金魚のいるお手洗い

くろねずみ

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柚月

事件

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少しだけ飲み過ぎた。
パーティーの雰囲気に呑まれ、飲み過ぎた。とはいえ、アルコールに弱いわけではないし、酔い潰れるような心配はない。
むしろお酒に強いことで可愛げないと思われることが心配なくらい。

それはともかく、必要以上の液体を身体に入れたのだから、トイレに行きたい。
普段、こういうときにトイレを我慢する派ではある。中座して場を止めるのも悪いし、オシッコをするところを想像される気がして嫌だった。

とはいえ、膀胱が痛くなるまで我慢するようなことはもうない。必死に耐えるような状況から限界突破はいきなりやってくる。


社会人となり、男性の上司にお洒落なバーに誘われたときのことをふと思い出した。
口当たりの良いカクテルを飲み過ぎて。
「酔わせようと思ったのに」
などと冗談を添える彼。仕事の失敗で必要以上に落ち込んでいないか心配してくれていた彼。

トイレに立つタイミングがわからない。わからないから行けない。彼がトイレに行くとき一緒に行こうと決めていたけど。
そのときは来なかった。
我慢も限界が迫り、受け答えがあやふやになった。

自分としてはトイレに行けない、他人から見ればトイレに行かない状況。
送ると言う彼の申し出を拒否して電車に乗り込み、周りが次に会うこともなさそうだということを言い訳に手を添えて。

次の駅で降りた頃にはもう出口に殺到している感じがあった。本能的に今までと違う場所に力を込めている感。

自分にもう少しだからと言い聞かせて、最後の力を込めて閉じ合わせているはずのそこが開く。
溢れ出たぬるま湯が靴の中に溜まる。
屈辱の水溜りが足下に。

子供のように泣きながら帰った記憶がある。帰り道のことは覚えていない。
けど、別の場所に力を込めた感覚は鮮明に覚えている。

その段階になってしまったら猶予はない。数分といったところか。

金魚のいるトイレをチラッと見て、まだ大丈夫だけど。
多分まだ大丈夫だけど、最後まで我慢できないならした方が良いかも知れない。
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