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花霞の中に見える君の顔
17-4
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保健室に同行し、漸く一息吐く。たった数分間の出来事だったが、非常に慌しかった。
しかし、倒れていたのが穂希じゃなければ、こんなにも激しく動揺することは無かっただろう。
椿は息を殺して、カーテンの隙間を覗き込んだ。
教師が駆けつけた頃には穂希の呼吸も落ち着き、本人が救急車は不要だと判断した為、現在彼は普段と同じようにベッドで眠っていた。
穂希の無事を見届けて、保健室を出る。だが、すぐに引き返してしまう。
やはり、彼のことを放っておけない。
ベッドの近くに置きっぱなしになっていた丸椅子に腰を掛けて、椿はあらためてその姿を凝視した。
――――明らかに、傷が増えている。
決して錯覚などではなかった。何故なら、顔や首、手の甲、手指といった誰が見ても分かるような場所に、生傷や創痕があったからだ。
くっきりとした切創も、広範囲に滲んだ痣も、古い傷が治る前に重ねて付けられたものと見受けられる。
絶望感が胸に流れ込み、椿は思わず背中を丸めた。布が擦れる音がしたのは、ちょうどその時だった。
「椿、居てくれたの?」
嬉しい、と穂希が微笑む。
一方的に突き放し、逃げた相手に向けるものとは思えない笑顔に、寧ろ心苦しくなる。
「会いたかった」
穂希は上体を起こし、傷だらけの手を伸ばした。素直に彼を迎え入れる事が出来ずに、口を結ぶ。
「……傷作って待ってたよ」
囁くほどの声が頭の中に鐘の如く響き、ドキドキと心臓が鳴った。心音に寄り添うように、穂希は椿を抱き寄せた。
「穂希君……もう、こんな事やめて……」
「前みたいに喜んでくれないの?」
何を言うでもなく、ただ首を横に振って、穂希をゆっくりと押し退ける。
――――傷は魅力的に映るのに、心はこのまま死んでしまうんじゃないかと思うくらいに苦しい。
カーテンの内側が、静寂に包まれた。
そこへ、テンポの速い足音が近付いてくる。
「お兄ちゃん、葉月だけど入っていいかな」
歩調とは裏腹に、葉月は最大限に声量を沈めて言った。恐らく、まだ眠っているかもしれないという配慮から、自然と声が小さくなったに違いない。
何事も無かった風を装って、カーテンを翻す。
視界にちらついた憂いに満ちた表情を、無数の生傷が際立たせていた。
しかし、倒れていたのが穂希じゃなければ、こんなにも激しく動揺することは無かっただろう。
椿は息を殺して、カーテンの隙間を覗き込んだ。
教師が駆けつけた頃には穂希の呼吸も落ち着き、本人が救急車は不要だと判断した為、現在彼は普段と同じようにベッドで眠っていた。
穂希の無事を見届けて、保健室を出る。だが、すぐに引き返してしまう。
やはり、彼のことを放っておけない。
ベッドの近くに置きっぱなしになっていた丸椅子に腰を掛けて、椿はあらためてその姿を凝視した。
――――明らかに、傷が増えている。
決して錯覚などではなかった。何故なら、顔や首、手の甲、手指といった誰が見ても分かるような場所に、生傷や創痕があったからだ。
くっきりとした切創も、広範囲に滲んだ痣も、古い傷が治る前に重ねて付けられたものと見受けられる。
絶望感が胸に流れ込み、椿は思わず背中を丸めた。布が擦れる音がしたのは、ちょうどその時だった。
「椿、居てくれたの?」
嬉しい、と穂希が微笑む。
一方的に突き放し、逃げた相手に向けるものとは思えない笑顔に、寧ろ心苦しくなる。
「会いたかった」
穂希は上体を起こし、傷だらけの手を伸ばした。素直に彼を迎え入れる事が出来ずに、口を結ぶ。
「……傷作って待ってたよ」
囁くほどの声が頭の中に鐘の如く響き、ドキドキと心臓が鳴った。心音に寄り添うように、穂希は椿を抱き寄せた。
「穂希君……もう、こんな事やめて……」
「前みたいに喜んでくれないの?」
何を言うでもなく、ただ首を横に振って、穂希をゆっくりと押し退ける。
――――傷は魅力的に映るのに、心はこのまま死んでしまうんじゃないかと思うくらいに苦しい。
カーテンの内側が、静寂に包まれた。
そこへ、テンポの速い足音が近付いてくる。
「お兄ちゃん、葉月だけど入っていいかな」
歩調とは裏腹に、葉月は最大限に声量を沈めて言った。恐らく、まだ眠っているかもしれないという配慮から、自然と声が小さくなったに違いない。
何事も無かった風を装って、カーテンを翻す。
視界にちらついた憂いに満ちた表情を、無数の生傷が際立たせていた。
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