蒼い春も、その先も、

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春意の気配に身を委ねて

11-3

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 内玄関に入るなり、椿が会わなかった日々の寂しさを埋めるようにもう一度キスをする。

 椿の早熟した理性が呆気なく崩れる瞬間が、穂希は好きだった。

 少しでも期待に応えようと、僅かに濡れた肩を抱いてみる。彼は唇を離すと、弱弱しく穂希を抱き寄せた。

「寂しかったよ。もう来てくれないのかと思った」

 椿の胸に身を預け、本音を零す。規則的で激しい鼓動が、耳を擦り抜けていく。

「……そうしようとも考えたんだけど、出来なかった」
「それで良いよ。俺待ってたんだから。……上がっていって。久し振りに会ったんだから何か話そう」

 漸く抱擁を解いた頃には、雨で冷えた互いの体は仄かに熱を帯びていた。




「傷増えた?」

 訊ねられて、穂希は無意識に手首を見遣った。雨で濡れた部分が透けて、傷跡が浮き出ている。

「ん、ちょっとね」
「……まさか、僕の為とか」

 そう言われて押し黙る。だがすぐに、柔和な笑みを作った。

「違うよ。ちょっと嫌な事があるとすぐやっちゃうから」
「そっか」

 あっさりと受け入れた椿だったが、納得していないことは見え透いていた。

 敢えて訂正はしない。訂正をすれば、また椿が自分を責めるからだ。
 もしそれが嘘でも真実でも、椿の為だとは絶対に言いたくはなかった。

「それより聞いてよ。今回追試じゃなかったんだ。多分高校入って一発で合格したのは初めてだよ」
「凄い。おめでとう」
「椿のおかげだよ」

 目が合うと、無意識のうちに顔を寄せ合い、再び口付けを交わした。

 胸が躍動することも、嫉妬することもない。
 けれど椿が愛してくれるなら、この関係をずっと、ずっと続けていきたい。

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