取敢えず文句の一つか二つと、三日間も溜めに溜めた不満をぐーぱん……は可哀想だから平手打ちの二、三発でチャラにしてやろう、なんて思いながら唇を開き。
ブブー ブブー ブブー
スマホのバイブ音に阻まれて静止した。
なんだよ、タイミング悪いな。
振動したのは久賀のスマホで、ポケットから取り出して着信を確かめた彼は「あ。サド皇帝さまだ」と意味不明なことを呟いた。
俺の聞き間違いじゃないなら、サドの皇帝と言いましたよね。誰だよ、その恐ろしい名前の人物は……どこのオウサマですか?当然、新潟県は無関係ですよね?
海は荒海、向こうは佐渡よーと、のんきに脳内で北原白秋を再生している場合じゃないようだ。
すくりっと立ち上がって、俺の事なんてガン無視して何処かに行こうとする相手を、片手をつかんで引き止める。
お前。そんなふらふらしながら。
「どこ行く気だよ!」
ついつい、喧嘩腰な口調になる。
いろいろグルグルしてるから、許してほしい。
ま、俺はお前のことぶっ叩くまで許さないけど。
そう、まだ殴ってない。
言いたいことも言えてないし、聞きたいことも山ほどある。
兎に角だ、三日もヒトを放置したくせに、言い訳の一つもないだなんて、ふざけるにも程があるよな?このまま逃がしてなるものか!
俺の意気込みなんてどこ吹く風か…………どうやら、僅か数秒で俺の存在を完全喪失していたらしい久賀は。
「あれ、まだいたの?」
と、ヒトの神経逆撫でてくれました。
め、めげるな俺っ。
こんなことでいちいち傷ついてなんていられない。
平手打ち一回追加で勘弁してやるからさ、久賀さんよちょっと待ちやがれ!
「お前、どこ行く気だよ」
「どこって、お仕事に」
は?
何言ってるのお前。
『学生の本分は学業』などという、立派な主張を掲げるには、ちょっと真面目さが足りなりないから止めておくけど、コイツの仕事の内容を何となくだけど知っていながら『はい、そうですかお仕事頑張って』なんて平気で送り出せるほど、ヒトの道を外れた記憶はない。
もちろん、全力で止める。
「お前、これやったヤツのとこに行く気だろ!ダメだっ、お前死にそうな顔してんだぞ!分かってんのか?」
痛々しい痕が残っている手首。
こんな酷いことをするヤツのところになんて、行かせられるか!
繰り返しになるが、俺は取り立ててボランティア精神が強いわけでも、正義感に溢れているわけでもない。
危険なことは避けて通るし、石橋は一度は叩いてみるものだ。
面倒事に自ら飛び込んでゆく勇気だって、ハッキリ言うと持ち合わせていない。
だけど、これは止めるだろう。
複雑すぎて面倒で危険な臭いだってするんだけど、でも、俺は久賀を止める。
だって、こんなのあんまりじゃないか。
金のために、体や心を痛め付けるなんて、そんなの俺は嫌だ。久賀が辛くて痛い思いをしているなんて、とてつもなく嫌なんだよ。
きゅっと、久賀を掴んでいる手に力を込めた。
見上げる先で、鮮やかな花が咲く。
「違うよ。永野さんに呼び出されたの。ご飯食べさせてあげるからおいでって」
俺の想いなんて知りもしないで、久賀はにこやかに笑った。
俺の痛みなんて知ろうともしないで、偽りをカタチにする。
ああ、ホントに、息をするように滑らかに、お前は嘘をつくんだな。
眩いツクリモノの笑顔を見せる久賀は、言葉を失うほどに格好良くて、息が詰まるほどに悲しかった。
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