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歪む朧月
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三回目の呼び出し音で電話口に出た葉月の「もしもし」と言う声には、薄い呼吸音が混じっていた。直後に聞こえたドアを閉める音で、彼女が一階から二階の自室へと駆け上がってきたことを察知する。
「……今大丈夫?」
「ちょっとなら大丈夫だよ」
葉月が母親を気にしている事はすぐに分かった。なるべく手短に終わらせる為、早速本題に入る。
「椿から聞いたよ」
「あ、あの、ごめ……」
「葉月は謝る必要ないよ」
敢えて謝罪を遮ると、彼女の言葉尻は力なく消えていった。
「葉月は悪くない。……悪いのは俺なんだ」
「そんなことないよ!」
大声を出した後に、ハッと口を押さえる気配がする。悲痛な訴えが、心の底に漠然とした痛みを沈めてゆく。
「……とにかく自分を責めないで。この間のはただの時期的なものだよ、今は治ったから安心して」
「……うん。電話ありがとね、声聞けてよかった。お母さん来そうだから切るね」
穂希が返事をすると、速やかに電話が切れた。
自分の所為で、彼女までもが母親の存在に怯えている事実に胸が引き裂かれそうになる。
スマートフォンを手中から放り出して、穂希は枕に顔を埋めた。
「……今大丈夫?」
「ちょっとなら大丈夫だよ」
葉月が母親を気にしている事はすぐに分かった。なるべく手短に終わらせる為、早速本題に入る。
「椿から聞いたよ」
「あ、あの、ごめ……」
「葉月は謝る必要ないよ」
敢えて謝罪を遮ると、彼女の言葉尻は力なく消えていった。
「葉月は悪くない。……悪いのは俺なんだ」
「そんなことないよ!」
大声を出した後に、ハッと口を押さえる気配がする。悲痛な訴えが、心の底に漠然とした痛みを沈めてゆく。
「……とにかく自分を責めないで。この間のはただの時期的なものだよ、今は治ったから安心して」
「……うん。電話ありがとね、声聞けてよかった。お母さん来そうだから切るね」
穂希が返事をすると、速やかに電話が切れた。
自分の所為で、彼女までもが母親の存在に怯えている事実に胸が引き裂かれそうになる。
スマートフォンを手中から放り出して、穂希は枕に顔を埋めた。
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