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第57話 不可抗力で変態デビュー。

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 ナジィカさんの身体能力がぱねぇのか、飛び石みたいに僅かに残った足場をうまく使ってすいすいと先に進めました。
 坂谷くんの身体能力じゃ、何回落ちていることでしょう。美人な上、運動神経もいいなんて、不公平だー……と心の中で叫んだところで、あれ?いまは魂だけだから、ナジィカさんの身体能力うんぬんは関係ないんじゃね?ってことに気がついた。
 気づいたせいか……途端に足がもつれて、ドボンと溶岩流に落ちました。

「ぎゃぁぁ!熱い熱い熱っ……俺のあほー!最後まで自分を騙しとけよー!」

 折角いい感じで進んでたのに、バカなの死ぬの!
 ぜぇぜぇ息を切らしながら、陸地に上がり、運悪く炎王が吐き出した炎の直撃を食らった。

「……ガッ……はっ!」

 喉の奥まで炎に焼かれて、息が出来なくなった……いや、坂谷くん落ち着け!そもそも魂は呼吸すんのか?

「いや……呼吸してなかったら、どーやって喋ってんだよってなるじゃん?それにしても痛ぇ、しかも、自然発火しそうなくらい熱ぃ」

 いやー、軽口叩ける自分に、ちょっと感心するね。
 もしいま周りに誰かがいて、俺の心の声が聞こえていたら、きっと緊張感のねぇやつだと思うだろうな。
 けれど、余裕ぶってられたのもそこまでだった。
 煙をあげていた服の裾が、ぼっという音と共に炎に包まれた。
 もーえーてーるぅぅぅ!!
 いぎやぁぁぁぁと悲鳴をあげながら、裾をバシバシ掌で叩くが、火は消えない。何でだよー!このままじゃ火だるまだっ!!
 仕方ねぇ!服を脱ぐしかないっ!と服に手を掛けたところで。

 あれ?魂って服着る必要あんの?

「……あ」

 そんな事を思った俺がバカだった。

「……あ」

 服が焼失……違った、消失した。

「ノォォォォォォォ!!」

 まっぱはねぇだろぉぉぉ!
 原作に、見えそうで見えないギリギリエロティックセクシーナジィカさんが敵地で活躍するシーンがありましたけど、全裸はねぇよ!!
 生まれいでた姿のまま、火の玉が頭上を飛び交う危険地帯で仁王立ちとか、ホント誰得なんですかね?需要はどこだと俺は言いたい。因みに、名誉のために申し上げますと、仁王立ちはしていませんからね!いくら能天気と脳足りんを標準装備している坂谷くんでも、羞恥心は人並みに顕在しております!ただいま局部を隠してもじもじしてます……ってそんなこんなしてる内に足場がぁぁ陸地がっ……くそぉ!
 沈む陸地に、仕方なしにまっぱのまま地面を蹴って、まだマシといえなくもない足場まで移動した。
 恐らくだが、この場所だと『信じる心が力(以下著作権うゆぬんが怖いから省略)』になるみたいですね。やれると信じればやれるし、あると信じればあるんだよ。だったら消えちゃった服も再び出せるはず!

「パンツとシャツでてこーい!も、はだか学ランでもこの際許す!ナジィカさんのカラダなら何でも似合うから取り敢えずなんか着るものっ」

 正直テンパってましたよ、ええ。さすがに無かったわ……。
 詰め襟学ランはねぇな。この顔にそれは、コスプレになるよ。
 スカートの方がまだ似合いそうじゃね?

「いやだからってセーラー服はねぇだろ……しっかりしろ俺」

 だから誰得だ、と、白いセーラー服に紺色スカート姿で項垂れる。そしてなぜ下着が再現されないっ!ノーパンで女装とか、カンペキ変態ですよねバカ野郎。
 唯一の救いはナジィカさんが麗しい容姿をしていることですよ。これが坂谷くんの姿だったら……ひぃっ、考えただけでも恐ろしい……ってっ!

「うわっ……!」

『GRォォオオオオオオオオオオオオ!』

 空を揺らすような鳴き声と、地響き。
 炎王が吐いた炎が、地面に伏せた俺の頭上を横切っていく。
 ちりちりと髪の毛の先が焼けた気がした。いや、気がしただけな!焼けてない焼けてないっハゲとかマジない!
 想像すんな坂谷くんっ!バーコード頭のナジィカさんとか本気で無理だから!ヤベーよこの世界、色んな意味でヤバいっ。このままだと炎王を連れ帰る前に、俺の精神が木っ端微塵になるっ!

「ちょっと炎王!火炎放射はやめてー!!」

 飛んできた火を避けて、地面をごろりと転がる。
 気がつけば、随分と炎王の近くまで来たものだ。
 出来れば服を着替えたいですけど、俺の想像力が貧相なせいで、下着とボトムを用意する前に足場がなくなりそうだ。
 その前に、炎王を取り戻す。
 ぎりっと、歯を噛み締めて頭をあげた。

「え……」

 ごふっーと、あっつい鼻息が顔に当たります。
 巨大な爬虫類、もといドラゴンは、音も立てずに俺の目の前に移動して来たみたいですね。つーか、ちけぇ。そして、でけぇ。ついでにちょぃと迫力がありすぎて、若干、びびる…………。

「え、炎王?」

 も、もしや、俺が分からなかったりします?
 ずずいっと鼻先を近づけてくるドラゴンに、思わず腰が引けた。
 座ったまま大きく後ろに上半身を逸らす。
 無意識に後退り、トンと何かが背中に当たる。あ、これ炎王、の前足?
 ひょぃっと掬い取るように、前足に浚われました。
 眼前でぐわっと開いた口の中には、鋭く尖った牙が並んでおります。
 こ、ここここれってもしや、ムシャムシャされるパターンですか?

「え、炎王!」

 恐怖か混乱か……逃げることも出来ずに体が強張り、徐々に近づいてくる牙に引き裂かれる痛みを想像して、ぐっと目を閉じた。
 とー。

 べろん、びしゃんっと、表現すればいーですかね。
 俺は巨大は爬虫類に、下から上までひと舐めされました。

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