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第46話 走る、歩く、逃げる……痛い
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炎王の前から逃げた俺は、途中から全力疾走しました。
どこまで行っても、どこまで行っても、世界は青い石ばかりで、どれほどの距離を走ったのかはまったくわかりません。
息切れを起こして、走れなくなっても、立ち止まることなく歩き続けた。
見上げる空には太陽が無かった。いや、太陽がなかったらまわりが明るいはずないじゃん、と自分に突っ込みをいれた。
雲の向こう側にあるのか?と目を細めても、よくわからなかった。
雲で覆われているようにも見えないんだけど。
「あー……いまの状態じゃ、まともに見えないか」
あふれてくる涙のせいで、視界は滲んでいる。
瞬きをして水を追い出しても、じわじわとあふれてくる。
りーんと風が悲しげな音を奏でる。
それがまた、何故だか胸に沁みるのだ。
とぼとぼと歩きながら、一体どこにいけばいいのかと途方にくれた。
出口がない。
向こうに戻ろうと思っても、戻り方がわからない。
ああ、ルフナードは無事かな。てっぴちゃんも……心配してるよね。
あ。もしかして……。
「ミソラ」
迎えに来てー!とミソラさんを呼んでみた。助けてー!と呼び掛けて、じっと待つ。
反応は……ありませんね。
うん。無理かぁ。
俺は必死に、ミソラの声が聞こえないかと、耳を澄ませた。
鈴のような風の声に紛れて、僅かな水音が聞こえた。
水の、流れる音か?
もしかして、ミソラさんがいたりする?と、その音を辿るように歩き出す。
なだらかに隆起した坂道を越えると、小さな川が見えた。
川辺には、透明なガラス細工のような花が咲いていた。
風が吹くと花が揺れてリーンと音を奏でた。
ああ、さっきから聞こえていたのはこの花の鳴る音なのか……とすんなり納得した。
花が鈴のように鳴るなんて、冷静に考えれば有り得ないんだけどね。
また、風が吹いて、花が鳴る。
リーンと悲しげに鳴る。
どこか、遠い昔に、聞いたことがあるような、そんな音に少しだけ立ち尽くして、いやいや気のせいだと頭を振った。
花を踏まないように気を付けながら、川辺へと近づいた。
「うわ……」
そろりと水面を覗き込み、そこに映された自分の姿にちょっと息を呑みました。
水が流れている音がするくせに、水面は波紋ひとつ無く、しかも鏡のようにハッキリと俺の姿を映していた。
僅かな青を混ぜた白銀の髪と、涙に濡れた瞳。長い睫毛。切れ長の目。柔らかそうな唇。そして白磁の様に滑らかな肌……って、これはあれじゃね、ヒロインを紹介するときの表現技法じゃね?
「ナジィカさんの顔面偏差値がヤバすぎる件について!」
やべぇ。思わずWeb小説とかでありがちな、タイトルぽいモノを叫んじゃったよ。
それにしても、いったい何事でしょう。どーしてラブリーなお子ちゃまナジィカさんから、美麗で妖艶な大人ナジィカさんになっているんでしょーか。
まぁ、精神が坂谷くんなので、多分、滲み出る存在感や纏っている雰囲気は平凡のそれなんだろーけどな。期待はずれで悪かったですね、ちくせぅ。
ぽたり。
涙が水の上に落ちて、水面に波紋が生まれた。
ナジィカさんは泣き顔もカワイイですねー。中身が俺でほんと残念ですね、ごめんなさ
それにしても、ナジィカさんってば涙腺弱すぎじゃね?
川辺に座り込んでしくしくと泣いてしまいました。そのわりに、頭の中はやけにクリアだったりする。
あー、そーいえば、小説のナジィカさんは滅多に泣かなかったよなー、なんて緊張感のない事を、考えられるくらいには冷静だったりする。ただ、ちょっと、涙腺が俺の意思に反してるだけです、はい。
あれれ、でもナジィカさんはこんなことで泣くようなキャラじゃなかったわけで、じゃぁ、今泣いているのは俺なんですかね?
