うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第17話

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 昨年新しく立てられたら多目的ホールの屋根は、二階の非常階段から渡り廊下の屋根伝いに侵入する事ができる。

 中庭に面した方は危険だが、裏道に面した逆側は人が滅多に通らず、しかも植木の枝や葉が影を作っているため、誰かに見つかる可能性が低いということを知った。

 緩やかな傾斜さえ気にしなければ、絶好の昼寝スポットだと笑う相手をあきれた顔で見た。

 バカと何とかは高いところが好きらしい。
 曖昧にする方を間違っているが、そんなのは些細な事だ。




 四日目にしてようやく学校に来た久賀は、机に鞄を置くなり教室を出て行ったらしい。
 それから一限、二限、三限と、授業をサボった。

 登校してから一限が始まるまでと、休み時間を使って学校中を探したが久賀は見つからず、従兄弟さんに助けを求め、ヤツが隠れていそうな場所を教えて貰ったのは、三限目の休み時間終了間際。

 四限目。授業が自習になったのを幸いと、俺はこっそり教室を抜け出した。


 足音をたてずに廊下をダッシュする。
 二階の非常階段に続く扉を開き、渡り廊下の屋根を睨んだ。

「まるで忍者ごっこじゃねーか」

 非常階段から渡り廊下の屋根に跳び移ると、誰かに見つからないように、素早く静かに進んだ。

 本当にこんなところにいるのかな、と不安になりながら廊下の屋根を渡りきり、ちょうど良い場所に植えられている木を足場に、多目的ホールの屋根によじ登った。

 三階分(※正確には三階と半分ほど)の高さだから、下手な落ち方をしたら大怪我の可能性大。最悪、天国の門を叩くことになる。

 普段使わない筋肉を駆使している所為か、はたまた危ないことをしている緊張の所為か、無駄に息が上がった。
 2メートル程の段差を、どうやって登りやがったあのヤロウと心で悪態つきながら、必死に腕に力を込めた。

 ずり落ちながらなんとか屋根の上に這い上がった時には、心臓はバクバクうるさいし、呼吸はつらいし、手とか足を軽く擦りむいて痛いしで散々だった。

(こ、ここまでして居なかったら、どうしてやろうか)

 凶悪な気分になりながら視線を巡らせると、仰向けに寝転がっている生徒を発見した。

「いたし」

 いた。ちょっと遠い場所だし、日陰になっている所為か表情は分からないが、あの赤い髪は間違いなく久賀龍二だ。

 居たら居たでちっとばっかし腹が立つ。
 こんなところで悠長に寝てる場合か。

 うっし、と小さく頷くと、中庭側から見えないように注意しながら目標に向かって前進だ。
 取り合えず一発殴らせろよあの野郎と、目標に接近しつつ心で闘志を燃やす。

 意図的に足音を消したわけではないが、周りを警戒しているので、動きも自然にゆっくりと静かになった。

 授業をサボるだけでなくこんな危険なことをするのは人生初だ。

(寝てんの、か?)

 側に近づいても、久賀はまったく反応しない。規則正しく、胸が上下している。

(なんか顔色悪くね?コイツ)

 影になっている所為だろうかと、さらに近くに寄って顔を覗き込んだ。

 赤い髪が風をうけて、小さく揺れている。
 髪の隙間から見える額にはうっすらと汗が浮かび、眉が少しだけ苦しげに歪んでいた。

「久賀」

 そっと、呼びかける。
 小さな呻きのような声が唇から漏れた。
 けれど、閉じた瞼が開かれることはなかった。

 どうしよう。と、小さく呟いた。
 絶対に殴ってやろうと思っていたのに、そんな気が徐々に失せていくのを感じた。

(俺は、怒ってるんだぞ)

 そうだ、あんな酷いことをされて、ウソまでつかれて、からかわれて、あしらわれた。

 怒っている、絶対詫びさせてやると息巻いていたのに、なんだよ。

 三日間も学校をサボった「本当の理由」を問いつめてやろうと思っていたのに、何だか体調が良くない相手を目の前にすると、ただただ心配になってしまった。

 しゃがみ込んでもう一度呼びかける。反応しない。
 しばらくじっとして、久賀の顔を見下ろしていた。

 今は瞼の下に隠れた目が、見たいと思った。
 声を、聞きたいと願った。
 伝えたいことがあった。


(俺さ、あんな事をされたのに、お前を憎みきれないんだ……なんでだろう)

 考えている。ずっと考え続けている。
 自分の事、お前の事。
 お前の『バイト』のこと。

 なぁ。話し合おうぜ。

 何も、出来ないかもしれないけど、何もしないでいることも出来ない。

 何でもいい。俺に出来ることはないのか?
 ちっぽけで無駄な努力でも、何もしないで手を離すことだけはしたくないと、そう思ったんだ。

(なんでだろ……俺は)

 答えが出せないまま、ため息が漏れる。
 熱があるのだろうかと、汗が浮く額に戸惑いながらも手を伸ばした。
 その手が触れた瞬間だった。

「っ!!」

 まばたきの間に、天地がひっくり返った。
 
 ドンッという衝撃は、音からワンテンポ遅れて痛みを脳から伝令させたように思えた。
 背中から全身に痺れが駆け抜けた。


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