蒼い春も、その先も、

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冷たい春雷

16-3

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 夏休みに入ってからも、葉月は変わらず穂希の自宅に足を運んだ。むしろ、その頻度は増しているように思える。恐らく、“夏休み”を利用して母親を騙し込んでいるのだろう。

 兄として、人間としての罪悪感に苛まれるが、精一杯の笑顔を作り上げる。

「夏休みまでいいよ。こんな時くらいは友達と遊びなよ」
「私が来たいの」

 葉月のきっぱりとした返答に穂希は閉口した。

 何も返す事が出来ないまま会話が終わる。複雑な心境になりながらも、穂希は彼女と昼食を摂る為に机上を片付け始めた。

 片付けると言っても、ゴミを屑篭に入れて、物を机の下やベッドの上に置くだけの作業だ。

 惰性的に手を動かしていると、あるものが目に付いた。
 ずっと放置していたノートだ。
 それは、椿との勉強会をきっかけに作ったものだった。

 急に寂しさが込み上げる。
 傷が消えて、薄くなる程に、椿と言う存在が遠ざかってゆく気がする。

 誰にも必要とされない、ただ生きているだけで迷惑な人間になってしまう――――。

「お兄ちゃん!? なんで泣いてるの!?」

 葉月の声が飛び込み、ハッとして顔を上げる。彼女の戸惑う顔が、角膜にすりガラスを貼り付けたかのようにぼやけている。

「うわ、ごめ……ごめん」

 穂希は無造作に両目を擦った。肌に、熱い雫が付着した。
 自分で自分のことが分からなくなるという久方振りの感覚に、混乱する。 

 情けない、申し訳ないという言葉だけが、頭の中に反響していた。
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