蒼い春も、その先も、

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恋の中の花曇り

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 駄目だと分かっていても、傷や病的な姿を見ると興奮してしまう。

 こんなことを繰り返していたら、穂希が死ぬ可能性だってある。心底は昂っているのに、それを恐れている自分がいる。

 何故、世間で言うところの“普通”になれなかったのだろう。
 何故、傷なんかに魅力を感じるのだろう。
 何故、僕は。

 バサッ。その音に、ハッとなる。
 持っていた本が、右手を擦り抜けて床に落ちていた。

「今バイト中ですよー」

 本を先に拾い上げたのは、松原千冬だ。
 近くで陳列の業務にあたっていた彼女は、本を椿に手渡すことなく、そのまま棚に終い込んだ。

「椿さぁ、最近ボーっとしてること多くない? 何かあった?」
「何もないよ」

 業務を再開するフリをして逃亡を試みるも、『これ手伝って』という台詞に首尾よく阻止される。
 もちろん、会話が終わるはずも無かった。

「絶対何かあるでしょ。何ー? もしかして恋?」
「……違うよ」

 知りたがり屋の千冬は、横目で怪しげに椿を睨んだ。

 彼女の人の悩みを気にする性格は役立つ事もあるが、ちょうど今のように、裏目に出ることもある。

「勉強……は違うか。この間のテストも満点だったもんね」
「うん、だから本当に何も無いって」
「ふーん……怪しいー」

 目を合わせなくとも、千冬の追求心はありありと伝わってきた。
 椿は彼女の視線をかわしながら、早くこの状況を抜け出す事を願うばかりだった。
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