蒼い春も、その先も、

Rg

文字の大きさ
上 下
27 / 88
イタズラは桜色

4-5

しおりを挟む
「ねぇ椿。こういうの見ると、ドキドキする?」

 視線が絡み合う。
 ドラマや映画なんかでよく見かける、好意を寄せている異性の言動にどぎまぎする、そんな顔をしている。

「……ご、ごめん」
「いいよ、謝らなくて」

 椿に良心の呵責があることを、穂希も分かっているつもりだった。
 しかし、無意識に傷を求める彼を見ていると、もっと先の方へ踏み込みたくなってしまうのだ。

「リスカの痕、見たい?」

 意地悪な質問に、椿は再び視線を逸らした。

「……穂希君、嫌じゃないの?」
「椿が嬉しいなら嫌じゃないよ」

 寧ろ、椿になら見てほしい。

 出かけた言葉を飲み込んで、穂希は明確な返事を聞く事の無いまま袖を捲った。
 夥しい線状の傷が、照明の元に晒される。青白い素肌は、隙間無く刻まれた切創によって赤みがかっていた。
 椿がごくりと唾を呑む音が、微かに聞こえた。

 暫くの間、愛おしそうな眼差しで見据えていた彼は、溜め息にも似た息を吐いて俯いた。

「……ダメだよね、こんなこと」
「ダメじゃないよ。俺たちが良ければ多分、良いんだよ」

 そう言って、取り分け創痕の酷い左腕を差し出す。

「……椿、触って?」
「え、あ、……手、洗って……」
「そのままで良いよ。生傷じゃないし、大丈夫」

 椿は一度穂希の顔を窺ってから、震える指先を傷跡に伸ばした。
 痛覚の鈍った皮膚に、微かな感覚が伝わる。

 ――――多分、恋人同士が二人きりで居たら、ハグやキスなどのスキンシップで愛情を深めるのだろう。
 付き合うとは、一体どういうことなのか。

 ひとり思量するが、椿の恍惚とした面差を見ていたら、そんな事はどうでもよくなっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

空は遠く

chatetlune
BL
素直になれないひねくれ者同士、力と佑人のこじらせ同級生ラブ♥ 高校では問題児扱いされている力と成績優秀だが過去のトラウマに縛られて殻をかぶってしまった佑人を中心に、切れ者だがあたりのいい坂本や落ちこぼれの東山や啓太らが加わり、積み重ねていく17歳の日々。すれ違いから遠のいていく距離。それでもやっぱり惹かれていく。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

処理中です...