蒼い春も、その先も、

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イタズラは桜色

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 今月の通院を終えた穂希は、薬袋の入ったビニール袋をぶら下げ、帰路についた。

 他人と同じ空間に居たことによる疲労感で、足取りが鈍くなる。春の心地好い気候だけが、今の彼の救いだった。

 遅々と歩いていると、横目に見慣れた人影を捉える。椿だ。ほぼ確信していた穂希だったが、人違いだという事も疑い、さり気無く顔を覗き込んだ。

「あ、やっぱり椿だ」
「わ! 穂希君!?」

 驚く椿に微笑み、横並びになると、穂希は改めてその姿を注視した。

 普段の印象を微塵も損なうことのない、清楚な装いをしている。私生活まで“優等生”なのかと、思わず感心してしまう。

 視線を下ろしていくと、手には、穂希と同じビニール袋を持っていた。

「……椿、どっか悪いの?」
「あぁ、僕ね、軽い頭痛持ちで」
「そっか、大変だね」
「……それにしても、こんなところで会うなんて奇遇だね。声掛けてくれて嬉しかったよ」

 丁寧な発声に似合わない、子供っぽい笑顔だ。

 誠に不思議な話だが、椿の嬉しそうな顔を見ていると、彼の恋愛対象が本当に自分という人間である事を実感出来る。

 夢見心地も、たまには悪くないようだ。

「穂希君、この後予定ある?」

 不図問い掛けられて、即座に首を横に振る。すると、椿の表情がパッと輝いた。

「それだったら、うちに来ない? 今日僕バイト休みなんだ」

 穂希は同級生の家に行った経験が無かった為、些か躊躇ったが、断る理由を探す気も無かった。

 彼の提案を快く受け入れると、二人は並んで歩き出した。
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