蒼い春も、その先も、

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花嵐に消えてゆく

15-1

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 夏休み初日、日盛りになった頃、呼び鈴が鳴った。

 散らかった部屋を見回し、カーディガンを探す。散乱した部屋に紛れているのか、なかなか見つからない。かと言って、他人の目に醜い肌を晒す勇気も無かった。
 居留守を使おうとベッドに座り掛けた時、玄関から声がした。

「お兄ちゃん、私、葉月だよ」
「……葉月か」

 胸を撫で下ろし、半袖のままドアを開ける。
 在り来たりな挨拶をした葉月の表情が、一瞬にして硬直した。

「どうかした?」
「……その腕……」

 葉月の怯えた瞳は、ズタズタに切り裂かれた左腕を映していた。

 最後に傷をつけたのは5日ほど前だが、量が夥しく、そのどれもがグロテスクな傷跡に変わっている。

 晒された腕を埋め尽くす切創から、彼女は黙って顔を背けた。

「葉月、大丈夫だよ。いつものだから。とりあえずあがって」

 居間に招き入れ、飲み物を淹れる為キッチンに向かう。葉月も後に続き、冷蔵庫の前で食材の入ったバッグを下ろした。

「買い物いつもごめんね。片付けは俺やるから……」
「やっぱりお兄ちゃん、二年生になってからリスカ酷くなったよ」

 囁くほどの声だが、明らかに怒気を含んでいる。敢えて気付かないフリをして、穂希は素知らぬ風を装って答えた。

「気のせいじゃない?」
「絶対気のせいなんかじゃない。来るたび増えてるもん」

 断定的な口調に、もう誤魔化せない事を悟る。振り向くと、葉月は俯き体を震わせていた。

「私怖い。お兄ちゃんが私の知らないうちに死んじゃいそうで不安なの」

 彼女の不安心が骨身に染みる。これほどまでに率直な言葉を易々と無視することは出来ない。しかし、なんと返せば正解になるのかも今の穂希には分からなかった。

「やっぱり私、お兄ちゃんと一緒に……」
「そんなのお母さんが許すわけないよ」

 思わず遮ってしまい、ア、と声が漏れる。動揺している葉月は普段の冷静さを忘れ、語調を強めた。

「嘘吐いて、ばれないようにするよ!」

 不毛な会話に終止符を打つため、穂希は彼女に近付き、その肩に手を置いた。

「……そんなことしたら葉月まで俺みたいな目に遭う。それは絶対に駄目だよ」

 はっきりと言い放ち、食材の片付けに取り掛かる。
 腑に落ちない様子ではあったが、葉月も一息吐いて穂希を助力した。
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