いやいや、何で俺が泣かなきゃいけないんですかね。自分では結構冷静だと思っているんですよ?冷静に【炎王のバカ野郎】と思っていますよ。
でも俺は炎王が精霊だってことも、精霊が人の愛を理解できないことも知っていたよな。
本のストーリーにそう書かれていたから、知っていた。
炎王とルフナードの魂が融合して、ヒトの心でナジィカを愛したから、彼は神さまよりもナジィカを選んだ。
逆を返せば、炎王が精霊の炎王である限り、彼の一番は神さまで、どんなにあいつに【主】として、大切にされてもそれは神さまの命令でしかない。
不要になったら、邪魔になったら、簡単に無かったことにされる。
メアリーは俺を殺そうとしたとき泣いてくれたけど、炎王はきっと悲しみすら感じないんだろうな。
この先どれだけ一緒にいたとしても、どれだけ大事に想っていたとしても、俺が炎王に愛される事は無い。
「……いや、愛されたいとか思ってんの?」
知らないよそんなの。
ただ、最愛を奪われても許すくらいの想いなんでしょ。
不意に、ナジィカさんの言葉を思い出した。
炎王が心を見てくれなくて拗ねてると、ナジィカさんはいいましたね。そんなの勘違いだって思ってたけど、だんだん否定できなくなってきている俺がいるよ。
そーだな、うん、家族だと思ってる相手に、愛されないのは辛いよな。そうだな、うん、これは家族愛だ。親とか兄弟に抱く信頼と愛情です。
俺にとって頼れる兄とか、父親とか、そんな存在だろ、炎王って。そーだな、兄ちゃんだな、うん。そして俺は兄のように慕っている相手に追いかけて来るなと【命令】してきたわけですね、矛盾してんじゃんよぉ坂谷くん。
思い返せば、結構、好き勝手に命令してきた気もするな。
木の上から落ちかけたロイを助けろとか、ドアをぶち破れだの、吐物を燃やせだの、当然のように命令していましたね。
うん、ダメじゃん。家族っていいながら、家来みたいにあつかってんじゃん。ダメじゃん。
どこまで行っても、どこまで行っても、世界は青い石ばかりで、どれほどの距離を走ったのかはまったくわかりません。
息切れを起こして、走れなくなっても、立ち止まることなく歩き続けた。
見上げる空には太陽が無かった。いや、太陽がなかったらまわりが明るいはずないじゃん、と自分に突っ込みをいれた。
雲の向こう側にあるのか?と目を細めても、よくわからなかった。
雲で覆われているようにも見えないんだけど。
「あー……いまの状態じゃ、まともに見えないか」
あふれてくる涙のせいで、視界は滲んでいる。
瞬きをして水を追い出しても、じわじわとあふれてくる。
りーんと風が悲しげな音を奏でる。
それがまた、何故だか胸に沁みるのだ。
とぼとぼと歩きながら、一体どこにいけばいいのかと途方にくれた。
出口がない。
向こうに戻ろうと思っても、戻り方がわからない。
ああ、ルフナードは無事かな。てっぴちゃんも……心配してるよね。
あ。もしかして……。
「ミソラ」
迎えに来てー!とミソラさんを呼んでみた。助けてー!と呼び掛けて、じっと待つ。
反応は……ありませんね。
うん。無理かぁ。
俺は必死に、ミソラの声が聞こえないかと、耳を澄ませた。
鈴のような風の声に紛れて、僅かな水音が聞こえた。
水の、流れる音か?
