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第31話 深層世界での対話・互いの影響

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「ナジィカさん俺の記憶を見たの?」

 尋ねると"さっきからそう言ってるでしょ"って顔をされた。スミマセンね、理解力の足りない阿呆で。
 どうやら現実の俺だけでなく、こっちにもプライバシーの権利は無いらしいですよ、くすん。
 あとさ、どこまで把握されたのでしょうか?エロ本おたからの中身がバレるのはちょっと打撃です……。
 んん?俺の記憶が読めるなら、ひょっとして。

「あのさ、俺の家族とか彼女の名前とかって分かったりする?」

 もしかして、なんて少しの期待を籠めてナジィカを見た。
 しばらく無言で見つめ合い、やがてナジィカは静かに首を横に振った。

「そっか」

 そうか。やっぱり、無理か。
 ふぅ、と自然と息が漏れる。

「悲しい?」

 家族の名前や沢山あったはずの過去が思い出せなくて、悲しい……?そう、ナジィカの目が問いかけてくる。

 うん、そりゃぁモチロン……悲しいけどね、それでも絶望はしてないんだよ。

「覚えてないけど、過去の俺の家族は過去の俺が精一杯愛しただろうから、それでいーや。俺はそー信じて、今の俺の家族を全力で愛したいと思います」

「……それは炎の精霊王の事を言ってるの?君は本当に物分かりが悪いんだね」

 それはマジで申し訳ない。
 でもさ、ナジィカさん、俺、ちょっと思ったんだけどさ。

「例えば順番が違ってたり、別の誰かだったらどーなってたのかなぁ」

「なにがだい?」

「えーと例えばさ。あの夜、メアリーを殺したのが、えーと、王さまだったら?」

「君は何を言ってるの?」

 意味が分からないという顔をするナジィカに「例えばだよ、想像してみて」と彼にお願いする。

 例えばあの夜、乳母を殺めたのが息子を助けようとした父親だったら?
 炎王を憎むように、王さまを憎んだ?

「……父上は関係ないだろう。あの日、あの場所に居たのは僕とメアリーと炎の精霊王だ」

「ナジィカを愛してるってところは、炎王も王さまもおんなじだと思うけどな」

「全く違うだろ!父上は家族として僕を慈しんでくれているが、炎の精霊王は双子神の命令に従ってるだけだ!」

 んーやっぱ一筋縄じゃ行かない……って、んんー?
 あれ、なんか、引っ掛かったぞ。

「えっと、仮に万が一、有り得ないはなしだけど、メアリーさんを殺めたのが俺たちを助けようとした王さまだった場合、ナジィカは王さまを許せた?」

 尋ねてみたが、答えは分かっている。
 俺はナジィカでもあるからね。
 ぎこちなく頭を撫でる王さまの手を知っている。和解してからは、惜しげもなく注がれる愛情に気づいている。
 だから、ナジィカの答えは。

「…………すごく悲しくはあるだろが、今の僕に父上を責める事は出来ないだろう」

 そうなるよね。
 本の中のストーリーとは違う現実を生きる俺たちは、例えこの先、王さまが国の為に俺たちを切り捨てるような決断を下したとしても、王さまを憎むことは出来ないだろう。
 本の中の黒鷹のように、父親に手をかけることは無いだろう。
 つまり、未来は変えることが出来る。
 だったら、炎王とナジィカが和解することだって。

「それはないっ絶対にないっそれだけは許さない」

「だからそれがわかんねぇーんだよ。炎王がナジィカが大事で、守ろうとしたことに変わりないだろ?」

「だから!なんども言ってるだろう!炎王が僕を助けたのは、父上のように僕を愛しているからじゃなくて双子神がそう望んだからだ!アイツにとって重要なのは魂の質だけだ!魂が特別で大事だとアイツに何度も言われただろう?僕の人格なんてアイツはどーでもいいんだよ。関係ないんだ!ただ、魂が特別製なら僕じゃなくてもいいんだ!」

 ナジィカが肩で息をしている。
 精神世界?でも息切れって起こるんだねーなんてズレたことを思いながら、それってさ?と相手に投げ掛けた。

「なんか、炎王が自分の見せ掛けだけを重要視して、心を見てくれないんだって拗ねてるように聞こえるんだけど?」

 俺の指摘にナジィカが固まった。
 迷子になって途方にくれる子どもみたいな顔をして、それから「そう思ってるのは君でしょう」と言った。

 え?と俺は首を傾げる。
 そして、ナジィカの言葉を反芻する。

 俺が思ってる?
 なにを、思ってるって?

「最悪だ……君のせいだ。君が炎の精霊王を信頼して愛したりするから、君である僕までおかしくなって彼を許したくなるんだ」

「えっ?あ、愛っ?はっ?いやいやいや何いっちゃってんのナジィカさん!信頼と愛は別物だよ!その愛ってなにさ、家族愛?ラブじゃなくてライクの方?そうだよね?ね?ね?」

「知らないよ、そんなの。ただ、最愛メアリーを奪われても許すくらいの想いなんでしょ。僕はもう疲れたから、後は自分で考えて」

「ちょっと待ってちょっと待って!見捨てないでナジィカさん!炎王をディスってたさっきまでのハイテンションはどこに行ったの!!年に似合わないクールなおこちゃまより、ちょっと生意気で無邪気な君が大好きです!」

「もともと僕は年齢に似合わないクールなおこちゃまなんだよ。さっきまでの僕が異常なの。君が僕に引っ張られたように、僕も君の感情に引っ張られた」

 えっ?つまり、ナジィカさんの感情に引っ張られて炎王に暴言吐いちゃった俺みたいに、ナジィカさんも俺の感情に引っ張られたってこと?
 つまり、さっきのナジィカさんの発言は……俺の心の声に基づいていたりします?

 えっと、それは、つまり。
 なんと、もうしますか。
 炎王が心を見てくれないんだって、俺が思ってるって事ですか?
 いや、そんなバカな。

「ないからー!!それはないっ絶対にないっそれだけはぁー!」

「うるさいな。メアリーと眠るんだから、さっさと現実に戻って、死亡ルート回避に勤しんでよ」

 げしっとお尻を蹴り飛ばされて、追い出された。
 ナジィカさんの鬼!悪魔!ゲロ鷹王!

 ……止めよう。自分の精神がダメージをおっただけだった。
 くそぅ。

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