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第3話
しおりを挟むジト目で睨んでもちっとも効果はない。
いつも通りのおふざけ口調で久賀は言った。
「ちょっとよ、ちょっと。買い物に付き合って、映画見て、ご飯食べて、ホテル行って、にゃんにゃん」
「テメ。ヤる事ヤってんじゃねぇか」
「だって、お金くれるって言ったんだもーん」
悪びれた様子もなく金稼ぎだと告白した。
遊びは遊びでも、お金が絡んだ遊び。
「お前さ、バイトは高校生相手には滅多にしないって言ってなかった?」
「だって森ちゃんは金払いが良いんだもん。龍二さんがお金大好きなこと知ってるでしょ、オガミン」
「オガミン言うな!知ってるけど、犯罪だろう」
売春だろうという正当な主張は、犯罪者が口にしても薄ら寒いだけだ。
目の前の瞳が酷く冷たい色で告げる。
お前がどの口で言うの?と。その通りだ。
体を売る同級生を心配しているわけではない。
身を焦がす嫉妬が、薄っぺらい主張を口にさせる。
情けなくて胃が痛い。
「まぁ、払いが良いつっても所詮は高校生だよな。1日付き合って、2、3万しか稼げないからさ。金持ってそうなおっさんでもひっかけた方が手っ取り早いけどさー……俺、突っ込む方が好きなんだよねー」
「お前、声でけぇよ」
オープンにも程がある。
久賀は誰に聞かれても、誰になんと思われても平気らしい。
無頓着というか、コイツは基本的に他人に興味がない。
人懐っこそうに見えるのも、女の子大好きっ!なんて笑っているのも実は9割が嘘でツクリモノだ。
目的のための手段でしかない。
何時だったかヒトの視線が怖くねぇの?とこいつに聞いたことがある。
ヒトってだぁれ?と返された。
当時、久賀が付き合ってたヤツの名前を出すと、怖くないよとコイツは笑った。
クラスメートの名前を何人かあげたが、答えは同じだった。
なら誰だと怖いのかという質問には意地悪く笑うだけで、答えてはくれなかった。
「ぢゃぁね。そろそろ行くよ」
「ああ。みゆきのコト追いかけるのか」
「ぷっ!あははは!まさか、何で俺がっ、オガミンサイコー」
何が可笑しいのか大笑いされた。
喧嘩した恋人の後を追いかけるのかという質問のドコに、笑いの要素が含まれていただろう?
………いや、馬鹿な質問だったよ。
恋人なんてただの名称だ。
コイツの中ではコイビトもトモダチも等しく同じ。
赤く染めた髪の奥で、黒い瞳がすっと細められた。
肉食獣を思わせる、鋭い眼光だ。
「来るモノ拒まず、去るモノ追わずだぜ、尾上」
執着は自由恋愛の敵だからと意味不明な事を言い残し、久賀が背を向けて歩き出した。
恋愛なんてするつもりも無いくせに、だ。
特別席はとっくに埋まっていて、チケットが売り出される事はない。
カワイイ女の子にも、カッコいい男にも……当然のごとく俺にも、だ。
コイビトもトモダチも等しく、なんの意味もない。
『ヒトってだぁれ?』
『怖くないよ』
誰だったら、コイツを揺るがせることが出来るのか。
にやにや笑いを崩して、嘘で固めた明るさも剥がして、あの雨の日の姿と向き合えるヤツは一体誰なんだろう?
そんなことばかりを思って追いかけて足掻いて、無様に泣いて、答えらしいことを知ってもまだ、往生際悪く、心が叫ぶんだ。
遠ざかる背中なんて、見たくもない。と。
「久賀!」
呼び止めた相手が振り返る。
赤い髪が揺れた。
カッコ良くて、彼にとても似合っていた。
鋭い眼光、少し上がった目尻。
緩く結んだ唇。
「尾上、呼んだ?」
俺を呼ぶ声音。
ぞくりと、背筋を駈けていった痺れを、無視する勇気があれば良かった。
そんな勇気があれば良かった。
「バイト、しねぇ?」
久賀龍二は最低な男だ。
そして、俺も同じくらい最低だ。
「犯罪でも良ければ」
嘘臭い笑みを浮かべる相手に今更だろうと返した。
最低だな。幼なじみの恋人なのに。だけど心のどこかが叫んでいた。
俺の方がずっと好き。
誰にも負けないくらい、俺の方がコイツを想ってる。
誰より想っている。
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