もしかして、ミソラさんがいたりする?と、その音を辿るように歩き出す。
なだらかに隆起した坂道を越えると、小さな川が見えた。
川辺には、透明なガラス細工のような花が咲いていた。
風が吹くと花が揺れてリーンと音を奏でた。
ああ、さっきから聞こえていたのはこの花の鳴る音なのか……とすんなり納得した。
花が鈴のように鳴るなんて、冷静に考えれば有り得ないんだけどね。
また、風が吹いて、花が鳴る。
リーンと悲しげに鳴る。
どこか、遠い昔に、聞いたことがあるような、そんな音に少しだけ立ち尽くして、いやいや気のせいだと頭を振った。
花を踏まないように気を付けながら、川辺へと近づいた。
「うわ……」
そろりと水面を覗き込み、そこに映された自分の姿にちょっと息を呑みました。
水が流れている音がするくせに、水面は波紋ひとつ無く、しかも鏡のようにハッキリと俺の姿を映していた。
僅かな青を混ぜた白銀の髪と、涙に濡れた瞳。長い睫毛。切れ長の目。柔らかそうな唇。そして白磁の様に滑らかな肌……って、これはあれじゃね、ヒロインを紹介するときの表現技法じゃね?
「ナジィカさんの顔面偏差値がヤバすぎる件について!」
やべぇ。思わずWeb小説とかでありがちな、タイトルぽいモノを叫んじゃったよ。
それにしても、いったい何事でしょう。どーしてラブリーなお子ちゃまナジィカさんから、美麗で妖艶な大人ナジィカさんになっているんでしょーか。
まぁ、精神が坂谷くんなので、多分、滲み出る存在感や纏っている雰囲気は平凡のそれなんだろーけどな。期待はずれで悪かったですね、ちくせぅ。
ぽたり。
涙が水の上に落ちて、水面に波紋が生まれた。
ナジィカさんは泣き顔もカワイイですねー。中身が俺でほんと残念ですね、ごめんなさ
それにしても、ナジィカさんってば涙腺弱すぎじゃね?
川辺に座り込んでしくしくと泣いてしまいました。そのわりに、頭の中はやけにクリアだったりする。
あー、そーいえば、小説のナジィカさんは滅多に泣かなかったよなー、なんて緊張感のない事を、考えられるくらいには冷静だったりする。ただ、ちょっと、涙腺が俺の意思に反してるだけです、はい。
あれれ、でもナジィカさんはこんなことで泣くようなキャラじゃなかったわけで、じゃぁ、今泣いているのは俺なんですかね?
いやいや、何で俺が泣かなきゃいけないんですかね。自分では結構冷静だと思っているんですよ?冷静に【炎王のバカ野郎】と思っていますよ。
でも俺は炎王が精霊だってことも、精霊が人の愛を理解できないことも知っていたよな。
本のストーリーにそう書かれていたから、知っていた。
炎王とルフナードの魂が融合して、ヒトの心でナジィカを愛したから、彼は神さまよりもナジィカを選んだ。
逆を返せば、炎王が精霊の炎王である限り、彼の一番は神さまで、どんなにあいつに【主】として、大切にされてもそれは神さまの命令でしかない。
不要になったら、邪魔になったら、簡単に無かったことにされる。
メアリーは俺を殺そうとしたとき泣いてくれたけど、炎王はきっと悲しみすら感じないんだろうな。
この先どれだけ一緒にいたとしても、どれだけ大事に想っていたとしても、俺が炎王に愛される事は無い。
「……いや、愛されたいとか思ってんの?」
知らないよそんなの。
ただ、最愛を奪われても許すくらいの想いなんでしょ。
不意に、ナジィカさんの言葉を思い出した。
炎王が心を見てくれなくて拗ねてると、ナジィカさんはいいましたね。そんなの勘違いだって思ってたけど、だんだん否定できなくなってきている俺がいるよ。
そーだな、うん、家族だと思ってる相手に、愛されないのは辛いよな。そうだな、うん、これは家族愛だ。親とか兄弟に抱く信頼と愛情です。
俺にとって頼れる兄とか、父親とか、そんな存在だろ、炎王って。そーだな、兄ちゃんだな、うん。そして俺は兄のように慕っている相手に追いかけて来るなと【命令】してきたわけですね、矛盾してんじゃんよぉ坂谷くん。
思い返せば、結構、好き勝手に命令してきた気もするな。
木の上から落ちかけたロイを助けろとか、ドアをぶち破れだの、吐物を燃やせだの、当然のように命令していましたね。
うん、ダメじゃん。家族っていいながら、家来みたいにあつかってんじゃん。ダメじゃん。
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