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春意の気配に身を委ねて
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午前の快晴から一変し、次第に雨脚が強くなってきた。
雨の日は、特に頭痛が酷くなる。憂鬱な気分で昇降口に向かい、椿は下駄箱に手を掛けた。
「あれ? 珍しいねー下校時間被るの」
背後から声を掛けたのは、先程まで友人とガールズトークに花を咲かせていた千冬だ。
二人並んで、陰気な空を見上げる。
「結構降ってるなぁー……椿、傘持ってきた?」
「持ってきたよ」
「さすが。私も折り畳み傘持ってるけどね~」
得意気に笑い、千冬はスクールバッグから取り出した折り畳み傘を広げた。セキセイインコのイラストが描かれた、可愛らしい傘だ。
途中までは帰途が同じである為、ごく自然に爪先は同じ方向を向いた。
「……椿?」
慣れ親しんだ声がして、思わず立ち止まる。釣られて、千冬も歩みを止めた。振り向いた先には、穂希が立っていた。
「……今帰り?」
「ま、まぁ」
「もしかして傘ないの?」
「うん、降るの知らなかったから」
白々しい空気が言葉を奪う。だが、雨の中をひとり帰らせるのも、心苦しかった。
一考し、千冬の方に向き直る。
「千冬、僕穂希君と一緒に帰るよ」
意想外だったのか、千冬は目を円くした。
「方向一緒なの?」
「方向は一緒。でもちょっと遠回りすることになるから、千冬はいつもの道で帰りなよ」
身長差が自然と千冬を上目遣いにする。その目は何となく、訝っているようにも見えた。
「もしかして仲間外れにしようとしてるー?」
「そんなことないって!」
椿の焦る表情を見届け、千冬は悪戯っぽく笑った。
いつもの“冗談”だったことに、胸を撫で下ろす。
「……一人なら走って帰るかぁ」
「危ないからやめときなよ」
「大丈夫だって! じゃあね椿! 穂希くんもまたねー!」
彼女は勢い良く駆け出した。遠ざかってゆく姿に手を振って、椿たちも学校を後にした。
雨の日は、特に頭痛が酷くなる。憂鬱な気分で昇降口に向かい、椿は下駄箱に手を掛けた。
「あれ? 珍しいねー下校時間被るの」
背後から声を掛けたのは、先程まで友人とガールズトークに花を咲かせていた千冬だ。
二人並んで、陰気な空を見上げる。
「結構降ってるなぁー……椿、傘持ってきた?」
「持ってきたよ」
「さすが。私も折り畳み傘持ってるけどね~」
得意気に笑い、千冬はスクールバッグから取り出した折り畳み傘を広げた。セキセイインコのイラストが描かれた、可愛らしい傘だ。
途中までは帰途が同じである為、ごく自然に爪先は同じ方向を向いた。
「……椿?」
慣れ親しんだ声がして、思わず立ち止まる。釣られて、千冬も歩みを止めた。振り向いた先には、穂希が立っていた。
「……今帰り?」
「ま、まぁ」
「もしかして傘ないの?」
「うん、降るの知らなかったから」
白々しい空気が言葉を奪う。だが、雨の中をひとり帰らせるのも、心苦しかった。
一考し、千冬の方に向き直る。
「千冬、僕穂希君と一緒に帰るよ」
意想外だったのか、千冬は目を円くした。
「方向一緒なの?」
「方向は一緒。でもちょっと遠回りすることになるから、千冬はいつもの道で帰りなよ」
身長差が自然と千冬を上目遣いにする。その目は何となく、訝っているようにも見えた。
「もしかして仲間外れにしようとしてるー?」
「そんなことないって!」
椿の焦る表情を見届け、千冬は悪戯っぽく笑った。
いつもの“冗談”だったことに、胸を撫で下ろす。
「……一人なら走って帰るかぁ」
「危ないからやめときなよ」
「大丈夫だって! じゃあね椿! 穂希くんもまたねー!」
彼女は勢い良く駆け出した。遠ざかってゆく姿に手を振って、椿たちも学校を後にした。
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